十五話記念「真っ暗な暗闇の中で」
パチパチパチッカラン
「焚き火を焚いて、それで魚を焼いて。なんかキャンプみたいだね」
「そりゃあ、そうでしょ。ここキャンプ場なんだし」
「そうだけど、わたしキャンプ初めてだよ?」
「へぇ、意外だね。じゃあ今すごいワクワクしてたりは.....?」
「だいぶウキウキしてるよ」
「おー、よかったよかった」
「夜食も美味しい魚だし」
「俺のはブルーギルだけどね」
「大きいからまだましだよ」
「唯一の救いだよなー」
バチンッパチパチボウボウ
「あ、そうだ、急にだけどマフユ」
「?、どうかした?」
「今から第一回旅についての簡単講座をするよー。わーっ!」(パチパチパチパチ)
「えっ?え?わ、わー!」(パチパチパチパチ)
「それじゃあいくよ?項目は感染生物についけだけど、アーユーレディー?」
「お、おーけー!」
(な、なに、このテンション?)
「ゾンビについて。ゾンビは基本的に1.昼間は寝ている2.死んでいる3.人を食べる。この三つが基本なんだ。希に例外もいて、突然変異固体と特化固体になったりするゾンビもいたりするんだけど、コレがすごく厄介。見た目は普通のゾンビなのにありえないぐらい足が速かったり、自分でナイフに似た骨を作ってそれで戦うゾンビもいたり、出来ればどっちにも会いたくない存在だね」
「それって倒せたりするの?」
「うん。言い忘れてたけど「普通の感染生物」「突然変異固体」「特化固体」、この三つには共通点があるんだ」
「へぇ、どんな?」
「それは無敵じゃないってところかな。人を食べないと餓死するし、睡眠をとらないと過労死したりする、血を流し過ぎたりすると出血死したりと、生前で死んでしまう条件なら感染生物は死んでしまうだよ」
「意外だなぁ。そういえば、もし感染した時ってどうするの?」
「血清を打って安静にする。今の対策はこれだけかな」
「なるほど」
「まだ説明しないとだけど、今日はここまで!何か質問したいことは?」
「うーん。そうだ。水は?水はどうするの?ミサキは昼間、川とかは汚染されてて危ないって言ってたよね?じゃあ、漂流者って喉が乾いた時ってどうするの?」
「百聞は一見にしかず。答えはこれだよ」
ゴソゴソゴソ ポイッ
「おっと」
ポスッ
「ペットボトルに入ったただの、水?でも少しスライム状というか.....」
「飲んでみてごらん」
「いいの?」
「どうぞどうぞ。あ、でも口はつけない方がいいよ。後から飲めなくなるから」
「わかった。それじゃあ頂きます」
グッ カチッ クルクルクル コッコッコッ
「!」
(口当たりは普通の水だけど、飲み込みにくいっていうか、あっ、少量なのにすごくお腹にたまる___)
「ぷはっ」
「どうだった?」
「不思議な感じ。ちょっとの量なのにお腹いっぱいになる。今さらだけどちょっと重い.....?」
「そう、それはただの水じゃない。携帯しやすいようにどうにかこうにか加工して、重さ、内容量、感触、これらの全てを通常の三倍にした漂流者専用の水。それがマフユの持ってるそれ」
「見た目は五百ミリリットルの容器だかつまり実際の内容量は」
「千五百ミリリットルだね。便利でしょ?」
「うん。とっても」
ボソッ「ちなみに価格だけ普通の五倍.....」
「ん?ミサキ何か言った?」
「いやー、べつにー?」
「.....なんか怪しいけど、まあいいか。ほら、魚焼けてるよ?食べようよ。あっ、ミサキ、魚焦げてる......」
「え?あ!あーーーー!」
ワタワタチュン
「あっちいっ!」
ボトッボウボウ
「ミサキ、焚き火のなかに焼けた魚を落とすのはちょっとヤバイかなって」
「ギャーーーーッ!魚ーーーー!」
「「ごちそうさまでした」」
「いやーおいしかったー」
「俺は苦かった.....」
「ま、まあほらさ、あの魚のとげとげがパリパリになったから良かったじゃないかな?」
「そんなガッツリ視線を反らされながら言われましても」
「結果オーライだよ」
「よろしい部分よりも苦いところの方が多かったけどね!」
「まあまあ落ち着いて。とりあえず今日はもう寝よう?朝も早いし」
「うぅ、そうだよね、もう寝ようか......。寝て忘れよう。焦げた魚をやけ食いした記憶なんて.....」
ジー ガサゴソ ジー
「それじゃマフユおやすみ」
「うん、おやすみ」
リーンリーンリーリーン
「..........」
「..........」
リーンリーンリーンリーン
「ねぇミサキ。起きてる?」
「うん」
「もしも、もしもだよ?私がもしウィルスに感染したら、どうする?」
「善処するよ」
「もう手遅れな状態でも?」
「善処するよ。全力で」
「.....嬉しいなぁ」
「だってパートナーじゃないか。当たり前だよ。それに、助けられたかもしれないのに助けなかったなんて事は、もう十分だ」
「......そんな経験でもあるの?」
「あるよ。両手で数えられないぐらい。道中でゾンビに囲まれた漂流者のグループを見かけたときに見限って助けなかったり。ある『仕事』の時にはウイルス感染した仲間十人全員を撃ち殺したり」
「.......」
「俺は死体の山を踏みつけて生きてきてるんだよ。俺がそういう選択肢を選んできた。自分が生き残るっていう卑怯で臆病な選択肢を」
「.......」
リーンリーンリーリーリー
「でも、ミサキ」
「.......」
「今ミサキが生きてるおかげで、私はこのテントで寝てるわけだし、ミサキがここに来なかったら私はずっと寂しくここで一人で暮らしていくところだったんだよ?」
「.......」
「時には残酷でも、そのときはそのときで割り切ればいいんじゃないかな。全力で助けて、全力で頑張って。いくら頑張っても助けられないならそこで見限って、その選択肢が無駄に希望を与えるようならあえてそうはせずにする。それが一番の『善処』なのかもしれないよ?」
「.......」
「昔が駄目なら今良くなればいいんだよ」
「.......」
「おやすみミサキ。今を必死に生きようよ。それがミサキの足下にある死体の山に対しての最高の礼儀であって、最高の感謝の表し方だよ」
「......そう、だよね」
「それじゃあ、おやすみ」
「......おやすみ」
リーンリーリーリーリーリーン
リーンリーンリーリーリーン
閲覧していただきありがとうございました。これからも頑張ります