決戦の十一日目(5)
その夜、俺は再び宮本家に来ていた。作戦の成功と今後のことを話し合うためだ。いくらかのレトルト食品とジュースなど、嗜好品としてコーヒーや飴、ミルクココアの粉末などを手土産として持って来た。
それを子供達に渡してやると、お礼を言って奥の方に消えていった。
「作戦の結果は大成功。けが人もなく終わりました」
「おお!それは良かった。では、例の件は……?」
「ええ、進めていきたいと思います。明日の早朝、何人かとこちらに伺うのでその時に道具は渡します」
ほっと宮本夫人は息を吐いた。余程この取引が成立するか不安だったのだろう。この言葉を聞いて安心したようだった。
「前回話した通り、皆さんには葉野菜等の栽培をやっていただきたいと思っています。湿度や温度などの管理が面倒だろうとは思いますが、頑張ってください」
「葉野菜というと、どんなものを作るのでしょうか?」
「考えているのはほうれん草などでしょうか。栄養素が高く、育つのも早い。寒くても育てやすいですし、丁度いいかと」
なるほど、と宮本は頷く。
俺としてももっと色んなものを育てたくはあるが、なにぶん季節が悪い。これが春ならば色々やりようはあったのだろうが、いまは初冬。あまり手広くやって全滅させては世話がない。
「というわけで、実際に作業を始める前に皆さんでどんな作業が必要なのか一通り調べておいてもらえますか?」
「はい。前回話しを伺った時からいちおうですが調べておいたので、問題はないと思います」
「ああ、そうですか。それなら安心して任せられますね。こちらでも一応やっていくつもりではありますが、人数が多いためビニールハウスなどを作ってからでないと始められないんですよ。しっかりとお願いします」
「ええ、こちらとしても生命線ですから。しっかりとやらせていただきます」
やはりこの人に任せて正解だったな。下調べもしてくれているようだし、安心できる。
「勿論、最初のうちは失敗することもあるでしょうし、それは気にしないでください。私達としてもいきなり成功するとは思ってないので」
「ありがとうございます。それにしても、山本さんはお若いのによくこれだけ手広くやることができますね」
「いえ、やらなきゃいけないことを潰してるだけですから。今はまだサプリや缶詰でビタミンを取れても、そのうち野菜の確保が難しくなりますからね。早いうちに始めなきゃならないことです」
「あの時に勇気を出して貴方に会いに行ってよかったと本当に思いますよ」
それはこちらも同じだ。こちらとしても知らない人間よりも、利害で繋がった顔見知りの方が安心できる。
「それと、自体があちこちに転がって、ゾンビがウロウロしてる世の中です。健康管理には気をつけておいてください。手洗いうがいと消毒は忘れずに。こんどアルコールの消毒液なんかも持って来ます」
「何から何までありがとうございます」
「食料の配給は前回話した通り、この仕事を続けてくれる限りは供給し続けたいと思います。二日か三日に一度ぐらいの頻度で持って来ます。多分足りるとは思いますが、なるべく切り詰めてお願いします」
「ええ、もしもの時の分も含めて使っていきたいと思っています」
「こちらとしても人数が多いので、あまりに消費のペースが早いと供給できなくなる可能性があります。その事も頭に留めておいてくださいね」
さて、こんな所だろうか。……ああ、そうだ。
「私たちは明日を休日にして、それから転がってる死体を焼却するつもりです。少し騒がしくなるかもしれませんが、慌てずこの家から出ないようにお願いします」
「私たちの手は要りませんか?」
「いえ、この取引が周りに広まるのは防ぎたいので。私達だけでなんとかします」
よし、こんどこそ終わりかな。
「では、また明日の朝にお伺いしますね」
そう行って俺は立ち上がり、宮本家を後にする。宮本夫妻は玄関まで見送りに来て深々と頭を下げてくる。元の世界なら逆に人を顎で使えるような立場だったろうに。こんな若輩者に頭を下げれるなんてその順応性にこちらこそ頭が下がる思いだった。
…0…0…0…0…0…
宮本家を後にした俺は、バリケードを動かして家に入る。家の中はすでに静まり返っている。皆、昼にはしゃぎ過ぎたのか夕飯を食べ終えてすぐに眠ってしまっていた。
俺は暗いリビングの電気をつけ、PCに向かった。電源を入れて、インターネットを開く。
見るのはこの前投稿した動画のコメント欄。俺の投稿をきっかけに様々な考察や、別の地域での比較動画などが挙げられている。海外からのコメントは翻訳サイトなどを使って読み、情報を仕入れていく。
それによると、別の地域ではゾンビがどんどん動きが良くなっているおり、倒すのが難しくなって来ていること。一部の地域では逃げ延びた人々の集落が形成されていることが分かった。
または、ここから近い場所に籠城している人たちがいることや、食料の備蓄などの質問。様々なやりとりがされている。俺からしても有用な情報が多く載っていた。
やはり俺だけの意見でなく、他の人の意見を聞く事も大切だな。そう考えてさらに別のサイトや動画なども巡っていく。
そこではゾンビに対する考察や、ゾンビに対してどんな武器が有効か。はたまたどう行った立ち回りが生き抜くことに繋がるかの考察サイトのようなものがあった。
しかし、一番こう行った話し合いが盛んだったのはに〜ちゃんねるを代表とする掲示板サイトだった。ここの住民はもともと俺らみたいな人間が多いが、今はそれも極まってると言ってもいいだろう。
無駄知識のオンパレードと、無駄に考察力のある住民に苦笑をこぼしながら、スレッドを流し見ていく。やはり、ここに入り浸っている様子から分かるように外に出られている人間は少ないらしい。
武器がなかったり、備蓄がしっかりしていたりと理由は様々なようだが、今はどうでもいい。気になる情報を見つけた。
『ゾンビの表面にあるあの苔をどうにかしたら、ゾンビって死ぬの?』
確かにその可能性は考えていた。恐らくは光合成に近い栄養合成のための機関なのだろう。では、それを排除したらどうなるのか。
これは一度試して見る価値があるだろう。もしこれが有効なら、火攻めが聞くかもしれない。表皮が焼け爛れて仕舞えばあんな苔を生やすのは難しいだろう。今度、ゾンビを一体生け捕りにしてみるか……。
他にもやってみたいこと、試すべきことを探してはリスト化していく。
こう言ったことはちゃんと目に見える形で留めておいた方がいいからな。直近は死体の焼却にしても、その先の指標があるのと無いのとでは大違いだ。
そうして俺はいくつかの目標を提示した。
一つ、さらなる武器の確保。
二つ、食料の備蓄と安定した供給路の確立。
三つ、周辺地域の安全確保。
四つ、他の生存者との接触。
五つ、ゾンビの生態や謎について解き明かす。
六つ、全員に役割をもたせて緊張感を保つ。
七つ、都心部やここより田舎はどうなっているかの確認。
この七つだ。ここまでは必須。現在取り掛かっている事もあれば、まだまだな物もある。
莉子のことや、大谷さんのこともある。全員に役割をもたせるのは急務だ。これに関しては皆と話し合って決めなくてはならないな。
あと、俺と大谷さんが単身で外へ行く場合の指針。
勿論、身の安全が最優先だ。だが、どんな食料から確保して行くべきか。今ある食料が尽きた場合、どんな場所から取ってくるべきか。そんな内容はまだ話し合っていない。
こう言ったことも擦り合わせて行くべきだろう。
明日は完全な休日にするとしても、明後日には一度会議を開いた方がいいな。
そんなことを考えながら俺の夜は更けて言った。
連絡です。
今現在、年末や就活が迫っていることもあり、更新頻度が落ちています。来年の二月くらいまでは大体週一更新ぐらいになると思っています。
その後の予定はまだ決まっていませんが、まだまだやりたいネタがあるのでエタることはないと思います。




