第2章 31話 「少し離れて」
「レギンさんは、どうしてここに?」
彼女はゆっくりと私の隣に座った。
「それはね……。私…、戦祭り好きじゃないの。だから出てきちゃった!」
「ええっ…?」
仮面で表情は見えないけれど、きっといつものように、優しく微笑んでいるのだろう。
(……レギンさんって本当に自由だな…)
「そうなんですね。私も同じです。戦祭りって、ただのケンカのように見えてしまって」
「そうね…。」
彼女は仮面を着けた顔で、強く頷いた。
「まぁ、でも伝統だから続けなくてはいけないの。こればっかりは仕方ないわ」
それからは二人とも口を開かず、ただ通りを歩く人を眺める。
「そうだわ!ねぇホープ君、ヒマなら一緒にお祭りの出店!見て回るというのはどうかしら?」
彼女は自分の出した提案に対して楽しそうに、はしゃいでいる。
「出店?」
「ここから歩いてすぐの通りに、お店がいーっぱい出ているの!せっかくだから行ってみない?」
(見たいな…!一体どんなものが出てるんだろう!)
「行きたい……です。でもルーフェンさんの順番が来るかもしれないですし……」
「大丈夫よ。本当にここからすぐだから!少しだけ。ね?」
「じゃあ少しだけなら…」
私達は二人、出店の通りにやって来た。
本当にすぐ近くで、闘技場から5分も歩いてない。
店がずらりと並んでおり、人で混みあっていた。
(わぁ…!こんなにお店がたくさんあるなんて!全部見てまわりたいなぁ)
「あら!あそこのお店、人が集まってるみたい。ホープ君、行ってみましょう」
「ワンッワンッ!」
「かっわいいな~!!」
「お兄ちゃんばっかりずるい!!私にも触らせてよー!」
「僕にも僕にも!!」
どうやら子供たちが、白い犬の周りに集まっていたみたいだ。
人懐っこいのか、尻尾をしきりにパタパタしている。
(ぐっ……。かわいい~!私も触りたい…、モフモフしたい…)
「毛色が真っ白ね。すっごくかわいいわ!犬がいるなんて、一体どんなお店なのかしら?」
「やぁ、いらっしゃい。そうだろう?白くて、かわいいだろう?去年生まれた子さ。タルクっていうんだい。」
この出店の店主だろう。
小太りので中年くらいの、気が強そうな女性だ。
「………ん?仮面なんか着けて、アンタどうしたんだい?」
「えっと、お気になさらないで。ここはどのようなお店なのかしら?」
「あぁ、動物用品の店さ!アンタ達、何か動物は飼っているのかい?」
「いいえ。……レギンさんは?」
「…残念ながら飼っていないの」
「あらら、アンタ達にとっては、あまり興味のない店かもね…」
小太りの女性は、残念そうにため息をつく。
(なんか悪いことしちゃったかな…。ん、これは?)
「これは、銀の……笛ですか?」
それは人差し指くらいの長さと太さで、小さな小さな笛。
(楽器かな?)
「あぁ、それは犬笛だよ。」
「犬笛?」
「犬を呼ぶための笛さ。すごく高音が出るんだよ。」
「犬は人と違って、その高音が良く聴こえるんだ。だからもし、犬と離れていても、吹けばすぐ駆けてくるのさ。」
「あら、面白いわね…。それにすっごく便利!」
「そこのタルクも犬笛で調教してるからね。吹けばすぐ駆けてくるよ。」
店主は自信満々といった顔で、タルクを見る。
そしてポケットから犬笛を取り出した。
それを口に咥えて……
「ッーーーーー!!」
なんとも言いがたい高音が、彼女の吐く息と混ざって鳴り響く。
その音は私の耳を通り抜け、ずっーと遠くまで風に乗っていった。
そして真っ白なタルクが、本当に駆けてくる。
その忠実な犬は、店主の足下で、ピタッと留まった。
「よしよし、いい子だ。」
店主はタルクの頭を撫でる。
確かに、これなら遠くまで聴こえるのも分かる。
でもあまり好きな音じゃないかな、頭に響くし。
そして何よりも………
私は嬉しそうに、尻尾を振るタルクを見る。
遠くまで聴こえるこの音に、縛られてる感じがするから……。
「どうだい?」
「ふふっ、すごいわ!お利口さんなのね」
「すごいですね。………でも私、犬笛の音って嫌いです。頭に響きませんか?」
「えっ??アンタ……」
店主が驚いた表情で私を見つめる。
「こりゃ、たまげたね。アンタこの犬笛の音、聴こえるのかい?」
「?………ええ。」
「そっちの仮面の子は?聴こえたかい?」
「いいえ、私には。聴こえなかったわ。」
「そうだろうね………。この犬笛は人には聴こえない音域を出してるんだが…。アンタ相当耳がいいね!それかアンタもしかして…………」
そう言って私の顔を覗きこむ。
(な、なに?)
「犬なんじゃないの?!」
大真面目な顔で店主は言った。
(えぇっ?)
「ええっ?!ホープ君が?うふふふっ………!」
レギンさんは笑いが止まらないようだ。
仮面の下でも、おもいっきり爆笑しているのが分かる。
「犬って……」
どう反応したらいいのか分からない。
褒めてるの?それとも………
「あっはっは!冗談だよ。冗談!そんな嫌そうな顔、しなさんな!」
笑いながら、私の肩をバンっバンっと強く叩く。
(うーー。やっぱりバカにされてたんだ………)
「…………でも本当に聴こえないものなんですか?」
「種類によっては、人に聴こえる犬笛もあるよ。でもアタシの商品は、かなりの高音域の部類なんだ。普通の人には聴こえないよ。」
「………そうだ、アンタに犬笛やるよ。アタシのが聴こえた人間なんて初めてさ。ほんとアンタは面白い子だよ。」
「いいんですか?」
「ふふっ、頂いておきなさい、ホープ君。」
店主は、店の商品の犬笛を手に取る。
「これは首に掛けれるよ。アクセサリーにもなるし、オシャレだろう。ほらこっち来な」
そう言って、首に優しく掛けてくれた。
「ありがとうございます!大切にします」
私はその犬笛をじっくりと眺める。
「ホープ君、そろそろ行きましょうか。少し長居しすぎたかも……。急がないといけないかもしれないわ………」
「え?どこにですか?…………あ!ルーフェンさんの試合!」




