町
今回は短いです。今週末には追加を出したいです※午前8時32分に消えた分は追加しました
目的地であるショッピンモールを目指して三日、パルパールで街を横切って二日が経った。
安全な国内ではないので怪我の一つの二つはするだろうが、山をとぐろの様に巻くアスファルトの道を歩く白髪少女マフユは身体中に湿布やら包帯やらをしていた。ゾンビからの攻撃や移動中の事故による怪我ではない。国を出た初日に始めた近接戦訓練の成果である。
相手に一度も攻撃を当てられず、自分だけが嬲られるという情けない結果である。
最初こそはあまりの悔しさに痛めつけた張本人であるパートナーに泣いて口を利かなかったが、今とはなっては悔しくはなっても話をするようにはなった。
痛い思いをしたのはそれぐらい。
建物が多い所は跳んだり登ったりしてゾンビとの遭遇を回避し、山の道路は特に何もなく突破することが出来た。
残弾数も問題ない。
「だから、ミサキ、有効射程距離はあくまで五十パーセントの確率で当たるかどうかの事であって射程距離ではないんだよ」
「当たんない。常人じゃそのレベルの距離は無理だから、絶対に」
「でもスナイパーライフルを持っている人の本職は狙撃だよ? そのぐらい出来ないと」
「一キロ以上の狙撃は滅多にしないから。大体五百メートルくらいだから。よしんば、出来たとしてもマフユくらいだから」
「えー」
他愛のない話をしながら木に囲まれた道を歩き続け、四分の三ほどに到達した時に木々が無くなり、視界が開けてきた。
「おー、広いっ」
ガードレールに手をついて身を乗り出しながらマフユは景色を見渡す。
国を出た時にあった街とは違い、こちらの道はレンガではなくただのアスファルトだった。学校や家、様々な店が所狭しに___と言うわけではないが、それでもかなりの数の建物があった。
「開いてる店は⋯⋯⋯あるわけないかぁ」
そもそも精気を感じない。ほとんどの店はガレージを下ろして、扉には木の板を張り付けている。窓という窓も人為的にか自然に割れたのか、まともな窓は一つもない。
「景色を見るのもいいけど、目的地もちゃんと確認しとくんだよ? あと自分が撃つためのポイント」
ほらあそことミサキは中でも大きな三階建てのショッピングモールを指差した。
「想像してたより大きいなぁ」
「色んな店が一つになってショッピングモールだから。ところでマフユ、どのくらいの距離から撃つ予定?」
「んー、一キロくらい___」
「却下。もう少し現実的な数字でお願い」
「むう、譲りに譲って七百がいいかな」
「五百くらいにしない?」
「職業的にぴったりの距離感だと思うけど」
「このくらいが調度いいよ」
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
不穏な空気が二人の間で起こる。
マフユはあくまで冷静に笑顔で、撃ちたい撃ちたい遠くから撃ちたい、と思っていた。
何かあった時が助けられないだろう? とミサキもごく普通に笑顔で応戦。
しばらくの無言が続き、二人のとった行動は、
「じゃんけんっ!」
「ポンっ!」
全力のじゃんけんだった。結果、マフユはグー、ミサキはパー。ミサキ勝利。
「一回勝負とは言ってない!」
「それ以外とも言ってない」
「う⋯⋯」
「駄々こねてないでポイントを探すよ」
「場所は私に決めさせてっ。て言うかもう決めてるけど」
「場所次第なら別にいいよ。どこらへん?」
「あの何個も窓のある建物」
ほらあそこと指を指した方向にあったのは縦に伸びる長方形のマンションだった。
「正面はゾンビ一体。五十メートルくらい離れてるからまだ気付いてない。後ろは大丈夫? 付けられてない?」
「大丈夫、何もいないよ」
現在は夕方マンションの廊下で銃を握って構えていた。昼頃には町に着いた二人だったが、マンションの場所を探すのに手間取ってしまい、右往左往するうちに陽が暮れてしまった。
「よし、最後の階に行こうか。マフユはそのまま後ろの警戒を頼む」
「分かった」
背中合わせで階段を登り、最上階に着くとミサキは物陰から渡り廊下を伺った。灰色のコンクリートで出来た廊下には何もいない。だが、廊下に沿うようにある扉からは呻き声が聞こえて来る。
小走りで走り抜け、奥にある『屋上』と書かれた扉を開けると、問題のないのを確認して入った。鍵も忘れずに閉めた。
入って直ぐの所に階段があり、その脇にはデスクがある。デスクにはノートやライトスタンドが置かれ、正面の壁には鍵束が吊るしてあった。
「鍵束があるよ!ねぇ、ミサキ___」
「しぃー」
興奮気味のマフユの口を、拳銃を握っていない手で軽く押さえる。すると屋上の方から扉を叩く音が聞こえてくる。
「屋上に何かいる⋯⋯」
小さな声でマフユが言うと、ミサキは待っててのジェスチャーをして一人で階段を登って行く。マフユが止めようとする前に扉をほんの少しミサキは開けると、荒々しく扉を蹴り開けて入っていった。
「⋯⋯えーっと?」
今一つ相方の意図を掴めないマフユは助けに行くか迷った。待っとけと言われたもののじっとはしていられない。だが、もしも行ったとしても足手まといになっては目も当てられない。
どうしようと悩みながら屋上の扉を見ていると、背中側、つまりは入り口から鍵の開く音が聞こえた。
マフユは反射で振り向くと、閉めたはずの扉が開き、一体のゾンビがこちらを見つめている。そして、マフユと目が合うなりに襲いかかってきた。
閲覧していただきありがとうございました。




