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精霊の湖  作者: 桜木ゆず
第2章 世界の掟

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第2章 23話 「"大罪"」

 


 ずっと昔、この世界の南にある、ジアイナンの山に、竜の民がいました…




 竜の心は、美しく清らかでした。




 そして竜は、決して山から出ないという掟の元、平和に静かに暮らしていました…。



 民の長は、"ガドゥ"という、皆から好かれる、強い竜でした。

 そのガドゥには、争いごとが嫌いな弟、"ハーレン"がいました。




 ある時、ガドゥの弟であるハーレンが、

「山の外を少しでいいから、見に行きたい。」

 と言い出したのです。



 ガドゥは掟に従えと言いましたが、ついにハーレンは、

「少しだけだから。すぐに帰る。」

 と、山から飛び立ってしまいました。





 しかし、いくら待ってもその日、ハーレンが帰ってくることはありませんでした。




 心配になったガドゥは、次の日、掟を破り、山から飛び立って、弟を捜しに行きました。



 空を飛んでいると、ガドゥは生まれて初めて見る外の世界に心を躍らせました。





 竜の民は自分たちのことを"人"だと思っていました。

 しかしガドゥはその時、竜と全く別の姿をした、"人"を目にしたのです。



 それが"人間"だったのです…。



 自分たち竜よりも、ずっと小さい人間…。

 ガドゥは少し興味を持ちました。



 そして人間に近づいてみようと、地上に降りようとしました。

 しかし、次の瞬間、

「また化け物がやってきた!殺せ!」

 と大声で叫んだのです。



 人間は弓でガドゥを射ってきましたが、ガドゥの鱗に弾かれます。

「化け物」と言われたガドゥは少し悲しくなりました。

  しかし特に気にせず、そのまま飛んでいきました。



 どうやら人間は、竜に恐怖を抱いていたようでした。




 それからしばらく飛んでいると、遠くの方に、大きな街が見えてきました。

 街の方にずーっと飛んでいると、ガドゥはついにハーレンを見つけたのです。

 ハーレンは、人間の街のすぐ外にいました。



 しかし、来るのが遅かったのです…。






 ハーレンの手足は鎖で繋がれ、翼を切り落とされていました。

 そして、その美しい銀の鱗は血で染まっていました。

 ガドゥは何が起きたか信じたくありませんでした。





 ハーレンは、なんと人間によって、無惨に殺されていたのでした。



 街の外にいた人間たちが、また叫んでいました。

「化け物だ!化け物だ!」



 ガドゥは泣きながら、鎖を引きちぎり、死んだハーレンを抱き抱え、山に戻りました。

 ガドゥは弟を殺し、竜を化け物だと呼んだ人間に、強い憎しみを抱きました。



 そして、ハーレンの亡骸を神の元に葬った後、ガドゥは再び山を飛び立ったのでした。



 ガドゥは人間に復讐することを誓ったのです…。

 そして他の竜たちも、怒りに身を任し、次々に掟を破り、ガドゥに続いていきました。



 そして…






 憎しみで怒り狂った竜の民は、ハーレンを殺した人間達を殺していきました。



 竜の力はすさまじく、その頑丈な鱗は刃を砕き、鋭い牙と爪は肉を引き裂く。

 そして、大きな口からは炎を吐き、その人間の何倍もの巨体で、簡単に踏みつぶしていったのです。


 人間は竜に全く歯が立たちませんでした。



 憎しみと血で心が汚れていく竜たち…。

 竜は、ハーレンを殺した街の人間のみならず、世界中の空を飛び、全くの無関係だった人間も殺していったのです……。



 そして瞬く間に、竜の民は人間を滅ぼしていきました…。



 美しかった竜の心は、憎しみと人間の血で、赤黒く染まっていったのです…………。







「………これが大罪。竜が憎しみに駆られ、人間を殺していったの……。」

 レギンさんは疲れたのか、椅子の背に、もたれ掛かる。


 話が終わる頃には、私はすっかり物語に引き込まれていた。




 ただただ、悲しい話だと思った。




 ハーレンはきっと、外の世界に憧れただけなのだろう。

 世界を少しでいいから、見たかっただけなのだろう。

 それなのに、人間に恐れられ、傷つけられ、殺されてしまうなんて…。



 ………そういえば、私も奴隷の時、何度も外の世界に憧れた。

(外に出たいというハーレンの気持ち、よく分かる…。)




「とっても悲しいお話だったでしょう…?」

 レギンさんが口を開いた。


「私はね、人間も竜も共に手を取り合える未来があったと思うの。きっと人間も竜も、知らない"人"を見て怖かっただけなのよ。………だから余計に悲しいの。」



「そうですね…。ガドゥもハーレンも、きっと初めて人間を見た時、傷つけようなんて思ってなかったと思います。」



 でも一方で、初めて見る竜を恐れる人間の気持ちも、分かる気がする…。



 結局、人間と竜、どちらが悪かったのだろうか?

 なんだか後味の悪い物語だ…。



 レギンさんも考え込んでいるようだった。

 そして二人して黙りこむ。





 この沈黙を破ったのはレギンさんだった。


「難しい顔をしてるわね………。ホープ君には少し早い話だったかしら…。世の中にはね、白黒はっきりしないことの方が多いの。」


「だからホープ君……、自分の目と心で、物事を見極めなければならないのよ。」

 レギンさんは、私をじっと見て言った。



「自分の目と心…?」

 私はよく分からなくて首をかしげる。


「ふふっ。今は分からなくていいわ。もう少しだけ大人になったとき、きっと分かる……。」



「さあ、じゃあ次は精霊様のお話ね…。疲れたかしら?休憩する?」



 正直少し疲れていたけど、精霊の話も気になる。

「いいえ。大丈夫です…、お願いします。」



「そう……?じゃあ続けるわね。この大罪と精霊様には深い関係があるの。大罪にはまだ続きがあってね………。」





 レギンさんは少し間を空けたあと、話を始めていく。


「この竜の罪が、"大罪"とまで言われた理由は、これだけで終わらなかったからなのでした。」



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