狙撃手
感染生物が蔓延るこの世界で旅をする上で、普通は二人以上の人数が適切だといわれている。一人だと色々と困る上に、生存率がぐっと下がってしまう。
なので二人以上が良い訳なのだが、ミサキには誘える人もいないので、いままではずっと一人で旅をしていた。
そして今日、もしかするとパートナーが出来るかもしれない。
「パートナーが出来るかもしれない」というのも、相方の実力を知らないと、後から大変な目には遭うため、相方候補の実力を自分の目で見る必要があった。
『わたしを貴方のパートナーにしてください!』
(.......パートナー、ねぇ)
ミサキはついさっき言われた事を思い出しながら、このキャンプ場にある射撃場に向かって歩き、その隣には、長方形の形をしたガンホルダーを背負った少女マフユがかなり浮き足だった状態で歩いていた。
ついで言うと鼻歌まで歌っていたので思わず、
「.......そんなに楽しみ?」
怪訝そうな顔できいてしまった。マフユは楽しそうに、
「はい!だってスナイパーライフルですよ?ワクワクするじゃないですかー!」
と言うと、また、鼻歌を歌いながら歩き始めた。
「.......そんなもんかなあ」
ミサキが銃を撃つ時は大抵何かを殺すときなので、あまり楽しいとか考えたことはない。
あの命を奪う瞬間は、いまだに慣れない。
(でも、殺らないと生きていけないから、.....しょうがないんだよなあ)
ミサキがそんな事を考えていると、「あの」という声が聴こえた。そちらを振り返るとニコニコと笑顔をうかべているマフユと目があった。
「あの、連れてってもらえる合格基準をまだ聴いていなかったんですけど......」
「あれ?教えてなかったっけ?」
「はい、まったく」
「あー、じゃあ、今から説明するよ」
「は、はい」
ニコニコ笑顔だった表情が真面目になり、じっとミサキの目を見つめてくる。
「今からマフユに挑戦してもらう距離は1.5キロメートル。5発中2発当てられたら合格。あ、それともう敬語じゃなくて良いんだよ、堅苦しいから」
「あ....、うん。それじゃあ1.5キロか。じゃあ、ここら辺からかな?」
そう言ってマフユは立ち止まり、まっすぐに指を指す。
その先にはうっすらと「的」が見えた。
ミサキは的に当たったかの有無を見分けるために、射撃場の銃を固定する土台に腰かけていた。
(さて、どんなもんかな)
ミサキの座っている場所から50メートル程先にある人型の的に穴が無いか確認すると1450メートル先にいるマフユに撃ってもいいという合図で手をふった。
手が振り返されるのを確認すると、そのままミサキは結果は見守った。
状況は、晴れのち無風、燦々と陽が照りつける散歩日和の昼間だった。
まずは、一発目
スコープを調整しているのか、チカチカと反射光が光り、光が見えなくなった約10秒後、発砲音が響いた。
(結果は!)
ミサキが的を見ると、少し落胆した顔になった。
弾は人型の的のギリギリを射ぬいていた
(すごい!でも惜しい、贅沢言えばもうちょっと)
ミサキが考えているとさらにもう一発、発砲音がした。
またも、ギリギリの場所
)
(撃つのが早いなあ、......ちゃんと狙ってるのかな?
三発目、人型の顔の端っに着弾
(一応、合格だけど惜しいなぁ。もう少し上手かったら満足なんだけ__)
「えっ」
思考が銃声に遮られ、的をチラリと見たミサキに衝撃が走る
四発目の弾丸は人型の的の顔、ド真ん中だった。
通常、スナイパーライフルは600メートルの射撃が平均とされており、スナイピングには複雑な計算と撃ってきた経験が必要となってくるのだが、アメリカ史上最高と謳われた「クリス・カイル」は1.5キロメートルの狙撃を成功させている。
その時のクリスは「偶然当たった」と書籍で語っている。
アメリカ最高の狙撃手で、だ
アメリカ最高の狙撃手が偶々(たまたま)当たった距離を、ド真ん中に当てられる。
はっきり言って「異常」だった。
そもそもミサキの注文がおかしいのだ。
今、マフユが使っているDSRの有効射程距離(撃って当たる確率が50%以上の距離のこと)である1.5キロメートルを成功させるのには相当の技量が必要となってくる。
だが、マフユは前準備なしで一発目からその狙撃に成功させている。そして、4発目で完璧に補整を完了させた。
(もう、調整が終わった?いや、まてまて偶然って可能性も__)
最後の発射音
ミサキが恐る恐る的を見ると、
(......外した?銃弾のあとがないぞ?いや、違うあれは.....)
的の真ん中の穴が一部削れている。
実質、二回目のド真ん中だった。
「.....やばすぎるだろ」
ミサキが呆然と的をしばらく見ていると、近くから足音が聞こえてきた。
「どう、だった?使ったことの無い銃で、自信がないんだけど。.....連れてってくれる?」
マフユはさっきと同じようにガンホルダーを背負って自信なさげに訊いてきたが、ミサキとしては十分だった。
「いや、十分すぎるよ!これから、よろしくお願いしますっ」
そう言って右手を出して握手を求めると、マフユはぱぁと笑顔になり、ミサキの手を握った。
マフユとミサキのコンビ結成の瞬間だった。
次回は少し短いかもしれません