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精霊の湖  作者: 桜木ゆず
第2章 世界の掟
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第2章 27話 「解釈」

 


 ルーフェンさんは楽器から口を離した。

 空気が震えるのが止んだ。




 店は静寂に包まれていた…。




「パチパチパチッ!」

「ピュー!ピュー!」

「素晴らしい!もう一曲!」

 せきを切ったように、ドッと拍手や歓声がわきあがる。



 ルーフェンさんは黙って深くお辞儀をした。

 私はその隙にゴシゴシと涙を拭く。




(私、頑張ろう…。いつか幸せになるために。)




「ありがとう、聴いてくれて。今日はこのくらいにしておくよ。」

 ルーフェンさんは、そう言うとステージを降りた。


 客たちはもう一曲!

 と、せがんでいたが、奏者がステージを降りたので、諦めたようだ。

 客同士で話をし始めた。





 そしてルーフェンさんは私の方に歩いてきた。



「どうだ?自分で言うのもアレだが、きれいだっただろう?」


 泣いたのがばれないようにいつも通りの顔をした。



「……ぇえ…。」

 泣いた後だったからか、喉がつっかえてうまく声が出なかった。



 するとルーフェンさんは私をじっと見る。



「……ホープ、泣くことは別に恥ずかしいことじゃない。隠すことはない。」

 私の頭を撫でる。


「すごくきれいで……。音にあんな力があるなんて知りませんでした。」

 頭を撫でられて嬉しかった。


 だって、まるで………。



「そうか。俺の演奏に感動してくれてありがとう。」


 その手が優しくて、また泣きそうになる。

 心が温かくなった。





 その時、キーンと耳鳴りがした。

(な、なに?)

 頭に音が響き、ある光景が浮かんだ。目の前の景色が変わり、ある場面になる。その場面は、目の前でその光景を見ているように鮮明で鮮やかだった。



『泣くな。大丈夫。絶対なんとかするから…』

 男性の低い声だ。そして私の横に幼い金髪の男の子がいた。男の子と目線が同じなことから、幼い時の自分だということが分かった。


(これは……、もしかして私の過去?)


 男は、私たちの頭を優しい手で撫でてくれる。そしてしゃがんで、私と男の子両方とも一緒に抱き締めてくれた。

 男の子は私と同じように泣いている……。



 この人たちは一体誰…?



 どうして私、泣いてるんだろう。

 何が悲しいんだろ。

 悲しい?いやちがう、怖い……のかな。

 何を怖がってるの?



 私…、なにか大切な事を忘れてる。



『キィィィーン』

 最後に鋭い耳鳴りが聴こえたと思ったら、その光景はパッと消えてなくなってしまった。

 私の体は震えていた。



 こんなこと初めてだった…。何かを鮮明に思い出すなんて。


 でも…………、嬉しかった。光が見えたような気がした。


 だって私は今までずっと………





「ルーフェンさん、良かったよ!」

 そこでハッと現実に戻った。あご髭の主人が嬉しそうにルーフェンの背中を叩いていた。


「これは客からチップとしてもらった金だ。約束通り半分は店がもらったからな」

「あぁ、かまわないさ。こちらこそ礼を言う」


 チップはなんとジョッキに入れられていた。いつの間に客から集めていたんだろうか…。

 主人はジョッキごとルーフェンさんに渡す。


「ありがとう」

 ルーフェンさんは楽器をテーブルの上にそっと置き、そしてジョッキを受けとる。


「あぁ、そうだ。あれは店からの礼だ、良かったら食べてくれ。今日は本当にありがとう!客は満足そうだ。」

 指で指し示したのテーブルの方には、豪華な料理がある。

 そして主人は続ける。

「それでその、よかったら明日も来てくれないか??」


「こんなに沢山いいのか…?悪いな、助かる。……明日は来られるか分からないんだ。もし縁があれば今日と同じ時間に来るよ。」


「そうか…、では縁があれば頼むよ。」







「なかなかウマイな。この味付け、参考になる。」

 ルーフェンさんは口に料理を運んでいた。

 話しかけられたが私は上の空だった。

 適当に返事をした。



 さっきの事が頭から離れない。


 頭を撫で、私を抱き締めてくれた人がいた。

 私は今までずっと捨てられたと思っていた。



 もしかして……。

 もしかして、私にも…。




 私にも、かつて愛してくれる人がいたのだろうか?

 私から去ったあの人は、もしかして私のために…?



 それにあの男の子。

 金髪で…。




 そして紫の瞳だった。





 顔はよく思い出せないけど、確かに紫の瞳だった。

 あれはきっと私の…。




「………。……おい、ホープ?聞いてるか?」


「えっ?」



「大丈夫か?どうした、疲れたか?」

 ルーフェンさんに顔を覗きこまれていた。



「いいえ。大丈夫です。…美味しいですね、これ。」

 私は頬笑む。


「……嬉しそうだな。何かあったのか。」

 私につられてルーフェンさんも笑った。





「……また今度話します。」




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