夕暮れ時
感染生物に対抗するための抗体を探す少年ミサキと、スナイパーライフル大好き少女マフユの初めての夜です
「とりあえず、一回家に帰ろうか。そろそろ夕方だし、何よりお腹空いたから」
てっぺんに昇っていた太陽はいつの間にか沈みかけ、太陽の光がミサキたちや湖をオレンジ色に染め上げていた。
「そうで__じゃなかった、そうだね。それじゃあ、家に帰ろう!」
そう言って歩き出したマフユにあわせてミサキも歩き始める。
ミサキのいつもの時間的には夜食の時間だった。
「今日の晩御飯はどうしようかな。そう言えばマフユ、このキャンプ場の食べ物ってどこから手にいれるの?見るからに畑は見かけないけど」
ミサキは周りを見回すがそれらしいものは見当たらない。唯一特徴的な湖の水面が風に吹かれ、小波をたてていた。
真っ白な髪が風に揺られながらマフユは、キャンプ場の食料事情についてミサキに説明する。
「一週間おきに、どこかの国の人が来て、そこで色んな物と物々交換をするの。時々遅れてくることもあって食べ物が無くなったときは湖で採れる魚を食べて乗りきるようにしてる。まぁ、そんな事が無いようにはしてるけど」
「へぇ、それで、マフユの家にはどのくらい食糧があるの?」
「私の家は__、...あ」
マフユの開いた口と表情が固まるり、少しずつ落ち込んだ顔になると
「....どうしよう」
「うん?どうしたの?」
「.....食糧が無い」
「え?」
「夜食が、無い!」
澄みきった空気にやけくそ気味のマフユの大きな声が響きわたり、驚いた鳥が木から飛んでいった。
「これが携帯食糧、ほら」
「わ、ありがとう!意外と大きいんだね」
ミサキは携帯食糧をポイッとマフユに投げると、マフユは両手で受け取ってしげしげと眺めていた。
ミサキたちのいる部屋は暗く、部屋の中央に置いてある電池式のランプだけがミサキ達を照らしていた。
マフユの家に帰って来たミサキたちは一応、食糧置場を確認したが夜食一食分となく、ミサキの携帯食糧を食べることで今晩のおかず決めは終了した。
(さて、マフユの初めての携帯食糧は何味かな?)
ミサキはこれから長く見続けるであろうその姿を見ながら、自分の携帯食糧の封を切ると中身を確認する。
色は赤、握った感触は麺に近い感じだった。
「な、なんかミサキのやつ辛そうだね....」
マフユは若干引きながらきいてくるが、マフユからすれば物の数ではなかった。
「まだまだだねマフユ、俺が食べてきた携帯食糧の中にこれに似たのがあったけど」
「あったけど?」
「火薬みたいな、風味?ていうか味だった」
「かやっ、えっ?」
「安心して味も食感もランダムだから。それじゃいただきまーす」
顔の引きつっているマフユを無視して一口かじりつくと、そのまま咀嚼をする。マフユも微妙な顔をしながら自分の分を口にいれると、黙々と食べ始めた。
そろそろ味がし始めた頃
「ミサキ」
「ん?」
「携帯食糧ってさ」
「うん」
「サクサクしててお菓子のイチゴ味みたいだね」
さらにマフユはもう一口食べようと口を開けたところで、
「えっイチゴ味?サクサク?俺そんなの食ったことないんだけ___ッ」
ミサキがおもいっきり噎せた
「ど、どうしたのミサキ。いきなり噎せたりして」
「ケホッエホッ___か、辛ッ」
「うわあ、そんなに?」
「うん、めちゃくちゃ辛い、これ全部食べるのか.....」
「あはは....が、がんばって」
マフユは数分、ミサキは十何分かけて食べ終えた
「そう言えば、ミサキ、旅の途中のお風呂ってどうするの?」
すっかり日が暮れ、星々が輝きだした頃、マフユがスナイパーライフルの点検をしながらそんな事をミサキに訊いてきた。
ミサキはナイフの点検を続けながら、
「え、お風呂?入らないよ。てゆうか、入りたいけど入れない。でも、近くに川があったらそこで体を綺麗にするかな」
ナイフの全体を少しずらしランプの光で照らすと、黒い刃の部分がなめらかに輝き、慣れた感触が指にのしかかる。
衛生面でちょっと引くかな?とミサキは思ったがむしろ逆で、
「私、それぐらいだったら大丈夫だよ。一週間家に帰らずに射撃場に住んでたことがあったから」
「へぇー、一週間かー。....ん?一週間?」
「そう!一週間!好きなときに好きなだけスナイパーライフル撃ち放題!楽しかったなー。まぁ、最後は寝不足とかで倒れたんだけどね」
「.....」
「どうしたのミサキ急にだまったりして?もしかして衛星面?大丈夫だよ、その時はちゃんと体を洗ったから。服を着たまま池に飛び込んだだけだけど」
ミサキがドン引いてしまった
(.....トイレ行きたいな)
「ごめんマフユ、御手洗いってどこかな?」
「部屋を出て向かい側の部屋だよ」
「向かい側の部屋、わかったありがとう」
ミサキは一旦ナイフを置き、立ち上がって扉を開けると
(あ、そうだ)
踏み出そうとした瞬間、あることを思い出して、マフユに向き直った。
「マフユ、そのスナイパーライフル気に入った?」
「へ?」
「あー、いや、気に入ったのなら、マフユに使ってもらおうかと思って。道具も上手い人に使われた方が嬉しいだろうし」
ミサキはそう言って、部屋から出ると、幅五メートルもない廊下を渡ってトイレに入った。
(あー、すっきりした)
短い解放感を終え、部屋に入ろうと扉に手をかけると、
「___!___!」
くぐもった声が扉越しに聴こえてくる。
(?、なんだ? )
ミサキは少しだけ扉を開けて、中を見るとはっきりとした声を感じることができた。
そして、ミサキはボケーとした間抜け顔になる、なぜなら
「このバレル!良い!短いのが良い!弾倉式ってのも良い!ボルトアクションとセミオートどっちかわからないけどどっちも好き!なによりもこのサイズ!小さい!1メートルもないこの大きさが良い!初めて撃ったときに運命のスナイパーライフルって気付いてた!これからよろしくっ!」
マフユが銃に頬擦りしながらそんな事を言っていたからである。
「神様ミサキ様!出会わせてくれて___」
(あー、うん。なんか癖のある人を)
「ありがとう!」
(パートナーにしちゃったなー)
仏顔でそんな事を思うのであった。
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