第2章 18話 「戦祭り」
夢を見た。
闇の中で手を伸ばす。
あと少し、あと少しで届く……。
(いかないでっ!)
その時、ガタッ…と何かが落ちる音がして目が覚めた。
「悪い、起こしたな。」
音のした方を、首だけ動かして見てみると、ルーフェンは椅子に座り、剣を磨いていた。
朝日が目に眩しい…。
昨日、青い光のことを考えていたら、いつの間にか眠っていたようだ。
「…………おはようございます。」
私は体を起こし、応えた。
そして私は再び、枕に頭を置く。
(また同じ夢だった…。)
それはいつまで経っても、同じところで終わる夢。
そして目が覚めたら、誰を追いかけていたのか思い出せない。
どうしても思い出せない。
「どうした?まだ眠いのか?」
私がなかなか起きないので、まだ眠いと思われたようだ。
私は起き上がり、ようやくベッドから降りて言った。
「夢を…。同じ夢をよく見るんです。」
******
「夢ってどんな?」
私たちは、小さなお店で朝食を食べていた。
「暗闇の中で、誰かに手を伸ばす夢を。」
ゆっくり料理を口に運びながら、答える。
「その夢は昔から見るんです…。何度も何度も。」
「同じ夢か…。…もしかしたら、忘れた過去と何か関係しているんじゃないか?」
真面目な顔で、そう訊ねてきた。
「昨日は伝えなかったんだが、記憶がないんだろ?………だったらお前は捨て子だとは限らない。」
ルーフェンは手にしたスプーンを皿に置いて言った。
「森で迷子になったとか、戦争で家族がバラバラになったとか…、そういう可能性もある。」
なんだか哀れむような、そんな目で私を見た。
私は心をギュッと、掴まれたように苦しくなった。
「私も何度も…、そう思おうとしました。」
食べていた手を止め、下を向く。
「でも私の覚えている一番最初の記憶は………、鬱蒼と生い茂った暗い森で、誰かが私の元から去っていく記憶なんです…。私は森にたった一人、置き去りにされたんです……」
その光景を思い出すと、いつも悲しくなる。
(消えろ…消えろ…。)
その光景を、頭の中から一生懸命追い出す。
ルーフェンはそれ以上は何も言わなかった。
きっと、傷をえぐってしまった…などと思ったんだろう…。
そのまま二人とも沈黙した。
静かになると、店の外が騒がしい事に気づく。
「なんでしょう?」
私はどきまぎして、半端に席を立ち、オロオロする。
「大丈夫だ。……不安か?じゃあ一緒に確認しに行ってみようか。」
ルーフェンが言った。
外にはたくさんの人が集まっていた。
「来たる三日後~、赤月の日!午後2時から闘技場で、精霊祭として、戦祭りを開く!」
「参加したい者は、トギの教会に申し込みに来てくれ~!」
がらがら声の大男が、噴水の上に登り叫んでいた。
「あぁ、忘れていたよ。もうすぐ赤月の日か。この国では戦祭りをするんだな。」
楽しそうにルーフェンは笑った。
しかし私は、何の事か分からなかった。
ただ、ルーフェンが笑っていたので、不安はなくなった。
「あかつきの日…? いくさ祭り…?」
私は困った顔で、ルーフェンの横顔を見つめる。
「赤月の日って言うのは、2年に一度、月が赤くなる日だ。」
(月が赤くなる…?見てみたい…!)
心が躍る。
「精霊祭って?」
「精霊祭は国によって、様々なんだ。彷徨う精霊のために、祭りを開くんだ。俺の故郷では舞踊祭りだった…。」
懐かしそうに、遠くを見ながら言う。初めてルーフェンのこんな顔を見た…。
(この人はどこで生まれ、そしてなぜ旅をしているんだろう…。)
いつか訊いてみたいと思う。
少し間があった後、なぜか突然困った顔をしながら、こう続けた。
「"戦祭り"ってのは、精霊への鎮魂祭だ。戦のまねごとをし、彷徨う精霊の魂を楽しませる…。そんなとこだ。」
そう言うと、空を見上げた。
私もつられて、空を見る。
二人で並んで、空を見上げていた。
「彷徨う精霊って、なんですか?」
「………もう何も聞くな。俺も精霊祭の起源はよく知らん。」
少し怒ったような声で言った。
だから困った顔をしたのか。
ルーフェンはいつも、すまし顔をしているから、なんだか微笑ましく思った。
ずっと空を見上げていたら首が痛くなり、正面を向いた。
「戦祭り…観てみたいか?」
「えっ?えっと…。」
突然そう言われ、困りながら、ルーフェンを見る。
まだ空を見上げていた。
私は少し考える。
祭りと言っても、要はケンカだろう。
私は観たくない方に傾いていた。
しかし、ルーフェンさんは空を見上げながら、一言、言い放った。
「よし…。俺は戦祭りに出てみるよ。」




