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精霊の湖  作者: 桜木ゆず
第2章 世界の掟

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第2章 37話 「ある夕食で」

 


 あれほど楽しみにしていた赤月だったが、残念なことにちょうど夕暮れ時から空は雲に包まれてしまい、月を隠していた。

 できればずうっと部屋の窓から、空を眺めていたい。しかし皆での夕食を断れない雰囲気だったので仕方なく食堂へ。



 そうして私たち四人は簡素なテーブルに座り夕食をとっていた。

 食堂は人が多く騒がしいかった。はっきり言ってこういうのは苦手だ。それならやはり部屋で窓を眺めていれば良かったと後悔していた。



「うまいうまい!この肉サイコー!なぁ師匠、ここの料理の味付けさー、俺らの国のと全然ちがくね?」


「サイガ。食べる時はもう少し静かにしなさい。ほら、テーブルにこぼしているぞ。これで拭きなさい」


「ご、ごめんなさい。あ、それでなおれ達は"トレイユ"っていう国の騎士なんだ!師匠はそこの王城で隊長してるんだぜ!すごくね?」


「それ前にも聞いたよ…。トレイユは聞いてないけど。トレイユってどんなとこ?」


「まぁ小さい国だから知らないだろうけど、中央街の近くにあるんだ!だからすごく景気がいいんだ!」


「え?どうして中央街の近くだと景気がいいの?」


「えぇ?そりゃだって中央街だぞ?人がすげぇー集まるから、そこから近いおれの国にも人が来るってことだよ」


「へぇー!じゃあ中央街ってすごいんだね。」


「た、確かになんでもそろう中央街もすごいけどさ…。おれの国だって…」


「何でもそろう??ほんと!?行ってみたい!ねぇ中央街ってどこにあるの?」


「え……?何言ってんだお前」

 その食事の手が止まる。バラバイでさえも不思議そうに首を傾げている。


 困ってルーフェンを見ると、彼はしまったという顔をしている。

 何かまずいこと言ってしまったようだ。


「………ホープ、中央街ってのはその名の通りだ。世界の中央にある街で、どこの国にも属していない不思議な街さ。」


「街は驚くほど広くてな、商人の街と言う方が正しいくらい、金さえあればなんでも手に入る」


「そうなんですか…。なんでも…」

 そんなにすごい街が?


(なんでも手に入る……か。だとしたら私の欲しいものはなんだろう…)


「…悪いなサイガ気にしないでくれ。ホープは田舎出身でな。あまり世界の事を知らないんだ。」

ルーフェンは上手くフォローを入れてくれた。


「なんだそうなのか?でもおれも田舎出身だぞ。」


「サイガが?」


「うんそうそう。母さんと父さんは馬と羊飼っててなー。それを継ぐのが嫌で嫌で。おれは兄さんについてったんだ。そんでおれと兄さんは城で働いてるのさ!」

 目の前の少年は自慢そうしながら鼻を擦る。


「そっか……。お城でお兄さんと一緒に働いてるんだ。故郷にはよく帰るの?」


「いや忙しくってさ、あんまり帰れないんだ。……ま、別に帰らなくてもいいけどな!城は楽しいし、おれと同い年の騎士もいるしさ!」

 そう言って彼は先ほど絶賛した肉を頬張る。

 それを聞いたその時、私の胸がズキッと痛んだ。



 痛い…。こ、これは…なんだろう…?静かに胸に手をあてる。



 目の前にいるのは何不自由なく城で楽しく過ごし、何の心配も不安もない未来ある少年。その上故郷も家族もある。



 あぁ、そうか。羨ましいんだ…。サイガのことが。



 私はこんなに寂しいのに。こんなに辛い想いをしてきたのに。私は一人なのに…

 ―――目の前にいるのは、私と対してなにも変わらない少年。


 あぁ、どうして私とサイガは反対に生まれてこなかったのだろう?私の方がきっとずうっと家族を大切にするのに。

 どうして…?私が何をしたっていうの…?



 憎らしい、本当に。妬ましい、心から。



「ん?なんだよ、おれの顔そんなジロジロ見ないでくれよ」


「えっ……?あはは…。サ、サイガなんか口に付いてるよ」


「なに?ほんとか!?なんだよ早く言えよな、恥ずかしいじゃん…」

 少年は口の回りをパッパと手で払う。


 サイガに話しかけられてギョッとした。

 羨ましいというよりも、さっきの私はサイガのことを……



 なんとかごまかしたけれど、サイガを睨んでいたりはしなかっただろうか?自分は一体どんな顔をしていたのだろう…。


 チラリと大人二人を盗み見る。


「なるほど、ルーフェンさんはそう考えておられるのですか。そうですなぁ、でも私の国では……」

 二人ともお酒を酌み交わしながら談笑していた。彼らはどうやら他の話で、別に盛り上がって私たちを見ていなかったみたいだ。

 私は安心して胸を撫で下ろす。



 半分まで減ったコップの水面を見る。



 別にサイガが悪い訳じゃない…。関係ない他人を恨むのは違う…。それに誰のせいでもない。―――恨むとすればそれは運命か…




「なぁなぁ、口の取れた?」


「……う、うん。取れてるよ……。」


「……ん?どしたホープ、お前の顔青いけど大丈夫か?間違って酒でも飲んでんじゃねえの」


「えっ…?だ、大丈夫だよ!別になんでもない」


「そか?ならいいけどさ」

 サイガはピッチャーから水を入れ、ぐびぐびと全て飲み干す。

 そんな純粋な少年を見ながら思う。


(サイガはいい子だ。今だって心配してくれた)


 そうして冷静になろうと努める――が、どこか深い部分の私が、彼は妬ましい、憎らしい…そう言っている……。それは止まらない。


 気がつくとコップを持つ手が震えていた。それに驚いてとっさにテーブルの下に隠す。

 落ち着け私。深呼吸、深呼吸…。大丈夫、私なら大丈夫。

 魔法の言葉を唱え、気持ちを落ち着かせる。



 すると少し気持ちが落ち着き、手の震えも止む。……やはり魔法の言葉だ。

 そして私はコップの水を全て飲み干し一息つく。

 何か違うことを考えよう。そうするには…



「あ!……そうだ。ねぇサイガ、ノの森の迷信って?」


「えぇっ!?お前それも知らないの…?世界七不思議の一つだぞ!」


「世界七不思議?へぇー、面白そうだね…。ねぇサイガ教えてよ」


「しゃ、しゃーねーな!おれが教えてやるか」

 言葉とは裏腹に、仕方なくというよりも嬉しそうだ。


(ふふっ、可愛い所もあるんだ…。サイガはやっぱりいい子だね…)



 もう大丈夫、いつもの自分だ。



「ノの森の迷信ってのはな……」

 するとサイガは急に眉をひそめ、ひそひそ声になる。


「うんうん……」


「ある男の話から始まるんだ……。ほんじゃ話すぜ?チビるなよ??………ある所に一人、旅をしているきままな男がいました。」


「ある日男はいつものように、夕食の獲物を探していました。すると親から離れたのか、一匹でいる子鹿を見つけたのです。運がいい、今晩はごちそうだと喜んだ男は、せっかくの獲物に逃げられないよう慎重に近づきます」



(サイガ話すの上手……。変な所に才能あるんだね)

 ふと気がつくと、バラバイもルーフェンも談笑を止め、サイガに聞き入っている。



「しかし気配に気づかれたのか獲物は森のなかへ。男は決して逃すまいと、気味の悪いうっそうと繁った暗い森に入りました。」


「あ!分かった。それがノの森でしょ?」



「もー!ホープうるさいな。黙って聞けよな。…………男は森に入り獲物をずいぶんと追いかけ回しましたが、結局は獲物を見失ってしまったのです」



「仕方なく諦め、早く気味の悪い森から出ようとする男。しかしその時どこからか、……助けてぇ…助けてぇと子どもの声が聞こえてきます…」


「こ、こわいね…」


「男は驚きましたが、それでも声の主を探します。そうして森を掻き分けていると突然、美しい湖が現れました。そしてその湖の湖畔に子どもが倒れていたのです」


「男はすぐに助け起こそうと、子どもに駆け寄ります。しかし男は近づいて助けるかどうか躊躇します……」


「どうしてすぐ助けないの?」


 私がたまらず尋ねると、サイガは薄気味悪い笑みをニヤリと浮かべた。

「………それはその子があまりにも生気を帯びていなかったからです。子どもは色白でひどく痩せていて、そしてどこか人間とは違う雰囲気を感じました」


「しかし男は意を決し、子どもを助け起こすと…」

 サイガは私の瞳をじっと見る。まるで私の次の反応を待っているかのように。


「お、起こすと……?」


「お前を喰ってやるー!!!」


「っ!!」

 驚いて、椅子から転げ落ちそうになる。そんな私の反応にしてやったりとにんまり笑った。


「そう、子どもの正体はなんと湖の人喰い巨大魚が化けていたのでした!!男は強い力でそのまま湖に引きずり込まれます。助けてくれー!と叫ぶ男……」


「……しかし男が水面から顔を出すことは二度とありませんでした……。そうして美しい湖には男の血だらけになった服だけが浮かびましたとさ。おしまい!」


「こ、こわいねー…。食べられちゃうなんてね」


「ハハッ!面白いかっただろ?……あ!それで迷信ってのは、決してノの森に男は入ってはいけないってことなんだ!」


「ど、どうして?」


「巨大魚はその時喰った人間の男の味が忘れられず、森に入った男は全て喰っちまうのさ!!」


「な、なるほど…。食べられちゃうんだねー。ん?」


 いつものように澄ました顔をしているが、ルーフェンの顔は真っ青だ!


「ふふっ。ルーフェンさん、顔青いですよ?大丈夫ですか?」


「……うるさいぞ、ホープ」


「わははっ!やはりルーフェンさんにも怖いものがあるのですなぁ!どうだホープ君、怖かっただろう?」

 酒を飲み気が大きくなったのか、すかさずルーフェンの傷をえぐるバラバイ。


(あ、初めてバラバイさんに名前呼んでもらえた……。でも"君"ってことはまた男だと思われてる…)



 そのまま赤い顔をしたバラバイが続ける。


「いいじゃないですか、男四人で森に入ってその怪物を倒しましょうや!わははははっ!」

 そう言って彼はルーフェンの肩をバンバンと叩く。


「いや、俺は迷信など信じていないからな。おそらく迷信があるのは、意味もないのに森に入るなとか、森を荒らすなとか…そういう為に作られたのだろう」

 ルーフェンはムッとした顔で吐き捨てるように言った。



 するとその時、建物の外でドッと歓声のようなものがあがる。食堂の中は騒がしいがそれでも聴こえるくらいの大きなものだった。


「い、今のなんでしょうか?」


「おれ見てくるー!」

 サイガは食事の途中だと言うのに、ぴゅーっと走り出てしまう。


「おい!待てサイガっ……!!はぁ、全く…」

 衝動的な弟子に呆れる師匠。


「ホープ、俺達も見に行こうか。もしかしたらお前の観たいものかもしれない」

 一方のルーフェンは私の方を向いてのんびりと言った。


「私の……観たいもの?」

 私の問いにルーフェンは黙って頷き、そしてフッと笑った。


「隠れてしまう前に……な」



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