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精霊の湖  作者: 桜木ゆず
第4章 トレイユ城

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第4章 1話 「竜の骨」

 


 真っ暗のなか。わたしは1人ぼっち…。



『なぁホープ。逃げきれたらわしの故郷に一緒に来ないか?』

 暗闇の中でどこからか声が聴こえてくる。懐かしい声が。その声はわたしの光だ……。


 優しくて強い人だった。


 ずうっと一緒にいた。わたしには本当の家族との思い出はないけれど、きっと家族というものは彼との関係のように、穏やかで温かで、でも時々厳しくて……。そのようなものなのだろう。

 血が繋がっていなくたって、わたしは彼が大好きだった。それだけで家族と言うには十分だ……

 そしてこれからも当たり前にそれが続くと思っていた。



 あぁ、全部忘れて自由になれたら、どんなに楽だろう……。

 そうやって過去のわたしも全ての記憶を忘れてしまったのだろうか?

 このぽっかりと空いてしまった穴はもう2度と(ふさ)がらないのだろうか……









 夢に嫌気がさし、自分の意思で目を開ける。するとそこは知らない天井だった。冷たくて固い石の天井だ。

 目に悲しみの雫が付いていることに気がつき、ごしごしと目を擦る。


「ここ……、どこ?…ルーフェンさん?サイガ?……バラバイさん?」

 そう小さくささやくと、柔らかいベッドからムクリと起き上がる。


「だれもいないの…?」



 そこはやはり知らない小さな部屋だった。一瞬まだ夢の中かと思い、もう一度目を擦る。しかし何も変わらなかった。

 見知らぬ部屋には花のような甘く、しかし爽やかな香りが(ただよ)っている。それはとても良い香りである。

 ここは宿だろうかなどと、爽やかな香りではっきりしている頭で思案していると、なんの前触れもなく、それもノックもなしにドアの取っ手を回す音が小さな部屋に鳴り響く。


『ガチャリ……』


 そうやって部屋に1つしかないドアがゆっくりと開いていく。しかし私は特に身構えることもなく、見知らぬ部屋、見知らぬ香りであるのに、じいっとベッドに座っていた。

 それはルーフェンかサイガか、そうでなかったらバラバイが入ってくると思ったからだ。


「ああ、目が覚められたのですね。良かったです」

 その人は取っ手に手をかけたまま、にっこりと笑って言った。


 この予想は見事に外れたのだった。


「えっ……と??」


 入ってきたその人は、私と同じ年くらいだろうか。そして声変わりの済んだであろう低い声であった。

 その手には茶色い液体の入ったビンが握られている。


 私が驚いて言葉を失っていると、彼は見知らぬ茶色い瞳でニコッと私に笑いかけた。


「顔色、ずいぶん良くなりましたね。体は大丈夫ですか?えっと、ホープさん?でしたね。聞いていた通り、本当に綺麗な紫ですね」

 彼は静かに私に近づきながら言った。


「え、ええ…、体は大丈夫。あの、あなたは?あなたは誰?ルーフェンさんたちは……?」


「あ、僕はタルガと申します。彼らは別の部屋で休んでいらっしゃいますよ。………お呼び、しましょうか?」

 タルガという少年――いや青年といった方が良いのか?――は、心配そうな瞳で覗き込むように身を前にかがめる。


「あ、ううん。無事ならいいの。ありがとう……。ねぇタルガ、ここはどこなの?あなたはお医者さん……ではないよね?」


「あぁ、僕としたことが、うっかりしていました。僕はまぁ……そうですね、医者のタマゴみたいなものでしょうか。見知らぬ場所で不安でしょう。でも大丈夫です。ここはトレイユ城ですから」



「ト、トレイユ城!?……じゃあここは…もしかしなくてもトレイユの国……よね??……じゃあ私、ノの森から運ばれてきたの!?」


「はい。騎士長さんがあなたを運んでこられたのですよ。……騎士長さんはやはり力持ちですね。僕、尊敬しちゃいます」


 騎士長…。おそらくバラバイのことだ。サイガが前にそう言っていたことを覚えている。



「そ、そうなの……。私すっごい迷惑かけちゃったみたい……。謝らなきゃ。でも全く覚えてないや。私どのくらい眠ってたの?」


「ええっと、ノの森で倒れてからまる2日、ですね。ホープさんはとても危なかったんですよ?……変な使い方されたのですね。倒れたのはそのせいですよ?」

 人差し指をたて説明口調で、そして少しきつめにタルガは言う。


 変な使い方……。彼の言葉を頭の中で反すうする。―――何の事を言っているのか明白だ。それは魔法のことだろう。


「え、えっと……」


「魔法の種類によっては、使っている時よりも、使った後から変調をきたすことがあるんです。特に普段からそんなに魔法を使っていない方が、急に大きな魔法を使ったらなおさらです。……それで一体どんな魔法を使われたのですか?」


 魔法のことは知ってても、あのことはサイガから聞かされてないみたいだ。―――オオカミのことは―――


「あはは、そうだったんだ。迷惑かけたみたいでごめんね。……えっと、タルガは魔法に詳しいんだね。……あの、どうして敬語なの?年、たぶん変わらないでしょう?普通でいいよ」

 なぜか私は、オオカミのことを他人にあまり言ってはならないような気がし、なんとか誤魔化そうと話をすり替えた。



「話し方、変…でしょうか?僕は元からこういった感じなので……」

 おそらく気にしていたのだろう、タルガは少し悲しげに下を向いた。


「あ、そうなんだ。べ、別に変じゃないから大丈夫!…それより、起き上がってもいいかな?ルーフェンさんたちに会いたいの……」


「ええ、どうぞ。城はとても広いので、僕が案内しますね。あ!そのまえに!」


「!?ど、どうしたの?」


「これ、飲んで下さい。僕が作った魔法薬です」

 さあどうぞ、と彼に差し出されたのは、手に持っていたあの茶色い液体のビンだった。

 近くで見ると明らかに(にご)っている……。



(……。これを……飲むの?私が?)



 タルガを見ると、キラキラした目で私を見つめていた。

 まるで僕が作ったんです、すごいでしょう?と言わんばかりに。



 その様子を見て、仕方なく彼からそれを受け取る。手渡されたそのビンを私はまじまじと見つめる。


(茶色くて……ん?緑色のが何か浮いてるような……?)

 再び視線をタルガに戻す。

 彼は私の気持ちを知ってか知らずか、にっこり笑いかけうなずく。



 ごくりと(つば)を飲みこみ、心を決めた。

 それを一気に胃の中に流し入れる。



「どうですか?」


「…………あ、ありがと、タルガ……。元気になった……よ」

 精一杯の作り笑いで、私はその場を乗りきったのだった。










 部屋を出て驚いた。城は思っていたよりも何倍も広かったからだ。部屋の外は長~い廊下で、見えない先までいくつも部屋があるようだった。

 城は無機質な石を積み重ね建てられていたが、それを補うためだろう、所々に花がいけられている。


「すっごく広いね!お城っていう所、たぶん生まれて初めて来たよ!」


「そうなんですね。なんだか喜んでいただけて嬉しいです。あ、ルーフェンさんのお部屋は2階なんですけど。よかったら少し寄り道してお城、ご案内しましょうか?」


「ホント!?じゃあお願………」

「よう!タルガ!」



 ふいに後ろから大きな声で呼び掛けられ、私の言葉はかきけされた。



「ああ、ギマートさん。こんにちは」


(ッッ……!!)


 ギマートという若い男を見て、一瞬ドキリと胸が鳴り、血の気が引く。

 男は胸に鹿と青い花が刺繍(ししゅう)された服を着て、腰には重そうな剣を提げている。



 ―――その身なりに嫌でも屋敷の騎士を思い出したからだ。私を殺そうとした騎士たちを―――



 私は手袋をしていないことに気がつき、サッと手のひらの火傷の痕を後ろに隠す。カラスの火傷の痕。奴隷を示す烙印(らくいん)を。



「ん?見ない顔だ……?」


「彼女はホープさんです。ホープさん、ギマートさんです」


「彼は緊急時の特別部隊に所属されてる騎士さんです。お若いのにすごい方なんですよ」


「なんだ、タルガもすみに置けないヤツだなぁ!こんな可愛い子、一体どこで知り合ったんだ?まさか彼女じゃあないだろうなあ?」

 ギマートはニヤリと笑って、タルガをからかう。


「ち、違いますよっ……。この方は騎士長さんのお客様です!」

 タルガは困りながら否定した。


「ん?騎士長の……?こんな女の子がなんでまた……?」


「まぁ、なんでもいいじゃないですか。では僕たちはそろそろ失礼しますね」


「お、おう。また怪我したときはよろしくな!」

 ギマートはそう言うと、くるりと回転し、もと来た道を引き返して行った。



「城には騎士が…いるんだね……」

 ギマートの後ろ姿が小さくなるのを見て、胸を撫で下ろす自分がいた。


「?……ええ。トレイユは小さな国ですが、騎士はちゃんといますよ」


 バラバイやサイガは騎士の格好をしていなかったから、そんなに気にはならなかった。

 しかし剣を提げ、それぞれの主君を表す紋章を付けた騎士を見ると、動揺する自分がいたのだった。あの日のことを嫌でも思い出す。


「そ、そう。ねぇタルガ。トレイユの国ってさ……」

 しかし、そこで私は質問するのを躊躇(ためら)う。




 奴隷はいるのか?と尋ねたかった。




 でももし"いる"と答えが返ってきたら?

 私はタルガを、そしてバラバイやサイガたちまでも嫌いになりそうに思う…。



 モヤモヤした気持ちを抱えていたが、尋ねるのを止めた。



「やっぱりなんでもない。…それで、まずはどこに案内してくれるの?」


「……?はい、…えっと、では竜骨(りゅうこつ)の広場から。竜骨、きっとご覧になっとたことないでしょう?とっても大きいんです」


「竜骨?……えっ!?竜の骨?」


「はい。ホープさんもあの"大罪"の昔話くらいは聞いたことあるでしょう?」



「大罪……」

 いつかのレギンが話してくれた。竜が翼を折られる話……



「いないと思われていた竜は、本当に実在したと最近明らかになったんです。今まで各所でいくつか竜の骨らしきものは発見されてたんですが、一部しかなくて…。でも全身の骨が見つかったんですよ。とってもきれいな状態で!」

 そこからタルガは興奮したように早口で話し出した。


「骨が見つかったのはロナ雪山(せつざん)で……、数年前に起きた大雪崩(おおなだれ)で骨が出てきたんです。トレイユ城にあるのはそれのレプリカなんですけど、すんごい迫力で!」



「……あ、でも大丈夫ですよ。もう何千年も前に竜は絶滅していますからね。現代に炎を吐く巨大な竜がいたら恐ろしいですから」


「ほ、ほんとに竜はいたの?じゃあハーレンも?人と竜は共に生きていた時代があったの?」


「ハーレンってあの大罪に出てくるガドゥの弟の?……えっと、今分かっているのは、人と竜は同じ時代に生きていたということで……。でも不思議なことに、古代の文献(ぶんけん)にほとんど竜が出てこないのです。もちろん共に生きていたような記述もありません」


「ですから人と竜は別々に生きていたと思いますよ。互いの領分を侵さないように。ハーレンは、うーん、どうでしょうか…。まず竜には人のように話せる知能があったのか……、そこから疑問ですね」

 タルガは困ったように口をとんがらせながら言った。


「そう…なの。」


「あ、着きました。竜骨の広場はこの扉を開けてすぐです。開けますよ、ほら!」



 ギィっと少し重い扉を開けた先に、それはあった。



 人間なんてちっぽけな存在だと言わんばかりに、堂々とそれは私を見下ろしていた。竜の全身の骨が天井から糸で吊り下げられていた。4、5メートルはあろうか。鱗や肉がなくとも、その骨組みからだけでも生きていた時に持っていたであろう力強さを感じる。



「す、すごいね!ねぇ、もっと近づいてもいい?」


「そうでしょう、すごいでしょう?…ええ、もちろん近くまで行きましょう。あ、触るのはダメですよ。………例えレプリカでも迫力ありますよね。僕、この広場大好きなんです」

 ワイワイと話ながら私たちはゆっくりと竜の骨に近づく。


「そうなんだ。その気持ち分かる。わたしもこの広場好きよ。あぁ、夢でよく竜が出てくるんだけど、現実で見ると違うね。すっごい迫力!」


「ゆ、夢で?ホ、ホープさんは変な夢を見られるのですね…」


 ついに竜骨のほぼ真下についた。ずっと見上げていると首が痛くなりそうだ。


「うん。そうなの。…ねぇ、ここ、広場というよりダンスホールだね。……屋敷にもこんなとこあったよ。毎日の掃除がすごく大変でね…」


「屋敷?」


「あー!ううん、なんでもないの。…すごく素敵な所ね。でももうちょっと静かだったらもっといいんだけどね」

 と言って私はぐるりと広場のを見渡す。


 大きな竜骨の広場にはいくつも扉があり、どうやら通り抜けのために使われているようで、城の人達がせっせと走り回っていた。忙しなく走り回るその人々のせいで、広場の荘厳(そうごん)景観(けいかん)が少し台無しだ。



「も、申し訳ありません……。えっと、でも夜はとても静かなので!…ではそろそろ次の所にご案内……」

『だまれっ!俺達は無能なんかじゃない!』


 突然、鋭い声が天井の高い広場にこだまする。


『ほう、無能じゃなかったらなんだと言うんだね?魔法使いなんてただのお飾りだろう』

 少し大きい声でそれに続いた。


 声の方を見ると、二人の男たちが言い争いをしているようだ。その周りに4、5人の男たちが集まっており、言い争いの主はチラチラとしか見えない。

 どうやら彼らは皆騎士らしい。服装ですぐに分かった。



「あー!もうまたやってますね……。何度も何度も同じ事を…。すみません、ホープさん少しお待ちください」


 どうやらタルガはこの状況に慣れているらしく、注意しに行くみたいだ。

 待ってて、と言われて内心ホッとした。騎士には近づきたくない。

 タルガは言い争いの集団に小走りで近づいていった。


 その様子を見てなんだかタルガは世話焼きというかお節介な人だと思った。もちろん丁寧な男の子だけど、でもぐいぐいと積極的に関わろうとする。

 そしてそれは知ってる誰かに似ていた。―――誰だろうか?



 反響する怒鳴り声と罵倒(ばとう)はまだ続いていた。

 私は"耳が良い"ので遠くからでも集中すれば大抵の会話は聴こえる。もっともこれは怒鳴っているので集中しなくても聴こえるが。


『ふん!お前たち騎士だって今の時代、無能だ!ただのお飾りだ!戦のないのに鍛練(たんれん)しても何も変わらんぞ!この筋肉バカめ!!』


『っ!!ではお前たちこそどうなんだ。王も救えないのに偉そうに……!』


『お、お待ちください!!二人とも落ち着いてっ!ほら、皆さんも煽ってないで止めて下さいよ!』

 そこでようやくタルガが割って入った。


『おいおい、タルガ。今いいところなんだ、止めんなよ。これは見ものだな。ははっ!俺はザサナに賭ける。ザサナが勝つに決まってるさ』

 取り巻きの騎士が楽しそうに言う。


 タルガは背が低いという訳ではないが、筋肉をつけた騎士たちに囲まれて、少し小さく見えた。


(タ、タルガ大丈夫かなぁ……)

 私は止めようか、このまま様子を見ようかおろおろする。


「止めるなタルガ!こいつら俺たち魔法使いが無能だと言いやがるんだ!…いいさ、やってやる。貴様など魔法で一撃だ!!後悔するがいい!」


 騎士たちだけだと思っていたが、どうやら言い争いをしていたのは騎士の内の一人と、そして一人の魔法使いだった。



『ふん、面白い。この際どちらが真にふさわしい臣下なのか、決めてはどうだ?我々はいつも争っているだろう?これを期に……。決めてしまおうぞっ!』

 争っていた騎士がそう言うと、キィン…っ!と剣を鞘から抜いた、金属が擦れる独特の音が耳に嫌に聴こえた。


『や、やめて下さいっっ!ベベルさん、魔法はダメです!!止めないなら…僕も本気で止めますよ!』


『なら止めてみるがいいさ!うおおっ!!リパリア!!』

 争っていた魔法使いがそう叫ぶと、手に光が集まっているのが分かった。


『タルガ!あぶねぇ下がれ!』

 一緒になって(あお)っていた取り巻きの騎士もさすがにタルガの身を案じたのだろう、彼の服を掴んでぐいっと引き離した。


『わわっ!』

 タルガが盛大に尻餅をつく。




 リパリア………。耳にその呪文がこだまする。……その意味は貰ったあの魔法書を読んでいたので分かった。"弾き飛ばせ"……だ。

 そしてその魔法がどんなも種類のものかも知っていた。



 私は走り出した。

「タルガ!危ないっ!!その人からもっと離れ……」

 しかしその瞬間、まるで胸を思い切り蹴られたように、私は吹き飛ばされた。

「きゃあっ!」


 同時に広場にいた全員も吹き飛び、広場の窓ガラスも甲高い音を立てて粉々に飛び散った。

 ―――それはとても強力な魔法だったのだ。



「痛っ……。うぅ……」

 頭がクラクラする。それにキーン…と低い耳鳴りがしており、自分と周りの状況が把握できない。近くにいたタルガたちは大丈夫だろうか…?


 一度はなんとか立ち上がるが、フラフラと頭が揺れ、再びその場にしゃがみこむ。


「危ない!その場から離れろ!」

 誰かの聞きなれない声が広場に響いた。魔法はついさっき放たれたというのに、何が危険だというのだろう?クラクラする頭でボーッと考える。


「ホープさん…っ!上です……!」

 今度はタルガの声だ。……うえ?上って……。




 ……骨。竜の…骨…?




『カランカランッカラン……』

 魔法の衝撃で骨をつり上げた糸が何本か切れたらしい。グラグラと不規則に骨が揺れていた…。

 骨同士、正確には骨のレプリカがぶつかり合い、奇妙で不気味な音を鳴らせている。


(く、崩れる?早く逃げなきゃ…!)

 そうしてここから離れようとするが、胸の痛みで立つのも辛い。フラフラとして私は倒れそうになる。


「う……」



「わたしが手を貸そう」

 次の瞬間、フワッと体が浮き上がった。




 私は知らない誰かに抱き抱えられていたのだった。




『ガッシャーンッ!!』

 私が先程までいた場所には竜骨がバラバラに崩れ落ちていた。元あった場所にはたった数本の骨を吊り下げて……



 私は心の底から胸を撫で下ろした。



「……良かった。なんとか間に合ったな」

 私を助けてくれた人がにっこりと笑いかける。それは少し幼さが残る微笑みだった。


 助けてくれたその人は、真っ赤に燃える太陽のような赤毛をしていた。しかしそれとは対照的に、彼の瞳は灰色で、その明るい太陽さえも隠してしまうような曇り空の色だ。そして同時に気品の感じられるような、なんとも不思議な雰囲気をしていた。



「あ、あの……」


「そなたが無事でなによりだ。魔法での怪我は後で良く診てもらうのだぞ」


「あり…がとう」


「いや、礼にはおよばぬ。それよりもすまぬな。あの者たちがそなたに失礼をしたな。……だがあの者たちも悪気はなかったのだ。許してやってくれ」


「え?……あなたがどうして謝るの?…あの、もう大丈夫だから…そろそろ降ろして……?」


「む。そうか?なら降ろそう……」

 赤毛の彼はゆっくりと私を地面に降ろして座らせた。そして降ろすのと同時にその若者は首をかしげた。


「ん?そなた珍しい瞳をしているな。……そう言えば見かけぬ顔だ。新しい侍女か何かであろうか?」


「え?えっと、わ、私……」


「アルシア様っ!ご無事ですか?」

 タルガが真っ青な顔で、そして足を引きずってやってきた。タルガは私よりも、そして自分の足よりも赤毛の若者をすごく心配していたようだった。彼への心配がタルガの顔だけでなく、その声からも伝わってきた。



(アルシア"様"…?ならきっとこの人は……)



 よく見るとアルシアと呼ばれた彼は身なりがとても上品で、付けているいくつかの装飾品は素朴だが、彩飾が恐ろしく細やかで、すごく高そうだ……


「うむ。問題ない。しかしタルガよ、そなた足を怪我しておるではないか。他の者たちも怪我をしておるようだ。早く医務官を呼んで来ねば…」

 そう言うとアルシアは小走りでどこかへ行ってしまった。




 おそらく彼は………




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