第2章 21話 「一人で」
この街に来て、今日で3日目…。
(そろそろ自分の道を決めないと。)
私はルーフェンさんに、ずっと頼っていた。
明日は赤月の日だ…。
(明日の祭りが終わるまでに、これからどうするか、決めよう。)
期限を決めておかないと…。
きっといつまでも決まらないから。
ルーフェンさんにどうやって、恩を返そうか?
私は何も持っていない。
そうだ、働いてお金を返そう。
それが一番のように思う。
(でも私にできる仕事って…?)
「どうした?不味いか?」
ルーフェンさんは、手に持っていたパンを皿に置く。
「えっ?…あっ…。」
そこでハッと気づいた。
考え込んでいたら、どうやら顔が険しくなっていたようだ。
「い、いえ!美味しいです。」
私は口の中に、ちぎったパンを放り込む。
私たちは宿で、朝食を食べていた。
「ならいいんだが…。なぁホープ、今日は仕事をしようと思う。」
「仕事?」
私は水を飲みながら、モゴモゴ言う。
そうだ、この人はどのようにお金を稼いでいるのだろう?
「ルーフェンさんは、何をしている方なんですか?」
「あぁ、俺はな……、奏者だ。」
私たちは、夕方までは別行動となった。
彼は「用事があるから。」と、どこかへ出かけてしまった…。
私はというと、机に肘をつき、ただボーッとしている。
それにしても、ルーフェンさんは奏者だったのか。
奏者…。いわゆる音楽家ってことかな?
私はルーフェンさんの騎士を退く、あの剣を思い出していた。
(てっきり傭兵かなんかだと…。人は見かけによらない…。)
でもなぜ、あれほど剣の腕が立つのだろうか?
(ルーフェンさんって、謎が多いな。)
思いきって、過去を聞いてみようか?
いや、面倒な子どもだと、嫌われるかな…。
その時、窓の外で鳥が羽ばたいていった。
「……せっかくの別行動だ。考えてないで、出かけよう。」
ため息をついた後、私は独り言を呟いた。
私には行きたいところがあった。
私は1人、教会に来ていた。
巨大な門が、私を見下ろしている。
(あの女の人いるかな…?)
祭りに申し込みに来た時、女の人が言っていた、"精霊様"。
それについて詳しく聞きたかった。
すごく気になる終わり方だったから…。
教会は祭りの準備のため、忙しそうだった。
たくさんの人が、教会に出たり入ったりしている。
(人が多い…。嫌だな。…でも……。)
私は息を大きく吸う。
そして背筋を伸ばし、教会の中に入ろうと一歩踏み出したその時、
「あら?あなた昨日の子ね?」
聞き覚えのある声だった。
振り返ると、やはりあの女の人だった。
「こ、こんにちは…。」
女の人は私に近づく。
「どうしたの?迷子?大丈夫?」
心配そうに私の顔を覗きこむ。
彼女は、私と2、3歳程しか変わらないのに、とても大人びていると思った。
「えっと、私はホープです。その……、昨日の"精霊様"の話を詳しく聞きたくて。」
「ホープ君ね。私はレギン。よろしくね。」
彼女は私に微笑む。
また男の子だと思われているのか…。
(髪、伸ばそうかな。)
あっ、そうじゃない。
今は精霊の話だ。
「あの…。」
言いかけた所で、彼女は人差し指を立て、口に当てる。
「ここは寒いから。話は、教会の中でしましょう。さぁ、お入りになって。」
レギンという女性は、微笑みながら私に言った。
私はそれに黙って頷いた。