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精霊の湖  作者: 桜木ゆず
第4章 トレイユ城

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第4章13話「呪われし種族」

太古の昔に空を駆けていた竜が、私を見下ろしている。



イルマと私は竜骨の広間に到着した。時間は深夜だ。

広間の光虫が、小瓶という牢獄を、羽をはばたかせたり、休めたりと、思い思いに過ごしている。

そのお陰で広間は仄かに明るく、竜の骨を幻想的に映し出す。


先日の魔法使いと騎士とのいざこざで、バラバラになった竜骨だが、完全に修復され、今ではすっかり元通りだ。


どうやら、この辺りの天候は気分屋らしい。

先程まで月が見えていたのに、今は吹雪だ。

ゴウゴウと吹雪く音が、あらゆる雑音を掻き消している。



「いつ見ても竜の骨は美しいわ。…ねぇ、そう思わない?」

イルマは、うっとりしたような猫なで声だ。


「そんなことより……。イルマさん、どうして王様とルーフェンさんに呪いをかけたのですか?二人の呪いを解いて下さい」

本当なら彼女の襟を掴んで、詰問したい。

しかし、『今は冷静に』と気を鎮め、低いトーンではっきりと言った。


「それはできないの。この呪いは、術者か、呪いを受けた者か、どちらかの命が尽きるまで解けることはないから」

真っ直ぐに私の目を見て言った。


「……でもルーフェンという方の事は本当にごめんなさい。ホープちゃんの大切な人だったのね……」

イルマは意外にも申し訳なさそうに、私と目を合わせるのを躊躇した。



(あぁ、この人はきっと、根っからの悪人ではないのだろう)



彼女に対する怒りが収まった訳ではない。

しかし、イルマの事を知りたいと思った。



「あなたがルーフェンさんに呪いを掛けたのは、ルーフェンのことをシダのお告げにあった"雪夜に招かれた客"だと思ったからですか?」


「ええ、その通りよ。……怖かったの。自分の罪が"雪夜に招かれた客に"あばかれるのではないかってね」


「ではなぜ、王様に呪いをかけたのですか?」


呪いは自分の命も危険にさらすのに、王にはよほどの恨みがあるのだろうか……?



「そうね、巻き込まれたホープちゃんには、知る権利があるかもね」

イルマはふぅっと息を吐いた後、背を伸ばして言った。

「……私がアルシア様の恋人だって、知っているかしら?」


私はコクンとうなずく。


「それでね、アルシア様との結婚を許してもらおうと、私一人で王様に会いに行ったの。でも……」

彼女は伏し目がちに言いよどむ。


「結婚を王に断られたんですか?」


「ええ、そうよ。ご明察」


なるほど、色恋沙汰か。

私にはそういった経験はないが、理解はできる。


好きな相手と一緒になれないことを受け入れられず、相手の母である王に呪いを掛けた、おそらくそんな所か。



「……でもね、たぶんホープちゃんが思っているような、愛や憎しみや怒りとか、そういった理由で呪いを掛けたのではないの」


「えっ?……では他に何があると言うんですか?」


「私には成し遂げなければならない野望があるの。……その第一歩の為に、王に私の"正体"を伝えたのよ。でもその途端、あの人は顔色を変え、結婚は絶対に認めない、と言われたの。」

ふふっ、と小馬鹿にしたように鼻で笑った。

しかし、それはイルマ自身に向けられているように感じた。



「野望?……正体?あなたの正体って何ですか?」


「本当に愚かな子ね。あぁ、どうして一人で来てしまったの?」

額に手を当てて、どうしようもない、という感じで、首を横に振った。


「イルマさん、私の質問に答えて下さい。……"正体"って?」


「ふふっ、知りたい?……私はね……」




「人魚、なのよ」





「……人魚…?」


予想外の回答に、イルマの顔を穴が空くほど見つめる。

だが、身体にあるという鱗は、顔のどこにも見当たらなかった。代わりに、空のように鮮やかな"青い瞳"が私を見つめていた。


「人魚は青い……目?」


「ええ。そうよ。私はね、青い目と鱗をもつ、卑しい下等種族、なの」

そう言うとイルマは、細い指でゆっくりと服を捲っていく。

すると、色白の腹には確かに青い鱗が張ってあった。だが、想像していたより、はるかに量は少なく、鱗はあちらこちらに散らばっている。


そして、所々人の手で剥がしたのか、それとも自然に剥がれたのか、鱗の形のまま肉の盛り上がった、痛々しい傷跡がいくつかあった。


(私の傷跡と同じだ。誰にも見られたくない、過去の秘密……)


「どう?人魚って珍しいから、初めて見たのではなくって?」

イルマは服を丁寧に元に戻しながら、再び私をじっと見つめる。


「王族のアルシア様と、人魚の私が一緒になるためには、結婚を認めない頭の固い王にいなくなってもらわないとね。アルシア様には兄、リーシャ様がいるけれど、あの方は病弱だから、きっと次の王にはなれないでしょうね」



「……だからこそ私が、次の王になるアルシア様を支え、この国を変えていかねばならないの。それが私がこの世界に生まれ落ちた"意味"なのよ」

揺るぎなく、真っ直ぐに、その使命を彼女は信じていた。

この信念はきっと誰にも折れないだろう。



イルマに何があったかなんて、知らない。

だけど、きっと、彼女がこう思い到るまでに、様々なことがあったのだろう。


「鹿の心臓を食らい尽くす、影の仮面を被った主導者……。あなたの事だったんですね。アルシアさんは、この件に関わっているのですか?」


「いいえ。私が勝手にしたことよ。それにアルシア様は、母である王を愛しているわ」

イルマは伏し目がちに言ったが、ウソをついているような感じはなかった。

本当にアルシアは、この件に加担していないのだろう。


そして、彼女が"アルシア"という名前を口に出すときはいつも、心が込もっている。

……アルシアに向けられた愛情は本物だろう。


「ねぇ、どうして私だと気がついたの?疑われる要素なんてなかったはずよ?」

澄んだ瞳が今度はしっかりと、私を捉えた。


「……香り、ですよ。私は驚くほど鼻が効くんです。あなたから、呪いの香りがしたんです」


「呪いに香りがある……。そんなことがあるなんてね。上手く隠したと思っても、見抜かれてしまうものなのね」

お手上げだ、というように、彼女は両手を上げて言った。


「さぁ、もう、お話は終わりにしましょう。ホープちゃんが"雪夜に招かれた客"なら、あなたには黙ったまま死んでもらうわ!」



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