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精霊の湖  作者: 桜木ゆず
第1章 世界の色
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第1章 6話「覚醒」

 


 剣がおじいの脇腹を刺し、刃先はみるみる血で染まっていく。



「ぐっ…」

 おじいはよろめき、そのまま雪の上に仰向けで倒れた。雪も血で赤黒く染まっていく。

 騎士は顔色一つ変えずにそれを見下ろしていた。まるで、そう、虫けらを殺すみたいに……


「そんな…。嫌…。」


 これは夢…?本当に現実なのか混乱した。頭がぐらぐらして、現実味が感じられない。


「おじい……?」


 呼んでも返事がない。彼は目を閉ざしている。私は四つん這いで這って進み、おじいの側に寄る。

 ぐったりして動かないおじいを見て、現実なんだと思った。


 私は彼の血が溢れ出る脇腹を押さえた。しかし血は止まらない。

 その血のように、同時に自分の中に、怒りの炎がふつふつと燃え上がってきたのを感じた。

 すると彼はうっすらと目を開けた。私の怒りを感じ取ったかのように。


「ホープ……逃げ…ろ…」

 息も絶え絶えで、しゃべるのがやっとのようだった。怒りと憎しみと悲しみで、頬を涙が伝っていく。


 許せない…。怒りで目の前が真っ暗になる。頭がぐらぐらして、どうにかなりそうだ。


「あなたを許さないっ…!」

 脇腹から手を離して、スッと立ちあがる。私の手は血でベッタリと赤く染まっていた。


「殺してやるっっ!」

 生まれて初めて、本気で人を殺そうと思った。


「はぁっっっっ…!」

 自分より二回りも大きな相手に殴りかかる。


「ゴッッ!!」

 しかし騎士はそれを軽くかわし、私はあっけなく返り討ちにあう。

 鉄でできた小手でおもいっきり頬を殴られた。


「痛っっ!」

 ズシャッと雪の上に吹き飛ばされる。口には血の味がいっぱいに広がった。


 憎い。殺してやりたい。

 許さない、憎い、と頭の中で呪文のように何度も何度も繰り返す。


 再び殴りかかる。

 しかし今度は殴った左手をいとも容易く掴まれ、離そうともがくが、相手の力が強く離せない。


「離してっ!離せっっ!!!!」


「力もないくせに、立ち向かうからだ。」

 騎士は私の腕をきつく掴みながら、冷淡に言う。


 掴まれた私の手にはべったりと、おじいの血がついていた。


 あぁ、なんて無力なのだろう?

 自分の無力さを呪った。弱さを呪った。そして目の端から一滴の涙がこぼれ落ちる。

 もう嫌だ…。今までこんなに頑張ってきたのに。

 私、ここで死ぬの………?



 ここで死ぬ?



 あぁ。もうそれでいいのかも知れない。全て終わってしまえばいいのかもしれない。

 こんな理不尽な世界も、私も終わればいい。

 そうすれば私はこんなに辛い思いをしなくてもいいんだから…。



「離せぇぇぇっっっ!!!」



 全て消えろっ!と思った。

 その瞬間、目がカアッと熱くなって、空気が震えたのを感じた。

 そして自分の手から、言葉で表すなら、空気でできた衝撃の波のようなものが放たれた。


「えっ………?」

 自分が一番驚いた。


 それは目に見えなかった。

 しかし確かに放たれた波は、まるで自分の体の一部のように、どこに放たれたのか、どのくらいの大きさなのかが、感覚的に分かった。


 そしてそれは騎士の首に強く当たり、見えない波は消えた。


「ガッ!?」

 騎士は小さく声をあげ、5、6メートルも後ろにふきとぶ。

 騎士はそのまま後ろにあった、葉が生い茂った木にゴキッという、嫌な鈍い音をさせてぶつかった。


 全身の力が抜けた。ヘタリとその場に座り込む。自分が何をしたのかしばらくの間、理解できなかった。




 私が放ったのは紛れもない魔法だった…。




「はぁはぁ…。」

 体がすごく重い。


(どうして私に?)


 自分が魔法が使えるなんて知らなかった。それに呪文も知らないのに。

 もしかして命の危険を感じたから本能的に?でもこんなに疲れるなんて…。



 騎士の方を見たが、木の側に倒れたまま動かない。



 数十秒ぼうっとしたあと、重い体を引きすりながら騎士に近寄る。

 騎士に1、2メートル近づいたとき、ハッと気付いた。



 全身が震えてとまらない。

「……わ、わたし…」






「…人を………ころ………し…た…………。」



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