表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死が支配したこの世界で  作者: PSICHOPATHS
5/32

激動の2日目(2)

次の目的地はここから歩きで30分ほど先にある大型のホームセンターだ。


ホームセンターは武器にできるものや、資材、食料となんでも揃っている。だからそういったものの補充には最適である。

だが、それは皆考えること。すでに人がいる可能性は高い。現金など通用しないだろうが、いくらかの金と交換用の装備をいくつか用意しておく。


「永道、足大丈夫か?」


「んー、行って帰ってくるぐらいなら大丈夫だと思うよ。これくらいならコミケの戦利品より全然軽いからね」


「ならいいんだが、無理すんなよ」


「あいさー」


そうしてそれぞれに声をかけ、目的の確認を行う。


「当初とは予定がかなり変わったが、これから行くのはホームセンター。

目的は武器以外のアイテムの確保。カセットコンロのボンベやガソリン携行缶なんかだな。あとあそこにはペット用のドッグフードなんかも一杯ある。まだパニックが始まったばかりの今なら、交渉次第で手に入るだろう。いい非常食になるはずだ」


ドッグフードと言うと皆「うえ〜」と言って顔をしかめたが、背に腹は変えられない。食べられるものは最優先で確保しておくべきだ。

本格的な回収はまた次の機会になるだろうが、中のゾンビの掃討と少量の物資は持ち帰れるはずだ。


扉の覗き穴を見る。敵影なし。


「よし、行くぞ!」





…0…0…0…0…0…






街の中は相変わらず閑散としていた。ゾンビは少し歩けば見つかるが、正常な人間はどこにもいない。

もしかしたらそこらの家の中で立てこもっているのかもしれないが、だとすれば一週間もすればまたゾンビが増えるかもしれない。


救いのない話かもしれないが、いくら立て篭もろうと飢えには勝てない。そして立てこもらなければ生き延びれないような人間にこの世界は優しくない。

もれなく宿主に転落するだろう。生き残る奴がいても、極少数だろう。


立て籠もる先はしっかり選ばなければならない。


武器となるものが多く、食料の備蓄があり、ゾンビが容易く中に入らないような壁がある。そんな建物は少ない。俺たちも、そう言ったところを早く見つけなければ。

いくつかあたりをつけてはいるが、うまく行くかは微妙なところだ。このような状況下であれば拠点は複数箇所作る必要があると考えている。


それぞれに物資の備蓄と武器を確保するのは至難の技だ。だが、もしもの時を考えるのならやらねばならないことだ。


「ところで、気づいてるか?」


「そりゃあな。あんだけ足音立ててたらバカでもわかるぜ」


この一切の物音がない静かな街に、明らかに(・・・・)規則的な足音が(・・・・・・・)響いている(・・・・・)


こんな規則的な足音をゾンビは立てない。呻き声も聞こえない。

どうやら、無人だと思っていた街にも例外がいたようだ。


「……どうする?」


「無視すると後々面倒だし、先んじて声かけるか」


などと囁きあっている隙に動いていた奴がいた。


「ん、連れてきたわよ」


「おい゛っ!」


思わず大声を上げてしまい、慌てて辺りを見回すがゾンビはやってこなかった。

男性陣はみな唖然としていたが、姫は毅然としたありさまだ。こいつ、やっぱりすごい。


「こんな女性、なかなかいないよねえ」


「同感だぜ永道ぃ」


あまりの胆の据わり方に永道とのりさんが微妙な顔をしている。さすがの鷹ちゃんも苦笑いである。

姫の連れてきたのは40代のおじさんだった。くたびれたスーツを着た疲労感の見られる人物だ。


「あ、あの、皆さん自衛隊の方なんですよね!?なんかゾンビみたいなやつが襲ってきて……、子供がいるんです!食料を分けていただけませんか!?」


あ、これダメなやつだ。


「あん?……ああ、こんな格好してるから間違えたんだろうが、俺らぁ自衛隊じゃねえぜ」


「で、でも皆さんあいつらをあんなに倒していたじゃないですか!?」


「ああん?知らねえよ、自分で何とかしやがれ」


のりさんが前に出て対応しているが、このままだとやばいな。

あのおっさん大分ヒートアップしてきてる。ここはさっさと離れた方がいい。


「だ、大体お前らガキだろ!そんなもの持っていていいと―――」


「おじさん、もうその辺にしといてもらえませんか?いい加減こっちも黙ってられなくなりますし、そもそも俺らもほとんど食料持ってないんですよ」


「なら食料のある場所まで連れてってくれるだけでいいんだ!頼む!!娘が腹すかせてるんだよ!」


ダメだこいつ、娘を出汁に寄生する気満々だ……。

説得は諦め、実力行使に出た方が早い。そう判断した俺は腰のマチェットを抜いておっさんに突きつける。


「いいか、おっさん?あんたも男なら自分で自分の家族ぐらい守れよ。武器も持たずに外出てきて、仲間に入れてくださいとか足手まといにも程があるんだって話だ」


おっさんは一目でわかる刃物にたじろいでいる。その隙に皆には走り出す再出発の準備を整えてもらった。


「まあ、後味が悪いし、連れてくことはしないが飯を手に入れる方法だけ教えてやるよ。

ゾンビにあっても走って逃げろ。あいつらも走るが普通の人間の方が早い。長い棒があったらそれで転ばせてその隙に逃げるんだ。


行くのはコンビニがいい。ゾンビもそう多くは入ってこれない。その代わり、入るなら裏口からだ。普通の入り口だと音がなってゾンビが来る」


それだけ矢継ぎ早に言って、俺たちはその場を足早に走り去る。おっさんはそれでも着いてきていたが、それはもう無視することにした。

皆にはもしもの時はあのおっさんはゾンビと同じように扱えた言っておく。


戦闘の際に騒がれたり、縋り付かれたら目も当てられない。


だが、それは後々考えれば悪手であった。俺のリスク管理はまだまだ甘かったのだ。

それを後悔するのはそう先のことではなかった。






…0…0…0…0…0…






あのおっさんが跡をつけてくるようになってから、やたらとゾンビと出会うようになった。

あのおっさんが度々話しかけてきたり、独り言をブツブツと零していたのか原因だろう。ゾンビが出ると悲鳴をあげたりもしている。


心底鬱陶しいが、まだギリギリ許容範囲内。しかし皆の疲労を考えればやはり早めに張り切った方がいい。そう考えていた頃だった。

ちょうどコンビニの横に通りがかったのである。


「ほらおっさん、ここまででいいだろ?娘があるんならさっさと飯取って戻ってやれ」


「あ、ああ。ありがとう……」


おっさんはそれだけ言うと、正面の入り口(・・・・・・)から中へと入って(・・・・・・・・)しまった。

高らかに響くメロディ。そして数瞬後には中から絶叫とガラガラと何かが倒れる音。この静かな街では壮絶な騒音。そして悪夢の始まりを告げる鐘だった。



すぐ隣の家でガラスの割れる音がした。



そして先ほどまで聞こえなかった無数の足音。最も恐れていたことが現実となった瞬間だ。


「全員走れ!まっすぐ目的地まで走れっ!」


まずいまずいまずいっ!!!

もはやなりふり構っている状況じゃない。大声を出すことをためらいもしなかった。


見えているだけで敵影6、いやもう10か!


「もうとどめは刺さなくていい!邪魔な奴だけ転ばせて走り抜けろ!!」


各々の武器を片手にゾンビたちの間を走り抜ける。

不幸中の幸いか、ゾンビの足はそれほど速くない。全力で走れば逃げ切ることはできそうだった。それでもあまた襲い来るゾンビの数に気が遠くなる思いだった。


「うわっ!?」


その時、永道が悲鳴を上げた。慌ててそちらを見やれば一体のゾンビが永道のザックを掴んでいた。

永道は手にした木刀でゾンビの頭を何度も打ち付けていたが、その程度ではゾンビの手は緩まない。永道がその場に釘付けにされ、そこへゾンビが殺到し始めている。


それを助け出したのは鷹ちゃんとのりさんだった。


鷹ちゃんは鋭い蹴りでゾンビの首をへし折ると、殺到し始めていたゾンビ達にその死体を蹴り転がす。

ただでさえ転びやすいゾンビは急にできた障害物に対応できるはずもなく、先頭の何体かが派手にずっこけた。それを乗り越えてやってきたやつらにはのりさんが盾を構えて必死に押しとどめる。


その間に体勢を立て直した永道はまた走り出すことに成功した。そこからは自然とフォーメーションが変わった。のりさんと俺が殿に立ち、姫と鷹ちゃんが永道を守りながら道を切り開く。

そんな命がけの逃避行が終わりを見せたのはそれからしばらくたった後。歩道橋に差し掛かった時だった。


「皆先に行けっ!」


そのころには先頭のゾンビからもそれなりの距離が取れ、わずかだがわなを仕掛ける余裕があった。


歩道橋の手すりに登山用のワイヤーを括り付け、道を幅む。ゾンビをある程度ひきつけたのちに、一気に歩道橋を駆けあがった。

その様子を見ていた先頭のゾンビ達が俺たちを追いかけようと殺到するが、入念にまかれた強靭なワイヤーがそれを許さない。そしてさらにスマホから最大音量でアニソンを垂れ流し、それを階段の中腹あたりに設置した。


音と大量の仲間に反応していただけの後続のゾンビ達はそこに集中し、その間に俺は歩道橋を渡り切ることが出来た。

俺は渡った先にいた皆と合流し、先ほどまでとは打って変わって身を潜ませながら先を急いだ。時には他人の家に侵入し、その庭を進み。時にはマンションの駐輪場をすり抜ける。しまいにはたまたまベランダのカギが開いていたのを見つけ、中へと入りこんだ。


奇策とスニークが功を奏したのか、安全を確保することが出来た。だが、その代償はあまりにも大きい。

日は既に傾き、空は赤い。そして目の前には、




―――突然の侵入者に震える二人の少女がいた。

あ、感想とかいただけると励みになります。

ただ、完全に趣味小説ですので過剰な批判はご遠慮くださるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ