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精霊の湖  作者: 桜木ゆず
第1章 世界の色
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第1章 5話 「創造」

あぁ、あなたに会いたい。

ただ望むのはそれだけだから。他には何もいらないから。

だからどうか神様、叶えてください…。

 


 おじいの手から突然放たれた炎は、年配の騎士の顔に直撃した。


「ぐわぁぁっ!」

 騎士は悲鳴を上げ、後ろによろめく。それはかなりの火力だった。

 ウゥと、うめき声をあげながら、膝を付き、おそらくひどく火傷したであろう顔をおさえ、雪を顔に目一杯擦り付ける。


(すごいっ!魔法の力!?これなら騎士を倒せるかもしれない!!)


 世界には魔法を使える人がいると聞いたことはあったが、初めて見る魔法には感動した。

 空気からあんなものを創れるなんて!一体どんな気分だろうか…。


 緊張感も忘れ、ただ見いる。



「貴様ぁ!」

 若い方の騎士が怒り狂ったように怒鳴る。

 しかしその騎士は馬から降りようとしているけれども、炎に驚いて暴れ回る馬をなだめるのに精一杯のようだった。


 年配の騎士を倒すチャンスだ!


 おじいもそう思ったのか、若い方の騎士は無視して、近くに落ちていた太くて重そうな木の幹を持った。


 そして、大きく振りかぶって、膝をついている相手の頭を殴った。


 殴られた衝撃で、騎士は1メートルほど吹き飛ぶ。


「うぅっ!」

 と呻き声を上げ、騎士はもう動かなかった。おじいは手に持っていた木の幹を雪の上に捨てた。

 人が傷つくのは嫌だったけれど、自分たちの命がかかってる。

 そんなことは言っていられない。


「あともう一人だ…!!」

 隠れているのに、つい声が出る。騎士さえ倒せば私たちは自由だ…!

 もう一人の若い方の騎士を見ると、馬から降りてまさに剣を抜いていたところだった。


「キィィンッ」

 剣を鞘から抜くときの、金属同士のの擦れる音がした。


 騎士は怒っているのに、行動は冷静だった。おそらくよく訓練されていたのだろう。人としては最低だが騎士としてはよく出来た人間だったのだ。

 若い騎士はおじいの様子を見ながら距離をとっている。剣が重いのか、切っ先を地面すれすれの位置に留めている。


 おじいはというと、なぜか魔法を使わない。


 騎士もおじいが魔法をつかってこないので、ジリジリと距離を詰めていく。

 それに合わせるように、おじいは騎士が詰めるのと同じ歩幅で、後ろに後退していく。


 ついに騎士の方が動いた。大きな剣を握りしめながら、何度も鍛練したのであろう、慣れた動きで掛け声と共に騎士は剣を振り上げる。その動きは軽やかで、美しく、一瞬見いってしまったほどだ。

「ハァッッ!!」


「おじいっっ!」

 その瞬間私はおじいの方に走り出した。


 服の袖の端を切ったが、おじいはなんとか後ろに下がって避ける。


 騎士は私に気づいたようで、こちらの方を向く。しかしすぐに、おじいの方に向き直し、

「死ねぇぇぇ!」

 と剣を振り回す。


「やめてっ!」

 私はおじいに向かって走りながら声を張り上げる。雪の地面に足をとられながらも全力で走る。走って初めて気がついたが、私は泣いていた。そして手足が変な感じだった。きっと震えているのだろう……


「ホープ来るなっ!テサ、バグトスッ!!当たれ!!」

 呪文を唱えた後におじいは当たれ!とまるで願いのように叫ぶ。


 今度は炎ではなく、風のような魔法だった。

 ヒュッと空気を引き裂くような鋭い音がして、それは騎士の胸に当たった。


「ぐっ…」

 けれど、少しよろめかせただけだった。しかし騎士は苦しそうな顔をしながら数歩後ろに下がる。


「くっ…!だめだ…。もう魔力が…」

 おじいは苦しそうに息を吸う。そして苦し紛れに、先ほど年配の騎士を殴ったのと、同じくらいに太い枯れ木を拾って構える。


「くそっ、痛ってーな…」

 騎士は胸を左手で押さえ、さすりながら悪態をつく。


「おじい!!!」

 私はようやくおじいの側にたどり着いた。


「ホープ…。隠れてろと言ったろ。」

 ふっと笑いながらそう言った後、私をぎゅっと抱き締めてくれる。すると不思議なことに涙は止まった。震えも止まった。

 おじいは私を放し、騎士の前に立ちはだかる。


「ちょうどいい。お前たち二人とも俺が処刑してやる…、死ね」

 無表情で男は冷たく言う。


 死ね、という冷たい言葉だけが強烈に頭に入ってきて、もうそれしか考えられなかった。人の心を持っているのかも分からないその男の顔を穴が開くほど見つめていた。

 私は恐怖で足がすくんだ。まるでそう、蛇に睨まれた蛙だ……。きっとこんな気持ちなのだろう…。


「ホープ下がれ!!」

 おじいは突然私を強く押し飛ばした。頭がいっぱいいっぱいだった私は簡単によろけて尻餅をつく。


 その瞬間、騎士は剣で横に切りつけた。おじいは手に持っていた木の幹で受け止めた。

 しかし受け止めれたのはたったの一瞬で、すぐに木は真っ二つに切り落とされた。


 そして再び騎士は剣を構えて、今度は剣を刺すように、切りつける。

「やめてぇぇぇぇぇぇっっ!!」

 そこからはスローモーションのようだった。



 剣が肉を引き裂く、嫌な鈍い音が静かな森に響きわたった…



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