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精霊の湖  作者: 桜木ゆず
第2章 世界の掟

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第2章 35話 「次へと続く道」

最近ね、私考えるの

私の本当の使命は、あなたに逢うことだったんじゃないかって


もし、もしそうだったなら、私たちはまた……


 


「ルーフェンさんッッッ!!!」



 私が呼ぶと、そこで気がついたのか、ゆっくりと目を開けた。



「あっ!起きたっ…!」

 気がつくと、私の(ほほ)の上を、ボロボロと涙が落ちていた。



「………イリーナ?……………ん、ホープ……か?なんでお前がここにいる?まだ試合中だぞ、入ってきたらダメじゃないか」

 横になったままの彼は、そうボンヤリと話した。


 ルーフェンさんは状況を理解していないようだ。

 まだ試合を続けるつもりなのだろう。



「違うんです!私…っ、どうしようっ、どうしたらいいの…?」

 頭が働かない…。



 一方、ルーフェンさんはキョトンとしている。

「どうしたんだ、ホープ。お前なんで泣いてる?」



 呆然(ぼうぜん)と立っていたバラバイも、やっと動き出した。私たちに駆け寄ってくる。


「よ、良かった、意識はあるようだ!!……すまなかった、つい魔法を無意識の内に……。」

 魔法を使ったバラバイが一番驚いていたようで、その顔は真っ青だ。


「と、とにかくすぐに運ぼうっ!!ゆっくりなっ!」




「大したことはない。別に、運んでもらわなくても大丈夫だ」

 未だにキョトンとしている彼は、そう言ってムクッと上半身を起こした。



「う、動いちゃだめですっっ!」

 私は悲鳴のように叫びながら言う。



「ん…?」


「っ!?」

 そして体を起こした彼は、ついに在るべき物が無いのに気づいた…




 彼は黙ったまま、しばらく固まってしまった。



 当然だろう……。


「ル、ルーフェンさん…」


「私が魔法を……、すまないっっ!私のせいだっ…」



 私はルーフェンさんがどう反応するのか、全く検討がつかなかった。

 でもどんな反応をしたとしても、辛いはずだ。

(私が支えてあげなくちゃ……)



 すると、固まっていたルーフェンさんは、なんの前触れも無く、急に天をあおいだ。

 そして大きくため息をついた。


「はぁ……」


「………なんだ、そう言うことか。バラバイさん、大丈夫ですよ。…ホープも泣かなくていいから」

 こんな時でも彼は、私にすまなさそうに微笑みかける。




(!?……どうして、いつもそうなの??なんで??)




「どうしてっ!?だって、だってっっ!!!ルーフェンさんの右足がっ!!」

 涙でルーフェンさんの顔がぼやける。



「おい、落ち着け。ホープ、俺の足をよく見てみろ。血、出てないだろ…」

 彼は落ち着いた声で、ゆっくりと言った。



「えっ…??」

 自分の耳が信じられなかった。

 しかし、私は止まらない涙を(そで)(ぬぐ)いながら、言われた通りに足を見る。






「えっ!?………なん……で??」

 私は自分の目を疑った。

 そしてもう一度、自分の目を拭った。しかしその光景は変わらなかった。



 彼の右足はスネの辺りから、ちぎれているというのに、一滴も血が出ていなかった



 先程の彼と同じように、私も固まった。自分が見ているものが信じられない。

「どうして…??」





「俺は義足なんだ」





「ぎそ…く…?」

 少しおどけて笑う彼から、目が離せなかった。



「あんた義足だったのかっ??」

 横からそう言ったバラバイも、同じく驚いていた。


「ああ。だから死にやしないさ」

 すると口の端を上げて、私に微笑みかけた…



(だから大丈夫、心配するな……)

 その顔を見た私には、彼が心の中で私にそう言ったような気がした。



「ル、ルーフェンさんっっっ!」

 私は泣きながら抱きついた。涙が止まらなかった。

 怖かった。また失ってしまうんじゃないかって。

 すごく怖かった…。




 そしていつかのように、ただ黙って優しく、泣いている私の背中をさすってくれた。




「……ハァー、良かっっった~!!ルーフェンさん本当にすまない…」

 バラバイは安堵の声を出していた。


「いえ、大丈夫ですよ」



「なぁホープ、悪いがそろそろ離れてくれ。……肩が痛いんだ」

 少し苦しそうに言った。


「あ…、ごっ、ごめんなさいっ!」

 私はパッと離れる。

 ルーフェンさんはいつものように、フッと笑っていた。



 そしてようやく、何人かの人たちが集まってきた。

 彼らは手際(てぎわ)よく、担架(タンカ)といくつかの医療用品を持ってきたようだ。


「意識はあるようですねっ。私は医者です、すぐに診ますねっ!」

 医者はルーフェンさんの膝元に座る。


「!?」

 しかし医者はすぐに義足だと気づいたようだ。そしてすごく驚いていた。


「これは義足ですか?」


「ええ、だから大丈夫です。その、松葉杖とかはないですか?このままでは歩けないので…」

 ルーフェンさんは困った顔をしている。



「ええ、分かりました。とその前に…、頭とかは打ってないですか?腰とか…」


「たぶん頭は打ってないが、吹っ飛んだときに左腕と肩を痛めたかもしれない。診ていただけると助かる」


「分かりました。では、すぐに診させてもらいますね…」









「ふぅ…。やっと座れる。だがやはり歩きにくいな…」

 ため息をつきながら、彼はゆっくりと椅子に座る。


「体、大丈夫ですか?ベッドに移りますか?」


「いや、椅子でいい。……松葉杖でも歩きにくいな。早く義足を付けたい…」



 あの後、しっかり医者に診てもらったが、腕と肩を打撲(だぼく)したくらいで、特に大きなケガもなく済んだ。

 しかし二人の試合は結局中止になったのだった。



 そして今は、医者に「安静にしなさい」と言われ、私達は宿に戻ってきていた。




「ルーフェンさんって義足だったんですね。今まで全く気がつきませんでしたよ」



「ああ。驚かせてすまなかったな…」

 松葉杖を椅子に立て掛けながら、申し訳なさそうに言った。



(でも本当に良かったと思う…)



「うーん、それにしてもバラバイさんとサイガ、遅いですね…。義足修理しに行くって言ってから、もうずいぶん経ちますね…」


 私はその場面を一人思い出していた……









「本当にすまなかった!!」

 深々と頭を下げ謝罪するバラバイ。先ほどから何度も何度も謝っていた。



「今までほとんど魔法の練習をしてこなかったから、つい…。いや、でも理由はどうあれ、私はとんでもないことを!」

 バラバイは自分の頭をかきむしった。


「くそっ…。私に何かできることはありますか?!」



 そして、なぜかサイガも一緒に謝っていた。

「オ、オレもっ!なんか手伝います…」

 彼もまた、まるでしおれた花のように元気がなかった。




 ルーフェンさんはそれにすごく困惑しているようだった。

「どうしてキミまで…。バラバイさんもですが、俺は大丈夫ですから。何もしなくていいですよ…」

 そう言うと、小さくため息をついた。



「いえ!本当に申し訳なかった!!」

 師匠がそう言い、頭を下げると、弟子も一緒に頭を下げた。



 するとルーフェンさんは私を見て、口をパクパクした。



(た・す・け・て・く・れ)



 そんな彼に対して、私は苦笑いするしかなかった。

 あぁ、こういうの苦手そうだもんな…。何か案を考えようか…



「あ!じゃあこういうのはどうでしょうか?義足を修理してもらうっていうのは?」



「もちろんだ!ぜひ任せてくれっ」


「この街一番の修理師に頼みに行きますよ。もちろん費用は全部私が出しますっ!今すぐにでも、行ってきていいですかね?」


「じゃあそれで。お願いします」









 というやり取りが、医者に診てもらっている時にあったのだった。


「もしかして、この宿の場所が分からなくて、迷ってる……とか?」


「確かに遅いな。あれからもう3時間くらいか?


「………だがまぁ義足なんて、大きな街でも修理できる者は少ない。もしかすると、まだ修理師を探しているのかもしれない」



「そうなんですか…。義足って大変なんですね……。…………あの、ルーフェンさん」


「ん?」


「その……。足のこと、聞いてもいいですか?」

 私はチラリと様子を見る。



 すると彼は少し、意地悪そうに笑った。

「なんだ、まだ俺に遠慮(えんりょ)してるのか?別にかまわない。知りたいと思うのは当然だろうからな」



(!!)

 言ってみて良かった…



「ありがとうございます。えっとじゃあ、……どこから足がないんですか?」


「スネの少し上の辺りからだ。………魔法が当たったのが右足で、それも、足首で良かったよ。まさに偶然か、それか奇跡だな。」

 そう言いながら、少しホッとしたように、彼は右膝を(さす)る。


 私はその様子を観ながら思った。



 私の心には、重くて、つっかかったモノがあった。

 いいだろうか?聞いてみても…




「じゃあ……。その…、あの……」



 私は大きく息を吸った。

「どうして足がないんですか?………生まれつき…ですか?」

 息を吸ったその勢いで、そのまま言った。



「いや違う。生まれつきではない」

 彼は少し微笑んでそう答えた。




 その答えを聞くと、心がさらにモヤモヤした。




「じゃあっ…なぜですか?」


 すると彼は真顔になった。そして、私の目をじっと見た。



「……なぁホープ、俺に言いたいことがあるんだろ?かまわない、言ってみろ」



「!?」

 驚いた。彼は私の心が分かるのだろうか?



 ……どうやら私の心は見透かされていたようだ。それならもう、言ってしまおう。



「もしかして…ルーフェンさんって……」

 しかしそこで言葉が途切れてしまった。そして心臓の鼓動が速くなる。

 尋ねたい。だけどその答えを聞くのが怖かった。



 しかし心を決め、真っ直ぐに彼の目を見て言った。


「もしかして、奴隷………だったんですか??」



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