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The world has died  作者: トウイ小秋大福
23/27

マッチョ

助走つきのストレートパンチがマッチョでスキンヘッドのナイスガイの頬に突き刺さった。そのまま振り抜き、力が抜けたタイミングで真っ白な髪の相方を引ったくるようにして自分の胸元に引き寄せた。

「大丈夫? マフユ」

「ミサキ!」

マフユと呼ばれた真っ白なワンピースを着た少女は驚いた顔をしながら相方であるミサキの顔を見上げた。

殴られたマッチョはというと頬を押さえて呆然としている。顔のどこそこに手をあてて出血がないのを確認すると殴った本人である少年を険しい目付きで見据えた。

(さぁ、どっちだ!? 人拐いか!マフユがただの迷惑客だったか!)

ミサキは内心めちゃくちゃ肝を冷やしていた。殴った方がよかったのか、彼女と共に頭をさげたほうがよかったのか。

「彼女に何をする気?」

あくまで強気に出るが、後者だった場合かなり申し訳ない。

マフユとは今までにない密着具合でかなり小恥(こっぱ)ずかしいが、そんなのはもう関係ない。

マッチョの口が開き、見た目より若い声で、

「何をするもなにも、射撃場に連れていこうと思ったんだよ。店内でその子がスナイパーライフルの試し撃ちがしたいと騒いでいて____」

「うちの相方(パートナー)がご迷惑をおかけしました」

ミサキが遮って、もろに頭をさげた。

ついでに言うとマフユにも頭を下げさせている。

「プラスアルファ、ガチで殴って、どうもすみませんでした」

わりと全力で叩き込んだ一撃である。痛くないわけがない。

マッチョは首を触りながら、ミサキたちに顔を上げるように言う。

「いや、無理矢理連れていこうとしたこちらも悪かった。知り合いがいるんなら俺はもう用無しだな」

ミサキが来た方向とは逆に足先を向け、「いい旅を」と言い残すと歩き去って行った。

マッチョの姿が見えなくなると

「良い人でよかったぁ」

はあーとミサキは息を吐きながら

安堵した。もし逆の立場なら全筋肉を総動員して相手を全力で殴り返しただろう。

危ない危ないと落ち着いた少年に少女(マフユ)は、なんで謝ったのかと訊いた。

「⋯⋯⋯⋯」

しばらく無言になり、ツッコミたい気持ちを落ち着かせると、試し撃ちはなぜ有料なのかを一から全部教えた。




店への謝罪を終え、宿屋に帰ってきた二人は、運ばれてきていた食事に手をつけながら明日の予定について話していた。

「明日からはお金を稼ぎにいこうと思います」

肉をナイフで切り分けながらミサキがそう言うと、目を輝かしながらマフユが反応した。

「国の外に行くの!?」

「うん」

「じゃあ、撃ち放題!?」

「スナイパーライフルをね。必要なときに必要なだけ」

「やった!」

少女は浮かれたようにパンを一千切り口に放り込むと実に美味しそうに租借をし始めた。

「出来れば早く稼ぎたいから、重要拠点の奪還と感染生物の討伐とマップ詳細探索を同時にすることができる。仕事を受けようかな」

ショッピングモール辺りがいいよなーと呟きながら細かく切り分けた肉の一切れを口に運ぶ。

パンを食べ終えて肉に手を出そうとしていたマフユはフォークを止めた。

「え、ショッピングモールって色んな店が集まるところだよね。私たちの今の装備だけで大丈夫なの?」

「大丈夫、安全かつ確実な方法で攻略するから。装備もガンショップで借りたり買ったりしていく」

「なるほど、装備は解決したね。安全で確実な方法っていうけど、どんな感じなの?」

「広い場所に(おび)き寄せて近いやつから俺が倒していく。マフユは遠くから狙撃。敵がいなくなったらまた同じことしてまた撃破」

「そんなに簡単に事が進むんだね」

「終わるまでテントで寝泊まりだけどね」

「それはそれで楽しみだなぁ」

不安要素を無くしたマフユは呑気に呟くと、止めていたナイフを動かし始めた。




食事を終わらせた二人は早めに寝ることにした。明日の朝、最初に来る電車に乗るためだ。

電気を消して、布団に潜り込もうとした時、

「明後日の朝からちょっとやることがあるから」

ミサキはマフユにそう告げて寝た。

「?」

マフユは全く意味がわからないようだった。




翌日の朝、昨晩行ったガンショップに来ていた。

銃、弾薬、その他の装備品の三つのコーナーで別れ、それぞれに特化した商品が飾るように置かれている。

妙に火薬臭いことを省けば、ラインナップも良く、珍しい武器も多い。

そんなガンショップの中をミサキは借りるための武器を選ぶため、マフユはコンカッションとスモークをミサキに頼まれて探していた。

と、いってもマフユはすぐに見つけてしまい銃選びが終わるまでは退屈なので、ショーケースに飾ってある物を眺めていた。


バレットM82A1


セミオートの対物(アンチマテリアル)ライフルで一.五キロ先の敵を両断したという化物銃である。有効射程距離はマフユの使っているDSRと同じ二キロメートルだが、威力の桁が違う。

DSRは敵を真っ二つにすることは出来ないし、なおかつ戦車には穴を開けることができない。

ぜひともマフユとしてはこれを使ってみたいのだが___

「だめだよねぇ⋯⋯」

背中に背負(しょ)っている自分の武器がある。

その上、

「大きいしなぁ⋯⋯」

M82の全長は約一四五センチ、マフユの使っているDSRは九十九センチ、四十四センチの差がある。なにより重い。約十三キロの武器を持って移動となると流石に身が持たない。

一回だけ、せめて一回だけでも撃ってみたい、諦め悪くショーケースのガラスに張り付こうとするが、それを見抜いたようなタイミングで少年の声が聞こえてきた。

「わかったーちょっと待っててー」

何個かの投擲物(とうてきぶつ)を抱えて立ち上がる。最後にショーケースを一瞥して、

「⋯⋯バイバイ」

そう言って、声の聞こえた方に向かった。




声が聞こえた方には、カウンターに大量の小さな長方形の箱を置くミサキの姿があった。

箱は一つ一つ柄が違う。赤だったり青だったり緑だったりと様々な種類があった。

銃の弾かな、と適当に予測し投擲物をカウンターに置くとカウンターの向こう側にある扉から六十歳くらいの繋ぎの作業着を着た男性が出てきた。

服は(すす)で汚れ、髪もボサボサ延び放題だが、顔色は良く痩せこけてもいない、年甲斐なく健康そうな見た目だった。

入ってくるなりマフユの顔を見て、

「また来たね、お嬢さん」

人の良い笑顔をして挨拶をした。

マフユも頭を下げて元気に挨拶を返し、少年は少年で別の意味で頭を下げる。

「昨晩はすみません。本当に」

申し訳なさそうにしているミサキに対して男性は、「別に良いんだよ」と言った。

「銃が好きなのは良いことだよ。今のご時世武器がなければ国の外も歩けない。肌身離さず持ち歩かないといけない物を好きでいられるっていうのは相当な幸せだからね」

「そうだよミサキ」

「マフユはもうちょっと反省してくれても良いんじゃない?」

じろりとミサキに見られ、張本人は明後日の方向を向いてごまかした。

そんなやり取りを優しく見守りながら、ミサキの手に握っている物に視線を注いで「それを借りるのかい?」と窺ってくる。

彼の手に握られているのはガンホルスターに納めてあるショットガン、ポンプ式M870だった。

「ええ、ゾンビ退治にはこれが良いんです」

本物に変えてくれますか、と言ってホルスターからショットガンを引き抜き、男性に渡す。

店内に飾ってある銃は強奪防止のために全てがよくできた模型になっている。弾丸も「箱」だけで中身は入っていない。

男性はミサキから模型を受け取り、奥の部屋に引っ込むとすぐに瓜二つの銃を持ってきた。

カウンターの上で紙にペンを走らせて会計の明細を書きあげ、本物のショットガンと共にミサキに渡す。

「毎度あり」

会計分の金額を払い、少年はショットガンの収まった細長いガンホルスターを装着して、

「___良いナイフですね」

少し視線をあげて言った。

マフユも釣られてそちらの方に目を向ける。

カウンター側の壁には額縁に飾られたナイフと一枚の写真が裸で張り付けてあった。

「だろう?私の親友がくれたんだ。となりに張ってある写真の左側が私、隣がナイフをくれた親友だ」

写真にはガンショップの前で肩を組んで笑っている若者が写っている。

若かりし頃の男性は昔から繋ぎ服が気に入っているらしく今と対して変わったところはない。隣の若者は火薬の煤が浸くのにも関わらず白い白衣を着て笑っている。

「おじさん、これっていつ撮ったの?」

興味津々といった具合でマフユも話に入ってきた。

「何十年も前だよ。たしか私たちが十七か十八の時にガンショップ設立記念として撮ったんだったね。隣の彼も似たような時期に有名な研究所への内申が決まって、二人ともこの頃は幸せだった」

「幸せだった?今は違うの?」

「ああ、違う。飯を食べていくのにも困らないし、好きなことで生活もできている、でも彼はいない。私の親友はね、この写真を撮った三年後に失踪したんだよ」




神妙な雰囲気が漂う中、男性は話し始めた。

「彼は優秀な研究員だった。彼以上に頭の良い人間をみたことがないくらい頭が良かった。心も優しくてね、白衣を着た理由が『どんな病気でも治せる薬をつくる』。こんな夢語りを目標にしたんだよ、彼は」

苦笑しながらも、目では「すごいだろ?」と語っている。

「研究員になってから二年後、彼はこの国にどうゆう理由(わけ)か帰って来た。今は国の外だが、ここから遠くのところに病院を造ってそこで医者をしていた。そして急にいなくなった」

「また、いきなりですね」

「本当にそうだよ。気づいたら行方不明の手配書が新聞に載っていて、心底驚いたよ」

ははは、と力なく笑う彼の目には先ほどの色はなく、哀愁だけが漂って彫刻のような無機質さが表れていた。

しぃん、とその場が沈みかえり、マフユがなにか慰めようと口を開いたタイミングで、男性が「すまないね、こんな話をしてしまって」と明るい調子で謝った。

「そんな、別に⋯⋯!」

「いや、良いんだ。そうだ、お礼にこれを貸してあげよう。これはいなくなった彼と一緒に作った拳銃で、ガンショップ店長である私も太鼓判を押す逸品だよ。出国するくらいに返してくれればいい。存分に使ってやってくれ」

腰に据え付けるタイプのホルスターと共にミサキに渡したが、無くさない保証はないと言って受け取らなかった。

だが、最終的にミサキが折れ、半端押し付けられるように渡され、弾薬の引換券を大量に持って店を後にした。




「楽しかったぁ」

「あー 疲れた⋯⋯⋯」

少し型の古い色褪()せた電車から真逆のテンションの二人が降りてきた。

初めての電車に興奮したマフユはいろいろとやらかした。

例えば、窓から身を乗り出して危うくトンネルの入り口に衝突しそうになったり。

例えば、マフユがトイレのドアと間違えて緊急脱出用のドアを開けて、危うく落ちそうになったり。

例えば、露骨に狙撃銃を背負っている通りすがりの人に銃を見せてくれと離れなかったり(しかも通路の真ん中で)。

そんなこんなで駅に着いた。

地図によると、目的地であるバイオセンターは都市部の端に在るらしい。

人や建物の群れに目を輝かしている少女を引きずりながらそこに向かって行く。目印は場違いなフェンスである。

背の高いフェンスに囲まれたバイオセンターは国外付近の情報処理やウイルスの研究、感染生物関係の仕事受付などを担っている。

主に漂流者たちが路銀を稼ぐのはここであり、従って、人間が集まるのは自然なこと。

「はー、やっぱり多いんだね、人」

程なくして人の集まっている建物を見つけたミサキたちはオープンに開かれているフェンスを潜り、まちまちに別れているグループを避けながら建物に入っていった。

室内に一歩踏みだすと火薬と血の匂いが出迎えた。

「物騒な場所だね」

「そういう所だから」

体育館二つほどの大きさの待合室には大量のベンチが設置してある。そこに座っているほぼ全員が銃器を握り、中には服を血だらけにしている者もいる。

部屋の奥には両開きの鉄製の扉と、それを挟む形で女性の居るフロントがある。

ベンチからの奇妙な視線を無視しつつ通り抜け、受付に向かい、声をかけた。

「受付お願いします」

「⋯⋯⋯お二人だけですか?」

怪訝そうな顔をフロントの女性が浮かべ、声にも不信感が出ている。

大人でも危険を伴うにも関わらず、青臭い子ども(ガキ)が二人だけで仕事を受けたいと言う。

普通ならば門前払いを受けているだろうが、仕事に関しては完全に自己責任なので断る必要はない。

「二人です」

「分かりました。では、仕事の内容と場所の指名をご記入ください」

紙が二枚と国外の地図が手渡された。

一枚は契約書、二枚目は仕事の内容。

二枚ともメンバーの同意の上で書く必要がある。書かない以上、話は進まないし仕事を受けることもできない。

契約書の内容に目を通すことなく、氏名の欄に『ミサキ ユキ』と自分の名前を書くと地図を開いて早々にショッピングモールを探し始める。

数秒間、地図とにらめっこをして目的の場所の座標を発見した。どうやら、歩けば二日三日で着く距離らしい。

そこを丸で囲って、まだ何も記入していない紙に『施設(ショッピングモール)奪還 または敵殲滅 施設内マップの提示』と書き込んで受付にもう一枚と共に渡す。

瞬間、驚いたような顔をして女性はミサキをちらと見たが間もなく判子を押すと、丸の描いた地図だけを丸めてミサキに渡した。

「どうか、ご健闘を」

女性の短い短い挨拶を受けながら両開きのドアノブに手をかけると、少しの重量を感じながら押し開けた。

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