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死が支配したこの世界で  作者: PSICHOPATHS
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激動の二日目(3)

今回は話のキレな問題でほんの少し短いです。

その子たちは見たところ中学生のようだった。というのも二人とも制服を着ているから分かっただけだが。


二人はこちらが可哀そうになるほど震えており、明らかに俺達におびえていた。俺が二人に視線をやると「ひっ!」と悲鳴を上げて後ずさられた。


若干ショックではあったが、考えても見ればいい年の大人から試合と間違えられる服装。しかも散々ゾンビと逃避行を繰り広げて血まみれの状態だ。

これで怖がるなと言う方が無理があるか……。


「悪いな、君たち。すごい数のゾンビに追われてさ、たまたま見つけた鍵の空いてる部屋に入ったんだ」


ゆっくりと、噛んで含めるように告げる。女の子二人も、その意味を咀嚼したのかこれまたゆっくり頷いた。

しかし表情の緊張は取れず、じっとこちらを見つめている。どうしたものかと考え、姫の方を見る。


姫も心得たもので1つ頷くとフェイスマスクとゴーグルを外し、素顔を見せた。


「あ、女の人……」


「ごめんね、驚かせちゃって。ここには二人しかいないの?」


「は、はい……。お父さんは帰ってこなくて……。お、お母さんも様子を見るって外に出てそれから……」


辛いことを思い出したのか、その女の子は涙を流し始めてしまった。もう一人の女の子が涙ぐみながらも、泣いてしまった子を抱きしめている。

よほど心細かったのだろう。大人がいないと言う状況は二人の心に多大な負荷をかけていたに違いない。


男性陣もマスクを外して顔を晒し、二人に相対した。


「出来れば、今日はもう外に出るのは危険すぎるし、止めて欲しいんだけど、いいかな?」


「で、でも……」


「大丈夫よ。こいつらが変なことしようとしたらこれでちょん切ってやるから!」


……姫がものっそい笑顔で血に濡れたマチェットを掲げる。

何をちょん切るって、ナニをなんだろうなぁ。思わず身震いをしてしまう。


「と、とりあえず食料はこっちで持ってきたものを食べるし、アレだったら生き残るための方法も教えるから」


そう言って俺は身につけていた武器を部屋の端に置く。武器を持ったままではまともな話もできないと言う判断だ。

それにしても頭が回らない。相当疲れてるな、これは。疲れた頭を必死に回し、どうするかを考える。


朝には人間を信用するなと言ったものの、この状況で相手に何のメリットもやらないのは危険すぎる。特に相手はまだ子供だ。この塩梅はよくよく気をつける必要がある。


姫や永道がこの子達に気を預け過ぎないようにしなければならない。





…0…0…0…0…0…






夜がだいぶ深まってきて、あたりからは幾多のうめき声が聞こえてきている。


気付けば二人もだいぶ緊張がほぐれたのか名前を教えてくれるまでになっていた。

親のことを話してないていた子が夏目ゆか。ゆかを抱きしめていたのが佐川莉子。


二人ともパニックに陥った時にはすでに部活を終えてこの家にいたらしい。そしてパニックが起き、父親は戻ってこず、母親は出て行ってすぐに悲鳴が聞こえてきた。

そうして二人で震えながら1日目の夜を過ごし、今こうして俺らと会ったわけだ。


「それは災難だったな。まあ、この家を出なかったのは正解だと思うし、そのおかげで俺たちも助かったんだけどな」


「はい、私達料理も出来なくて、何したらいいのかもわからなくて……」


「だからミキさんたちが来てくれて本当に助かりました!」


にこやかに話しながらも、俺は不安な感情を抱かずにはいられない。

この環境は最悪だ。二人が俺達に依存しかけている。このまま行けば明日の朝、ここを出て行く時に一悶着あるかもしれない……。


連れて行ってやりたい気持ちもあるが、それ以前に食料が足りなすぎる。子供だから探索に連れて行くこともできない。

二人を連れて行くことは即ち、俺たちの命を削ることと同義だ。先手を打っておかなくてはならない。


「……二人には悪いけど、俺たちは明日には別の所に行かなくちゃならない。だから二人のことは最後まで面倒を見ることはできない」


「ちょ、部長!あんたそれを今言うの!?」


姫が突っかかってくるが、これは大切なことだ。


「だってお前と永道、このままいくとこの子達を連れ帰ろうって言い出すだろうが!今日あったことがまた明日も起きたらどうするつもりだ!」


「私が面倒見るわよ!どうせ部長のことだから食料が無いとか考えてるんでしょうけど、私の分からでも出せばいいでしょ!」


「アホか!主戦力のお前や荷運びの永道のメシを減らせるかってんだ。いいか、ぶっちゃけた話今だって全員が外に出てメシをとって来れるからやっていける算段が付いてるんだ。非戦闘要員を二人も抱えられるほどの余裕はねえんだよ!」


静かに、しかし語気は強く俺たちは語り合う。

だが、結局のところ姫が二人を助けたがっているのは感情論なのだ。正論だけでは突破できない。そしてトドメに姫は爆弾を投げ込んだ。


「じゃあ聞くわよ?この家でこの二人だけで暮らして何日もつのかしら?」


「ちっ……」


「ほら、答えなさいよ」


全員の視線が俺に集中する。さっき、あらかたの物資を確認しておいた。皆もそれを知っている。誰もが俺に答えろと視線で語っていた。


「……風呂桶で水を満タンまで貯めて、食事をギリギリまで切り詰めても、多分一ヶ月いくか行かないかだろうな」


「じゃあその後はどうなるのよ?」


「そうだな……。餓死かゾンビの苗床になるか、はたまた仲間割れして殺し合いってところだな。どっちかが死ねばその肉と血で何日かはもつだろ」


「あんたそれ本気で言ってんの!?」


遂に姫が本気で怒鳴り声を上げた。のりさんは思い切り顔をしかめ、鷹ちゃんは黙って瞑目。永道は流石に少女がそんなことになるのは耐えられないのか、懇願するような視線をこちらに向けている。

ゆかと莉子は将来の想像をしてしまったのか泣き出してしまった。


だが、俺だって限界だった。


「本気に決まってんだろうが!五人で一ヶ月帰るメシだって、七人で食えば二十日しかもたねえんだぞ!誰か怪我したらどうする?死んだら?飯と水を調達できなくなったらおしまいなんだよ!」


「いい加減にしなさいよアンタ!それをどうにかするのがアンタの役目じゃ無いの!」


「ああ!?だったら一人でも出てってやるよ!バイクでも拾って高速まだ入れりゃ一人でも田舎まで行ける。田舎なら一人で暮らすのだって無理じゃねえ。

いろんな街を転々と動き回ったっていい。別に全員で生きること考えなけりゃいくらでも手はあるんだ!」


「お前らいい加減にしろっ!」


ヒートアップした俺たちを止めたのは鷹ちゃんである。彼は先ほどまで閉じていた瞳を開き、俺たちを睨みつけている。


「……山本、お前らしくも無い。それに綾瀬、朝にルールを決めだだろう。ここまで山本の判断に従ってやって来たんだ。今更山本の判断を無視するのは無しだ。

それに、山本も間違ったことは言ってない」


「だわな。山、お前も疲れてるんだろ。いつものお前ならぁ、もう少し色々考えてから決まるはずだ。それに、今お前に抜けられたら、それこそ俺らは野垂死にだ。それは勘弁してくれ」


鷹ちゃんが言うだけ言ってまた目を閉じ、のりさんが鷹ちゃんに追随する。

そこで俺は急激に頭から血が降りていくのを感じた。そっと姫を見ると、姫はまだ言い足りないと言った感じであったが、矛を収めてくれたらしい。黙ってその場に座ってしまった。


そこへ、今まで黙っていた永道が言葉を発した。


「俺も……、俺も部長が抜けるのはやめて欲しいです。でも、二人を助けてあげたいのもあります。どうにかなりませんか?」


いつもの気取った話し方でなく、真摯な話し方で永道はそう聞いて来た。

そこでもうダメだった。俺は崩れ落ちるように寝転がり、目を閉じた。


この段になってようやくまともに頭が回り始める。確かに、いつもの俺ならゆかや莉子の前でこんな話はしなかっただろう。

いつの間にか俺もこの状況に精神的に追い詰められていたようだ。この二人を仲間に入れない理由だけ考えて、仲間に入れられる要素を計算に入れてなかった。


「皆、ごめん俺もう寝るわ。また明日の朝、話をしよう」


その言葉に誰も答えなかった。だけど今はそれが、ほんの少しだけありがたい。

睡魔が訪れたのはそれからすぐだった。

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