第2章 32話 「答え」
「もしルーフェン様の試合が終わっていたら、ごめんなさいね…。私が無理に誘ってしまったようなものですわ」
「いえ!私がのんびりしてたのがいけないんですよ」
私とレギンさんは出店の通りを抜け、闘技場に戻っていた。
ずいぶん長く闘技場から離れてしまったような気がする。
まだ試合始まってないといいけど……。
「あれ?闘技場の外に人がたくさんいますね…。さっきまで全然いなかったのに。どうしたんでしょう?」
先程とは打って変わって、閑散としていた場所は人で賑わっていた。
もしかして戦祭りに飽きたのだろうか?
「たぶんお昼の休憩じゃないかしら?」
「えっ?!お昼…」
もうそんな時間だったのかと驚く。やはり長居しすぎてしまったかな…。
そんな人で賑わった中、背の高い一人の人物に自然に目が向いた。
その人は私のよく知っている人だった。
「ルーフェンさんだ!」
彼は闘技場の外でキョロキョロしている。
見つけたと同時に不安な気持ちになる。
(もしかして試合終わっちゃったかな…)
「ルーフェン様を見つけたの?えっと、どこかしら…」
「あそこです!」
私は指で差し示す。
するとすぐ、レギンさんも見つけらたようだ。
「あら、どうやら彼の試合はまだだったみたい。良かったわね!」
「えっ?どうして、分かるんですか?」
「ふふっ、それはね、試合で勝つと赤、負ければ白のタスキを掛けていなければならないの。彼はそのどちらもかけていないからよ」
そう彼女はのんびりと話す。
「へぇー、分かりやすいですね」
「じゃあ私もそろそろ戻ろうかしら」
レギンさんは明るくて、楽しくて、一緒にいると元気になれる。
そんな彼女ともう少し話していたかったが、仕方ない。
「レギンさん、ありがとうございました。すごく楽しかったです…」
「ふふっ!いいえ、こちらこそ。じゃあまたね………!」
レギンさんは手をヒラヒラと振ると、どこかへ去っていった。
やっぱりレギンさんは不思議な人だ。
まるで自由な風だ。
(自由か………。私、今本当に自由なんだろうか?)
自由ってなんだろう?
(あ、そだ、ルーフェンさんの試合、まだだったみたいで良かった…)
そうホッとすると、なぜだか急に、ルーフェンさんをからかってみたくなった。
レギンさんの性格が移ったのだろうか…?
私はちょっぴり驚かしてみようと、見つからないように、彼にソロリと近づいていく……
そして後ろから声をかけた。
「ルーフェンさん!」
「!!」
案の定、驚いたようだ。パッと振り返った彼は目を見開いていた。
(やった!驚いた!!ルーフェンさんにも隙があった!)
「………………ホープ!お前どこまで行ってたんだ。探したんだぞっ!」
そう言うと彼は怖い顔をした。
(えっ?もしかして……、いや違う、絶対ルーフェンさん怒ってるよね)
驚かしたからかな?
「ご、ごめんなさい」
「…………あまり遠くまで行くなと言っただろ。まったく……」
腰に手を当てて、ハァとため息をつく。
ため息をつくとすぐ、彼はいつも通り冷静な真面目そうな顔になった。
「ホープ、祭は確かに楽しいものだ。だがな、祭りでは普段、日陰にいるような悪い連中も出てくる………。だからあまり勝手をするな」
まるで小さな子どもに言い聞かせるように、ため息混じりで言った。
ルーフェンさんに初めて怒られてしまった。
私は彼の顔を見れなくなりうつむく。そうしてジワリと目に涙が溜まっていく。
しかし怒られて悲しかったからではない。すごく嬉しかったからだ。
それは彼が本気で私を心配していてくれたのだと思えたからだ。
彼は怒ったのではなく、叱ってくれたんだ。
たとえ私の思い違いだったとしてもいいから………
この世界でたった一人だけでもいいから………
私を心から心配してくれる人がいれば、私はこの世界で生きていてもいいのだと思えるから……………
おじいが死んで、奴隷の仲間とも離れ、一人になったあの時……
自分が死んでも誰も悲しむ人はいないと思った。
でも今は違うと思える。
私はずっと答えが欲しかった。この人を信じてもいいのだろうかと。
でも今分かった。そうではなかったのだ。
この答えは、相手から求めるものではなかった。
自分から信じてみることが答えだったのだ。
例え裏切られたとしても、それでもいい。
私、この人の事を信じてみよう…………
心から。
涙をグッと堪え、前を向く。
「ごめんなさい、でも心配してくれてありがとうございます」
「………ああ。」
彼は私の声に応えると、フッと笑った。
「じゃあ、昼飯でも食べに行くか」




