第2章 34話 「対戦」
「それでは第8回戦です!参加者は15番、ルーフェン殿!」
「そして16番は、待ちに待った前回の優勝者、バラバイ殿だ!!」
観客達はバラバイの登場に大盛り上がりだった。前回の優勝者らしいから当然だろう。
バラバイは観客に笑顔で手を振っていた。
一方のルーフェンさんは、居心地が悪そうに頭を掻いている。
しかし彼がどれだけ強いかは私が一番知っている。
(ルーフェンさんが負けるはずないよね)
「…で、なんでお前がいるんだよ」
とても嫌そうに、私に対して顔をしかめる少年が言った。
「………しょうがないでしょ。参加者の関係者はここにいなきゃいけないんだから…」
最悪だった。
サイガと私は、参加者の関係者用に設けられた待機所にいた。
それも二人きりで…。
まあでもこの待機所、試合がよく見える所だから嬉しいけど。
背が低い私に、観客達の人混みは厳しいから。
しかしなんとまあ、気まずいこと。
(サイガまださっきの事、怒ってるのかな。別に仲良くなりたいわけじゃないけど…)
黙ってても仕方ないから、サイガと話をしてみようか。
「ねぇ、バラバイさんの試合見に来てくれる人、あなたしかいないの?……あ、別に嫌味じゃないからね。良い人そうだから、知り合い沢山来そうなのに」
「ん?あぁ、もちろん師匠にはたくさん仲間がいるさ!だけど皆忙しいんだよ。だからオレしか来れなかったんだ」
「忙しいの?どうして?」
「師匠は城で隊長してるからな!その師匠が抜けたら大変なんだ。師匠、隊長なんだぜ?カッコいいだろ!」
「城で…隊長……?もしかして騎士なの?」
「えっ?そりゃ騎士に決まってるだろ…」
「そ、そうなんだ」
(バラバイさんって騎士だったのか…。)
私は騎士の事をよく思っていないから、バラバイさんが騎士と聞いて正直驚いた。
(騎士って自分勝手で暴力的で、貴族にゴマをする、嫌な奴らだと思ってたけど…。そうじゃないのかなぁ………)
少なくとも、さっきバラバイと話したとき、嫌な感じはしなかった。
むしろ、こういう大人は信頼できそうだと思った。
…もちろんルーフェンさんの方が信頼できるけどね。
バラバイはまだ観客たちに手を振っている。
そして最後に私達の方を向いてニカッと笑った。
「師匠!頑張ってっ~!!」
それを見たサイガは、そのかすれた声で激励をおくった。
それともあの人も、城では奴隷を殴っているんだろうか…?
「お前も、応援しなくていいのかよ?」
「えっ……?あ!」
「ルーフェンさーーん!!」
私は思いっきり手を振った。何も言わなくても、名前を呼ぶだけで十分だ。
ルーフェンさんはただ黙って私に頷いた。
「先程は、うちの弟子がすみませんね…。ではルーフェンさん、よろしくお願いします」
「ええ」
バラバイの笑顔がスッと消え、目つきが変わった。
ルーフェンさんもそれに合わせ、身を低くして構える。
「はっ!」
そして、ついに始まった。
最初はバラバイからだった。左足を軸にして、右足で突くように蹴った。
しかしルーフェンさんはそれを軽くかわす。
それだけでは終わらず、それに続いて今度は右足を軸にして、左足で蹴りあげる。
ルーフェンさんはそれを腕で受け止めた。
しかし蹴りが重かったのか、少しよろける。
「っ!」
よろけたが、しっかり相手の隙を見つけたようだ。思いっきりバラバイの顔を、殴り付けた。
「がっ!」
バラバイもよろけた。
そこで一旦、二人とも体勢を整える。
「師匠っっ!……お前の師匠もなかなか強いな。いつもなら直ぐに決着なんかつくのに」
「ふふっ、そうでしょ?」
体術とか武術のことはよく分からないけど、バラバイも強いのは分かった。
両者一歩も譲らない。
ヨロヨロとしながらも、バラバイは拳を構える。
そして何発も殴りかかる。
しかし、ルーフェンさんはそれを冷静に避ける。がどうしても避けられない時に受け止める。
私とサイガは戦いに見いっていた。
どうやらルーフェンさんは隙のある時を見極め、確実に反撃するタイプのようだ。
一方のバラバイは、とにかく相手に攻撃する暇を与えないよう、続けて攻撃している。
数打てばあたるよう、相手が攻撃を避けられず、それを受け止めるように仕向けているみたいだった。
バラバイの攻撃は重いようで、うまく確実に受け止めたとしても、ダメージは大きいようだ。
この試合、長引けば長引くほど、ルーフェンさんに不利だろう。
攻撃を、受け止めれば受け止めるほど、辛そうになっていく。
しかしそこでまた隙を見つけたのか、今度は回転して、バラバイの顎を蹴る。
「がはっ…」
そしてバラバイは思いっきり吹っ飛んだ。
「くそっ!私は絶対負けられないんだっっ!!」
バラバイはサイガの方を見る。
「ハァハァ……、悪いが俺も負けられない…」
両者とも、息があがっている。
すぐにバラバイは起き上がり、拳を構えた。
ルーフェンさんも身を低くして構える。
「私は負けられないんだっ!」
そう言うと、バラバイの手に白い光が集まったのが見えた。
(!!…………あれはなに!?)
私は目を凝らして、それを見る。まさか……
しかしルーフェンさんは、特に気にする様子なく、最後の決着を決めにいく。
「はぁッッ!!」
バラバイの頭を目掛け、右足を思いっきり蹴りあげた。
「くっ!負けられないっっ!!」
これで決着がつくと思ったが、その予想は裏切られた。
バラバイはタイミングをよく見極め、ルーフェンさんの右足首を両手でしっかり掴んだ。
「ッ!!?」
ルーフェンさんは驚いていた。
が、すぐに冷静になり、足を捕まれながらもバランスを崩すことなく、右腕を大きく振りかぶる。
その時、辺りの空気が振動したのを肌で感じた。
この感じはまさか……!!
(魔法だっ!!!)
「ルーフェンさんっ!!!」
私が叫んだその瞬間には、もう遅かった。バラバイは魔法を放っていた。
ルーフェンさんの足を受け止めていた手から、衝撃の波が放たれた………
スパンッッッ!
それは一瞬の出来事だった。
ルーフェンさんは強い力で、回転しながら後ろに吹き飛ばされる。
そしてそのまま、仰向けに倒れた。
「っ!!!」
私はそこで声にならない悲鳴をあげた。
会場の観客達からも悲鳴や怒号が飛んでいた。
ルーフェンさんの右足は、吹き飛んでいた…
「そんな…!うそ、うそっ!!!ルーフェンさんッッッ!!!」
「あ、足が…」
サイガは腰が抜けたように、地面にヘタリと座り込む。
考える前にただただ、体が動いていた。
私は柵を乗り越え、駆け寄った。
右足は、まるで引きちぎられたように、ズボンごとスネから下が無かった。
「ル、ルーフェンさんっっっ!!」
名を呼びながら肩を揺する……。が、気絶しているのか、反応がない。
「やだ……やだよっ!ルーフェンさん!目を開けてっ!!!!ルーフェンさんッッッ!!!」




