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精霊の湖  作者: 桜木ゆず
第1章 世界の色
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第1章 4話 「力というもの」

 


「おじいっ!」

 私が全て言わなくても理解したようだった。彼の目に恐怖の色が見えた。


「ホープっ走れっ!」

 どなり声に近い声色で、吐き捨てるように言われる。そして二人とも本能的に走り出した。


「橋はどこっ?どこにあるのっ?」

 ぜぇぜぇ言いながら叫ぶように言う。おじいは走るのが辛いのか、だんだんと走る速度が遅くなっていく…。私は手を強く握って引っ張っていく。


(見つからないっ!橋は本当にあるのっ?)

 不安と恐怖で息が上がってくる。暗くて遠くの方への視界は悪く、追っ手の足音と加えてさらに神経がすり減る。

 しかし無情にも恐怖の足音は近づいてくる。

 ドドドッ、ドドドッ、ドドドッ…


 足音はかなり近いが振り返っても暗いため、正確な位置や方角はわからない。しかしきっとすぐに見つかってしまうだろう。


 彼は走り続けてきたせいで疲労困憊しているようだ。顔に疲れが色濃く見える。まさに絶体絶命だ。しかし私には走ることしかできない…


 走りはじめて2、3分たった頃、走りながらおじいが口を開いた。

「ホープっ!!いいか、よく聞け!この足音だと馬は2、3頭だろう。なんとかできるかもしれん」


「えっ!!どうするつもりなの!?つまり騎士も2、3人いるってことなんだよ!?」

 後ろを振り返り、追っ手を確認しながら言う。まるで命の時間が削られているようだ。


「そんなことは分かってる。わしには考えがあるんだ。信じてくれ。おまえを守らせてくれ」

 私の目をしっかりと見ながら言う。彼も必死なのだろう。自分に余裕が無くなっているのが分かる。


「……分かった。でも一人で行くのは絶対に嫌だよ。」

 それに半ば根負けした形で強く言った。私たちは走るのを止めた。走っていてもいずれは見つかる。時間の問題だ。だったらもう彼を信じて命を預けよう。どんな結果に転ぼうとも、きっと二人一緒なら大丈夫…。


 すると彼はしっかりとうなずいた。


「おまえはわしから離れて騎士に見つからない所まで行ってくれ」


「逃げろっていうの?!嫌っ!絶対嫌っ!私はおじいと一緒にいるっ!!絶対離れないっ!」


「違う!隠れるだけだ!おまえがいたらうまくいかないかもしれないんだ。もしわしがうまくいかなかったら……。分かってるな?」

 力強い目で私を見る。


「どうするの?何をするつもりなのっ??」

 どうしようもなく怖い。恐怖で顔がひきつる。それになんだか嫌な予感がする…。


「分かってるな?」


「分からないよ……。わ、私……」

 私は力なく首を横に降る。


「ホープっっ…!!」

 怒鳴られて一瞬頭が真っ白になった。その空っぽになった頭に浮かんだのは、置いていくのは嫌だ……離れたくない………だった。

 しかしどうにかしようにも、結局私にできることは何もない。


「行けっ!早く行けっ!」


 この間にもどんどん足音は近づいてくる。私が考えれば考えるほど時間は無駄に過ぎていくだけなのかもしれない…。

 仕方なく逃げるように彼から離れていく。

 何度も振り返る。彼は私を見ながらじっと立っていた。




 気のせいだろうか。名前を呼ばれた気がした。




 私が彼から、30メートルくらい離れたとき、ついに騎士が見えるところまで追い付いてきた。騎士は2人だった。

 彼らはいかにも重そうな剣を腰に提げていた。


 騎士たちの姿が見えた瞬間、私は言われた通り、大きな木の後ろにパッと隠れて息を潜める。

 騎士たちは木の開けた場所にいるおじいには気づいているようで、まっすぐ向かっていく。

 おじいは全く動かなかった。私に背中を向けているので、顔は見えない。


(おじいっ!)

 手足が震える。決して寒さのせいではない。


 そして騎士たちはおじいから数メートル離れたところで馬を止めた。



「まずは一人目……。おい、貴様、よくも逃げたな。分かっているだろうな」

 年配の方の騎士は低い声で冷たく言い放つ。


「本来ならこの場で処罰するのが正しいが、投降したのを考慮してやろう。屋敷までは生かしておいてやる」

 続けて騎士見習いと思える若い男が、かなり荒っぽい口調で言った。おじいが一人で突っ立っていたため、投降したと勘違いしているようだ。


 それでもおじいは動かず何も言わない。彼は一体どんな顔をしているのだろうか。


「おい、聞いてるのか?屋敷へいくぞ」

 若い騎士が低い声で言った。しかしそれでも微動だにしない。


「おい、歩け!さっさと動け!これ以上手間をかけさせるな!」

 イライラしてそう言いながら、年配の騎士が馬から降りる。そして、立ったまま動かない彼の1、2メートル側にまで近づく。



「トリテグ、メーガリサルッ!!!」

 なんの前触れもなかった。突然おじいは大きな声でそう叫んだ。あまりに唐突でその上意味不明な言葉に、一瞬誰が叫んだのかも分からなかった。

 それは全く聞いたことのない言葉だった。



 その瞬間おじいはバッと両手を上げ、年配の騎士の顔に向けた。

 その両手から大きな火の塊が飛び出した…。



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