少憩の十二日目
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翌日、朝から俺たちは物資の選別を行なっていた。宮本夫妻に渡すものも当然のこと、他にも様々な物資を手にしたのだ。未だホームセンターにおいてあるものも含め、その確認は済ませておかなければいけない。
「よし、一ヶ月はなんもせずに暮らせるな」
大谷さんの口からそんな言葉が漏れる。俺はすかさずその言葉に反論した。
「いえ、多分これじゃ足らない」
「あ?なんでだ?」
「ゾンビが増えるからですよ。多分これから十日以内に、今の1.5倍くらいにはなるんじゃないかな。そうなったら、ゾンビが散り散りになるまで外をうろつきにくくなる。
自然と一ヶ月以上の備蓄は欲しくなるはずです」
「いや、だからなんでそうなんだよ?」
「単純に、今の生き残りの大半がゾンビに変わるからですよ」
理屈は単純。今の生き残りは大きく分けて二つ。俺たちのようにパンデミックが始まってすぐに行動を開始した者達。備蓄を溜め込み、武器もある。そんな奴ら。
二つ目。ただ家にこもってじっとしてる奴ら。あるいは出かけ先で運良く籠城できた奴らもいるかもしれない。
さて、ここで一つの豆知識だ。人間、水はあるが食料はない状態で生きていけるのはおよそ三週間。そんな動けなくなるギリギリまで粘る奴はいない。
つまり、その少し前あたりから動くやつが大概だ。二十一日間と家にあった食料が持つ日数分。それが籠城している奴らが動き始めるリミット。つまりこれから十日程度ということだ。
「……だがそれでも生き残る奴はいるだろう?」
「いいや、鷹ちゃん。大半は死ぬよ。飯を食ってなくて力もなく、判断力も低下してる状態で、少しずつ強くなってるゾンビを相手にするんだ。
よほど運が良くなきゃ生き残れない」
そして、生き延びたやつが出れば俺たちの食い扶持が減る。
「だから俺たちは今以上に備蓄を溜め込まなきゃいけない。それに動物性タンパク質が足りなくなってくる。肉は腐るからな。そうなったら別の入手経路が必要だ。
一番いいのは釣りだな。次に野鳥を狩る。そんなもんかな。釣りがいいってのは、海のあたりなら根本的に人口が少ないから。野鳥は逆にどこでも捕まえられるけど、細菌や寄生虫が怖い」
肉を食べずにベジタリアンでもそれならそれでいいが、やはりタンパク質の確保は優先される。まあ、簡単に入手する方策はあるんだが。それが健康にどれくらいいいのかわからないから黙っておくが。
「てことで、今日を休んだら明日から食料と衣服、家具なんかを積極的に集めよう。冬になれば俺たちの動きも悪くなる。まだ少し寒い程度で済んでる今のうちに全部進めておくべきだ」
「ん?おい山本?」
「ああ、わかってますよ大谷さん。俺と大谷さんは多分明日から二日間くらい戻ってこないから、よろしく頼む」
これに関して、否定は出てこなかった。前々から言ってあった銃の確保。それが理由だ。その事をみんな知っている。
俺一人だったら反対されたろうが、自衛隊というプロが着いているのだ。一人よりはるかに安全だろう。
「……分かったわ。後で日程を教えてね」
「ああ。そんじゃ、宮本さん家に荷物運び込むの誰か手伝ってくれ」
…0…0…0…0…0…
宮本夫妻の家にガーデニング用品をひたすら運び込んだ後、俺はとある準備をしていた。
それがザックの中に詰める物の整理。今回は車ではなくバイクでの探索になる。荷物を置ける場所がないため、ザックの中に必要な全てを詰める必要がある。
予定は二日。一日目はここから少し離れたところにある大谷さんの知り合いの家。あと、大谷さんの自宅。
実を言えば大谷さんはライフルを所持しているらしい。自衛官の拳銃所持には階級の制限があったはずだが、それとはどうやら別口らしい。何でも、狩猟を目的とした意図で猟銃を十年以上所持していた人物には、狩猟用としてだがライフルの所持が認められるらしい。
その友人の方は大谷さんよりも少し特殊な部隊に着いていたらしい。その関係か銃器をかなりの数所持しているらしい。そんなことが許されるなんて、どこの部隊なのか。
特殊部隊かもしれない。夢が広がるな。まあ、夢を見るより先に現実のゾンビを殺す事を考えよう。
さて、願っても無い話だが、なぜ隠していたのか。それを聞くと、流石に会ったばかりの奴らに見せる物でもないから、だそうだ。
ここ数日、これから先の予定や計画を話しているうちにある程度の信頼はいただけたようだ。単独行動の訓練をする際には射撃訓練もしてくれるらしい。心が躍るが、法規制はどこへ行ったのか。
まあ、俺に得なら何でもいい。そう脇道の思考に決着を付け、本題に戻る。
この銃器の確保とは、対人の威嚇用のものである。勿論、使える時は使っていくが本質はそこにない。では二日目は何をしにいくのか。
本物のボウガンを手に入れに行くのである。遮音性、射程は素晴らしいものがある。弓を一から使いこなすのはまず無理だ。時間が足りなすぎる。だから素人でも使えるボウガン。今使っているものでは飛距離と殺傷力に欠ける。正規品を一度手にする必要があるのだ。
大谷さんがボウガンを売っているショップを知っていたからこそ二日で済む行程だ。本来なら都心部まで出るつもりだったのだが、少し迂回して田舎方面にそのショップはあるらしい。
これは大きな利点だ。やはり自衛隊員を仲間に引き込めたのは大きかった。
「つまり進むのは市街地。水は公園の水道からでも取れる。水筒は一つでいい。武器は嵩張らないこと予備を考慮してナイフを4本、いつものマチェット、予備で二本。一応ニコチン液も持って行くか。
ボウガンは今回邪魔だ。夜が冷える事を考えてしっかり寝袋と毛布。着替えはなくていいけどタオルはあったほうがいいな。ロープも要る。後は手鏡も入れとくかな」
んで、こいつだ。
今回のホームセンターの一件でもらってこれた、鉄製の登山用ピッケル。このパンデミックが起きてからずっと主力に使えると睨んでいた武器。
しかも柄まで鉄で出来た頑丈な逸品である。それなりの長さもあり、重心も先端にあるため一撃は重い。ピッケルらしく鋭いフックは、首にでも刺されば地面に引きずり倒すのも容易い。
一撃が重く、長柄で、引っ掛ける事もできる。しかも頑丈ときたらこれ以上の武器はあるまい。
それなりに重いが、持久力はともかく、純粋な筋力はそれなりにある俺にとってはそれほどでもない。むしろ丁度いいくらいだ。それに長期戦はこれは投げて使い、マチェットを主に使えばいい話。
最善はそもそも長期戦などにしない事だが。
「準備は万端。後はどのルートで行くか、よく話し合っておかないとな。
皆にはさっき、やってほしいことのToDoリストは渡しておいたし、問題はないはず。一人じゃないのは不満だけど、大谷さんがいるのといないのとじゃ生存率に違いがありすぎる。だからこれでいい」
あのホームセンターの戦いの後から、ふつふつと湧いているものがある。
それを解消できるのはいつの日か。自分自身気になるところではあるが、死んだらそれも出来ない。今は長期と短期、両方の視点で見るべき時だ。
さて、にらみでは後十日。それまでに全ての準備が終えられるかな?




