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精霊の湖  作者: 桜木ゆず
第4章 トレイユ城

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第4章14話「意志の力」

「もう、話は終わりにしましょう。あなたには黙ったまま死んでもらうわ!」

イルマはキッと私を睨み、そう叫んだ。

覚悟を決めたようだ。もう対決は避けられない。

このままでは殺されてしまうだろう……。

しかし何も策はない。何か考えなければ。


「その前に教えてください。……呪いはどうやってかけるのですか?」

時間稼ぎのため、イルマに質問を投げる。

こちらの魂胆がバレないように、出来るだけ落ち着いて尋ねた。


「知りたい?……そうね、それぐらい良いでしょう。呪いたい相手の髪か爪に、自分の血を一滴垂らして、呪文をかけるの。たったそれだけ」

彼女は長い自分の髪を1束つまみ取り、すぐにサラリと離した。


「でもすごく強力なのよ?3か月間苦しんだ後 、術者か呪いを受けた者かのどちらかが死ぬ。魔法の耐性によって多少前後するけどね」


「死ぬ……」


私は床に視線を落とす。ルーフェンの事を思い出していた。彼の優しく微笑む姿が目に浮かぶ。

イルマを止められなければ、ルーフェンも私もきっと死ぬだろう。


「怖い?当然よね。ごめんなさい。他の人を巻き込むつもりはなかったの。でも、人魚という種族のために、誰かが立ち上がらなければならないの。それが出来るのはきっと、私しかいないから。」


人魚の扱われ方は知らないが、イルマがこの決断をせざるを得なかった理由がそこにはあるのだろう。


私は奴隷だった自分を自然にイルマに重ねる。

人として扱われなかった日々。もう戻らない、奪われた大切な人の命……。


あぁ、なんて愚かなのだろう。

彼女のことではない。"この世界が"だ。


私はイルマの瞳を捉えた。彼女もまた、私の瞳を捉えた。

おそらく、人魚でなければ彼女はこんな選択をしなかったはずだ。どんな人種も種族も、同じ命として等しく扱わなければならない。

それが本当の真理なのに。どうしてそうではないのだろうか。


「どうしてそんな顔をするの?あなたはこれから私に呪いをかけられて、苦しんで死んでいくのよ?……なのにどうして……?どうしてそんな、憐れむような顔をするのよ……」


「イルマさんの気持ちが分かるからです。私は……、ほんのついこの間まで、奴隷でした」


「奴隷……だった?ホープちゃんが?」

イルマは目を見開いている。


「はい。奴隷だった時、この世界の理不尽さを幾度も呪いました。……あなたもきっと……、きっとそうなんでしょう?」


「な、何よ、その目……。そんな目で私を見ないで……。これは本当の……私じゃないの。あなたに危害なんて加えたくない。でもこうするしかないのよ……」


「いいえ。どのあなたも本当のイルマさんですよ。……私はずっと分からなかったんです。奴隷に優しい人もいれば、虫けらのように殺す人もいた。……きっと、人は皆、残酷な面を持ち合わせている。それを表に出すのか、出さないのか。きっとそれだけの違いなんですよ。イルマさんは、誰もが持っているその残酷な面に勝てなかっただけ。私はそれを止めたいのです」


イルマは何かに気がついたのか『あっ』という表情をしていた。自らの過ちに気がついたというのだろうか……。


「いいえ、だめよ……。私はこの国を変えなければならないの……! 誰にも邪魔はさせないわ!さぁ、最後に何か言い残すことはあるかしら?」


もう時間切れのようだ。策は何も浮かばない。


しかし、もし運命や宿命があるのなら、奴隷の私が生き残り、"雪夜に招かれた客"として、今日ここにやって来たことには何か意味があるはずだ。



そう、神が造られた、運命という"意志"が。



(……そうか!"意志"の力があるんだ!私はピューランなんだ。魔法に意味ではなく"意志"を込めてみよう。今ならどんな強い魔法でも、意志だけで成立しそうな自信がある……)


私は目を閉じて、両手を胸の前で組む。


「あぁ、どうか。……ルーフェンさんと王様に掛けられた呪いが、解けますように」


「……最後に残す言葉はそれでいいかしら?」

イルマの問いかけに、私は目を閉じながら首を横に降る。



「そして、イルマさんの"人魚"という、自らを縛る呪いも、解けますように……。そしてどうか、あなたの願いが、いつかきっと叶いますように。……あなたの願いは何ですか……?教えてください」

最後に私はイルマにニッコリと笑いかけた。


「ホープちゃん……。あなた本当に優しい子ね。でも……。でもね、ダメなのよ……」


私は目を閉じて強く願った。

この哀れな迷い子を、救ってあげたい、と、"意味"ではなく、"意志"を込める。

しかし、魔法が発動した感じはない。


「さぁ、もういいかしら。ホープちゃん、さようなら。まずはお眠りなさい。……ザハーグ・テルメリク、オレ・ララリオ……」

(等しく眠れ、全ての生き物は……)

イルマが呪文を唱える。

勉強の甲斐があってか、少し遅れて魔法語は、頭の中で翻訳されていく。


イルマは私を眠らせる気だ。もう時間がない。

しっかりしろ、と自分に言い聞かせる。


(私はピューランなんだ!強い意志があれば、想いを形にすることができる!)


「お願い!呪いよ!今、この瞬間、解けて!」

私は叫んだ。そして目を閉じて祈った。

ルーフェン、王、そしてイルマに重く乗し掛かった呪いが、消えて無くなるように。


魔法が正常に発動した時の、パチンとハマった感覚が周りの空気に漂った。

「上手くいった?」

私は目を開ける。すると……



「ギィグァァァァッッ!!!」

叫び声のような鋭く、けたたましい轟音が、広間にこだました。



それは人間のものではなかった。

目の前にあるものが信じられなかった。


あぁ、なぜこうなったのか……。




イルマはおとぎ話に出てくる"青い瞳"と"青い鱗"を持つ"それ"に変わっていた。

しかし、それは人魚ではなかった。



それは『竜』だった。

太古の昔に空を駆けていたという、大罪を犯した種族へと……。



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