第4章15話「それぞれの悲願」
本当は知っていたの
永遠なんて存在しないって
本当は気づいていたの
あなたはもう戻らないって
本当は分かっていたの
約束は果たされないって
でも信じたかったのよ。もう一度だけでよかった。あなたに会いたかったの…
「グオオオオ…」
「なんでイルマさんが竜に!?こんな意志、望んでない!」
竜は口からヨダレを垂らしている。
「イルマさん……?私のことが分かりますか?」
ゆっくりと後退りしながら、彼女に語りかけた。
「グギャオォ!」
竜の言葉を叫ぶと、ヨダレが辺りに飛び散った。
次にギラリとした青い瞳を私に向けると、竜は大きな爪を振りかざした。
「っっ!」
私は大理石の床に飛び込み、間一髪でそれをかわす。思いっきり膝を打ち付け、ジーンとした痛みが全身に走った。
しかし、獲物を見つけた獣は止まらない。
今度は鱗に覆われた大きな尾を振った。今度は避けきれずに、私の顔面を強打する。
「うっっ!」
固い鱗が頬に触れたと思った次の瞬間、私は床に転がっていた。
鋭い痛みと共に、口の中は血の味でいっぱいになる。鼻からツゥっと血が垂れて、ポタポタと床を汚す。
言葉の通じない、己以外の生物を認めない獣……。
今までの、どの瞬間よりも、死を感じる。
(私、死ぬ……の?)
すると本能で、体が勝手に動いた。
痛みはどこかへ去り、スッと立ち上がる。そして、手を挙げて狙いを定めた。
狙いの先はイルマではなく、修復された竜の骨のレプリカだ。
「テサ・タリアっ!!」
練習の甲斐あってか、"意味"が正しく発動し、骨は大きく揺れ動く。
「カランカランっ!」
骨は生き物のようにうねり、音を立てた。
「グルルル……」
するとイルマは竜の骨のレプリカに顔を向け、走り出す。
イルマは躊躇することなく、骨にぶつかった。
「ガッシャーンっ!!」
修復された骨は、再びバラバラになって床一面に転がり、大きな音を立てた。
骨のいくつかはイルマの顔に当たり、不快に思ったようだ。頭を左右に振っている。
「グギャォォォ!!」
「今しかない。チャンスは一度きりだ……」
背筋を伸ばし、垂れる鼻血を袖で拭き取る。
そして竜に向かって穏やかな口調で言った。
「イルマさん、もう一度、人として話をしましょう」
元の姿に戻ったら、彼女は私を、そしてルーフェンを呪い殺すのだろうか……。
「殺そうとする相手を助けるなんて。ふふっ、私ってバカだな。きっと後悔するのに……」
そう独り言を呟き、集中するために頭を垂らす。
「イルマさんを元の姿に戻したい!……お願い!」
胸の前で両手を結び祈る。
すると、左手がじんわりと温かくなり、白い光が集まってきた。
(いけるっ!)
しかし、竜は待ってはくれなかった。
私の手に集まった魔法の光を見て、何かを察知したようだ。
再びこちらに向かって、大きな体を揺らしながら走り出した。
「お願いします!もう一度、人の姿にっ!戻ってっ!」
光に包まれた左手を、イルマに向かってかざし叫んだ。
すると光は手から一気に放たれ、竜の胸に直撃する。
光が青い鱗に触れたのと同時に、眩い光に包まれて、思わず両目を瞑った。




