表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊の湖  作者: 桜木ゆず
第2章 世界の掟

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/74

第2章 33話 「師弟」

 


 あの空にどんな赤い月が昇るのだろう?

 それは美しいものだろうか、それとも禍々(まがまが)しいものだろうか?


 雪の結晶が寒空(さむぞら)から冷たい土へと流れていく。私はそれをただ黙って眺めていた。



「ホープ、どうかしたか?」


「…いえ、あの料理美味しかったですね。とっても甘くて!」


「……………いや、実は俺は甘いのは苦手なんだ。まぁ食べれない程ではないがな」


「え!?そうだったんですか…」

 だとしたら、すごいポーカーフェイスだ。普通に食べてたもん…


 他のものはどうなんだろう。実は嫌いなもの多いのかな?



「えと、じゃあ辛いものは?」


「辛いものは好きだな。……俺の故郷は寒かったから、香辛料の効いた料理が多かったんだ。たぶんそれで自然とな」


「そうなんですか。故郷が……」

 ルーフェンさんの故郷ってどこだろう?

 聞いてみてもいいのかな?でも聞いてもきっと、私には分からないか…






(ん?なんだか視線を感じる…)



「誰かに視られてるな。ホープ用心しろ」

 ルーフェンさんも気づいたようで、警戒して辺りを見回す。



 すると、私たちにズカズカと近づいてくる影があった。

 それは無愛想(ぶあいそう)な顔をした13、4歳の少年だった。



(ん?この子どこかで見たことある……)




「おい、あんたが15番のやつか?」

 それは声変わりの始まったガサガサの声だった。


「?ああ。そうだが」


「ふん……、あんた弱そうだな」


「なっ!?」

「……………」


 驚いて声が出た私に対して、ルーフェンさんは黙っていた。

 彼は特に気にした様子もなく、少年の出方(でかた)を待っている。



 落ち着け、私…。ルーフェンさんを見習わないと。

 いつでも冷静に冷静に。




 私はゆっくり息を吸って、できるだけ優しく尋ねた。

「………君は誰なの?」



「お前こそ誰だよ?オレはこいつに用があるんだから。」

 と少年はルーフェンさんを指差す。一方のルーフェンさんは迷惑そうな顔をしている。



「オレはサイガ。次あんたと戦う16番、バラバイ弟子だ!」


「弟子?……………あっ!!」


 この子どこかで見たと思ったら、教会だ!

 戦祭りの申し込みの時に見た…。



 師匠なら戦祭りで優勝するよとかなんとか……

 確かこんな感じの事を言ってたな。それで師匠と呼ばれた人は嬉しそうにしていて…

 じゃあ、あの人が次の対戦相手か。




「えっとサイガ君?それで何の用があるの?」


「だからお前には関係ないだろ。ん?……もしかして、お前こいつの弟子か?」


「弟子?!ち、ちがっ……!」

「お前チビで……ほんとに男か?なんか男っていうより女みたいだな。お前も弱そうだ」


 また男に間違えられてカチンとくる。そしてサイガが私の言葉を(さえぎ)ったため、弟子ではないと否定し損ねてしまった。


「お前ガリガリだし、背も低いし。それにオレの方がよっぽど男前だね!ふん、勝ったな」


「ぐっ!」

(なんなの?!!ホント失礼な奴!!もう、怒った!)



「男前?どこが??………声なんてガッッサガサだし!!その変な声で一生悪態ついてれば??御愁傷様!!」

 私は嫌味たっぷりにお返しする。


「なんだと?!この女男め!!」


「女男なんかじゃない!私はっ…!」


「ふはっ…!おいおい、お前ら…」

 それを見ていたルーフェンさんが、とうとう吹き出した。

 彼は目を細め、私達に優しく微笑んでいた。



「!?」

(ルーフェンさんのこんな顔見たの、はじめてだ…)

 あまりにビックリして、怒りもスッとどこかへ飛んでいく。




「わ、笑うな!」

 少年の顔は真っ赤になる。


「それで、君は俺に何の用だ?何か言いたいことあるんだろう?」


「オレの師匠は強いんだ!だからお前なんて勝てっこないから、試合を棄権(きけん)すればって言いに来たんだよ!」


「棄権?ルーフェンさんが?」


「そうだ!なんたって師匠は去年の優勝者だからな!」


「………………そうか。お前は師匠の事が大好きなんだな」

 いつも通りクールにフッと笑う。


 でもなんだか羨ましそうにしてる。私の気のせいだろうか?



「棄権はしない。それほど強いなら、俺はなおさら戦ってみたい。」


「それにお前は師匠が強いと思うなら、師匠を信じて勝つのを待て。弟子のお前はそうあるべきだ。相手に棄権を促すのではなく」

 ルーフェンさんは言い終わると、少年の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。


「な、なにすんだよ…」

 でも少年の心に響いたみたい。

 さっきまでの闘志がどこへ行ったか、急にシュンとする。





「サイガっ!」

 大声で名を呼ばれた少年は、驚いて飛び上がる。

「し、師匠!」


 確かバラバイ……さんだったかな、名前?

 黒髪で、年齢は35くらいだろうか。


 近くで見るとずいぶん背の高い人だな。筋肉もすごいし、本当に強そう…。




「全く。どうしてそうお前はうろちょろするんだか。………どうもすみません、うちのが迷惑かけませんでしたか?」


「いえ、大丈夫。かわいいお弟子さんですね。あなたの事が大好きなようだ」

 ルーフェンさんはニヤリとして、少年を見る。

 ばつの悪そうに、少年はうなだれている。



「えっ……?わははははっ!どうやらご迷惑、おかけしてしまったようですな」

 その意図に気づいたようで、バラバイは豪快に笑った。



「ん?あなたも、かわいいお弟子さんをお持ちのようだ」

 バラバイは私をチラッと見た後、すぐにルーフェンさんに、視線を戻す。


「ん?あぁこの子は………ええっと…」

 彼はどう説明すればいいか、考えてるみたいだった。

 そりゃそうか。奴隷だったのを助けた、なんてよく知らない人に言えないよね。



 絶対、引かれるもん。



 バラバイは何か察したのか、話題を変える。

「じゃあ、もしかしてあなたがルーフェンさんですか?15番の」


「ええ。あなたがバラバイさんですね。試合、よろしくお願いします」


「こちらこそ。……お互いカッコ悪いところを弟子に見せられませんな。ま、頑張りましょうや」


「ほれ、サイガ行くぞ。ちゃんとこの人たちに謝れよ」


「すみませんでした」

 サイガは深く頭を下げた。










「面白い人達でしたね」


「そうだな…。まぁホープもだがな」


「えっ?私?」


「ムキになってただろ。言い合いのとき…」


「!!………そ、それは女男って言われたからっ!!!」


 その時、祭り関係者に声を掛けられた。

「15番のルーフェン・ディンさん。そろそろ準備をお願いします」


「分かりました」


「では、準備できましたら、試合用控え所に来てくださいね」


 ルーフェンさんが一度(うなず)くと、関係者はどこかへ去っていった。



「………………と言っても、もう何もすることはないんだがな……」



「あれ?支給された服に着替えなくていいんですか?どうして長いズボンなんですか?」

 上は試合用の半袖だか、下は支給された半ズボンではなく、茶色の暖かそうな長いズボンだ。


「ん?あぁ、いいんだ。ちゃんと許可もとってある。俺は……」

 そこで口を閉じる。そして眉をひそめる。

 どうやら言葉の続きを言いたくなさそうだ。



 なんだろう?

 ……でもルーフェンさんが言いたくないなら、訊かないでおこう。


「じゃあそろそろ行くよ。ま、ホープは気楽に待っていてくれ」

 彼はそう言うと、私に背を向け歩きだした。



「あのっ!ルーフェンさんっ!」

 呼び止めると、彼は振り返る。


「ん?」


「ケガ、しないように…。気をつけて」


 彼はやはりいつも通り、フッと笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ