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精霊の湖  作者: 桜木ゆず
第2章 世界の掟

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第2章 15話 「息吹」

あなたが笑うのを見ているのが好きだった。

あなたを見ていると、世界が美しく見えたの。


全てが輝いていたの…。

 


「……ホープ」


「……あ、はい?」

 どうやら私は、馬に揺られてウトウトしていたみたいだ。目がしばしばして、私は目をこする。

背中が温かい。どうやら後ろのルーフェンにもたれかかって眠っていたみたいだった。

それに気がつき、もたれていたルーフェンから、何事もなかったかのようにサッと離れた。


「しっかり手綱は持っておけ。落ちるぞ。……前を見てみろ。ここはもう、スウガの国だ。」

 頭の上から声が響く。


 言われた通り、前方を見ると、遠くにたくさんの建物が見えた。ウトウトとしていて、今まで気がつかなかった。


 建物には、色とりどりの布のようなものが吊るしてあるようだ。

 こんなに遠いのに、その鮮やかな色が、よく見える。


(きれいだなぁ…。街ってどんな感じなんだろうか…。)

 今までの事を、一時だけ全て忘れ、この街に、私は少しワクワクした。



********




「部屋は空いてるか?2人なんだが。」


 私たちが宿についたのは、もう夕方になってからだった。

 さっきのワクワクした気持ちは、どこかへ飛んでいってしまった。なぜなら街は人が多く、目が回りそうだったからだった。



 街をよく見て回りたかったけれど、どこを見ても、どこに行っても人、人、人…。

 私たちは人混みをかき分けて、なんとか宿にたどり着いた。


 宿の中も人で溢れかえっている。



(人が多くて嫌だなぁ…。)



 ちなみに、乗ってきた馬は、この宿の近くの馬宿に預かってもらっている。



「1人たったの2000タウサだ。飯は出ないからな。」

 不精髭の生えた、40代くらいの男は、面倒そうに肘をついて言った。



 "タウサ"というのは、どの国でも使われているお金だ。ずっと昔、おじいが教えてくれた。


 もちろん私はお金なんて持っていない…。



「飯なしで一人2000も、じゃないか? …まぁ街じゃそんなものか」

 ルーフェンら仕方ないといった感じで、無愛想な男にしぶしぶお金を渡す。



(2人で4000タウサ…。)

 お金を出してもらい、申し訳なく思った。






******



「なかなか良い部屋じゃないか。この宿で正解だったな。だが2階なのは気にいらないがな」

 ルーフェンは荷物を床に置きながら言う。


(2階?ルーフェンさんは高いところが嫌いなのかな?)


 部屋は広かった。ちなみに宿は三階まであるそうだ。私たちは、二階の一番奥の部屋に泊まることになった。

 3人部屋なのか、ベッドが3つ置いてある。きっと2人部屋は全て埋まっていたのだろう。ラッキーだった。



「ええ。広いし綺麗な部屋ですね。」

 私はコートを脱ぎ、壁に掛ける。


 ルーフェンを見ると、コートや手袋も脱がず、鞄をあさっていた。


「そうだホープ、先に風呂に入って来たらいい。」


「お風呂に、ですか?えっとルーフェンさんは?」


「俺は荷物の整理をしておきたいから、食事の後に入る」

 何かを探しながら、顔も上げず私に言った。


「風呂の場所は、さっきの宿の店主にでも聞くといい。一階のどこかだろうが、この宿は広いからな。探すよりも聞く方が早いだろう。」



 私だけ先にいいのだろうか?

「でも………。」



「子どもは気を遣わなくてもいい。早く入ってこい。」

 探し物が見つからないのか、ついに鞄をひっくり返した…。



 床に荷物の中身が散乱した。


 血の着いた布…………。

 さっき血を拭っていたものだ。

 ナイフ…………。

 果物などを切るものだろう。


 他にも色々あったが、一番目についたのは、茶色い表紙の日記だった。

 ずいぶん使い古されているようで、所々表紙が剥げている。


(一体何が書かれているんだろ……。)

 この人のことが、何か分かるかもしれないと、中身が気になる。




「おかしいな……。」

 ルーフェンは首をかしげる。


「何を探しているんですか?」


「短剣だよ。………どこかに落としたのか?」

 ルーフェンは横に手を広げ、これくらいなんだが、と大きさを表す。

 2、30センチくらいだった。



 もしかして…。



「あの……。これですか?」

 私はコートから短剣を取り出す。



「それだ!………あぁ!思い出した…。お前に渡したんだったな。」

 恥ずかしそうに、下を向きながら、頭をポリポリ掻いた。



(あれ、この人………。意外と忘れんぼうで、おっちょこちょい……なのかな?)

 そう思うと、少しルーフェンを可愛く思った。


 ふふっ、と思わず笑みがこぼれる。

 しかし途中で、笑うのは悪いかなと思い、すぐに口を手でおさえる。


 それを見て、ルーフェンは恥ずかしそうだったのに、急にこっちを向いて真面目な顔になる。



「はじめて笑ったな…。良かった。」

 私の目を見て言った。




「えっ…。」



「いや、ずっと思い詰めた顔をしていたからな………。子どもはよく笑って、食べて、寝ていればいいんだ」

 そう全部言い終わると、ひっくり返した荷物を鞄に入れていく。



 なんだか胸が温かくなったように感じる。



 私は下を向き、目を閉じる。

(………ありがとうございます…。)



「ホープ。」

 突然、凄みのある声で呼ばれたので、ビクッとなる。


 ルーフェンはいつの間にか、荷物を入れ終えていたようだ。彼はスッと立ち上がり、側に来た。



 そして私の前に仁王立ちになる。


 なぜだか、昔、奴隷の時に執事に殴られた事を思い出す。

 私は怯えた。

 目を離せない…。


(なに…………?)








「風呂の前に、お前に聞いておきたいことがあるんだ。」



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