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死が支配したこの世界で  作者: PSICHOPATHS
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決戦の十一日目

決戦当日の朝。俺は早くから武器の手入れをしていた。

それにしても、朝からこれほどスパッと目覚められたのは久しぶりだ。体型に見合わず低血圧低血糖なせいで朝が弱いのだが、今日は気力がみなぎっている。


「終わったか?」


「おお鷹ちゃん、もう終わる。にしても、ここまでだいぶ時間かかっちまったな」


「フ、そううまく行ってもつまらんのだろ?」


だな、と頷きを返す。やはり鷹ちゃんは付き合いが長いだけあって俺のことをよくわかってるな。この手のことは、長引けば長引くほど楽しむたちなのだ。

無論、利害とはまた別のところでの話だが。


「何にしろ、今日が終わっちまえばあとは楽だ。ここを生き抜くことに集中しよう」


「ああ……」


ナイフやマチェットを一本一本研ぎ直し、布で拭いていく。ハンマーもグリップの握りを確認。いつも使っている革の手袋には滑り止めのスプレーを吹きかけておく。


今回だけは、本当に死者が出る可能性が高い。万が一の可能性を潰すためにも、考え得る準備は全て行わなければならない。

装備を整え気力は熱く。体は温め、頭を回せ。


今日という日に、なぜか俺は失敗する気がしなかった。






…0…0…0…0…0…






今日は、中学生組含めてフルメンバーでの移動となる。


これについては色々協議したのだが、結局は二人だけで家に残すよりは連れて行ったほうがいいという判断だ。

拠点は最悪、今回で手に入れた物資で街を出て新しく作ればいい。二人を危険に晒すぐらいなら、その方がマシだ。


「うっしゃ!今日は俺と大谷さんがバイクでそれ以外が全員車。二人は刃物とか触らないようにな」


「はーい!」


「わかりました!」


俺の言葉にゆかと莉子が元気に返事を返してくる。皆を見回すと、全員が覇気のある顔を見せている。それどころか大谷さんに至っては見るからに「俺、ワクワクしてる!」という表情だ。

この人に関しては俺が心配するのは思い上がりというものだろう。戦闘において、この人はプロだ。頼りにさせてもらおう。


さて、全員がそれぞれに乗り込み出発する。


もはや慣れた道だ。道中の間引きも少しはしてあるため、着くのは早かった。

駐車場では既に準備が始まっていた。ガスボンべが中央に寝かされてあり、いつでも栓を開けるようにしてある。


まあ、ぶっちゃけこれに関しては爆発しない確率が高い。なので、カセットボンベをその周囲に十数本。さらにはガソリンを撒くつもりだ。

また、爆風による被害を受けないようにバリケードがいくつか設置されており、万が一がないように金属板やら石材などの頑丈な素材で補修されている。


町方は駐車場の端で大きな水鉄砲にガソリンを詰めているところだったようだ。

片手をあげると向こうは頷き返してくる。


「昨日ぶりだな。準備はいい?」


「ああ、全員やる気だよ。うちは全部で11人。そっちは6人だったな?」


「ああ。外からのゾンビを警戒するために3人は哨戒につける。残りは5・4・5人に別れて作戦行動」


間違いないな?と確認すればやはり町方は大きく頷いた。

こちらも頷きを返し、中学生組二人を見やる。


「二人はホームセンターの中に入れてもらいな。女の人と子供が何人かいるはずだ。作戦始める前にはまた顔出すから休んでてくれ」


そう告げると、ゆかと莉子はほんの少し顔を暗くする。


「大丈夫だって。準備はちゃんとしてきた。誰も死なずに戻るから」


二人の頭を撫で、バリケードの奥へと促す。二人は躊躇いがちにも中に入ってくれた。こちらを振り返った二人に笑いかけつつ、バリケードをしっかりとしめる。


……作戦開始時間まであと15分。


辺りを見渡せば、どこも作業は終わったようで、今は武器の点検をしているようだ。

俺たち外様組は防弾ジャケットと刃物各種。ハンマーやライオットシールド。ホームセンター組も工事現場用の作業服であったり、分厚めのジャンパーを着ている。武器は本当にバラバラだが、所々俺たちが今日のために貸し出したシールドやマチェットなどを持っている人が見える。


なんだろうか。不思議な気分だ。


パンデミックが起きて、逃げて戦って、わずか十日でこんなことをしているとは。かなりハイペースな人生を送っている気がする。

俺はもっと、ゆっくりと虱潰しに作業をする人間ではなかったろうか?そう考えると、どこかに不備はなかったか。本当に成功するのかと不安になってくる。


ーーー朝は失敗する気がしないとか思ってたのにな。


思わず自嘲の笑みをこぼすと、思考がクリアになる。やっぱり、変に時間があるとグダグダ考えちまうな。

でも、そりゃそうだ。作戦だって武器だって、素人の浅知恵だ。不備なんてどっかにあるに決まってんだろ。そんなわかりきったことを不安がってても仕方がない。人事を尽くしたのなら、あとは自然と結果が出る。それだけのことだ。


「しゅうごーーう!!」


気合いを入れるために大声をあげる。俺の言葉に反応して全員がこちらに近寄って来た。


「みなさん準備お疲れ様です!本番前に各々の役割を確認します。中心から左右に五人ずつ、真ん中に四人。哨戒三人は最初に扉を開け、中心地点までダッシュ。ゾンビを引き付けたら、左右から火炎瓶を投げてください。投げ込んだあとは即座にバリケードの影へ隠れてください。


爆発が起きたら、様子を見て散ったゾンビを掃討。左右の十人はボウガンを使って牽制。中央の四人が遊撃です。哨戒の三人は外からのゾンビを警戒。やってき次第潰してください」


ここまでで質問は?と聞いても、誰も手を挙げなかった。この作戦は何度も確認しているため、疑問はないのだろう。


「ここさえ突破したら生き残る道が広がります!しまっていきましょう!!」


「「「おうっ!!」」」


ノリ良く返事を返してくれたところで解散。それぞれの持ち場へと帰っていく。


俺は一度ホームセンターの中に入り、中の非戦闘員の人達に声かけをしていく。


「あと数分で作戦開始です。皆さんはバリケードのから離れて、居居住スペースで休んでいてください」


「あの、山本さん!」


声が掛けられて、横を見てみるとゆかと莉子の二人が立っていた。


「私達、美味しいご飯作って待ってます!だから、頑張ってください!」


「山本さん、頑張ってね!」


二人にしっかりと頷きを返し、密かに震えていた手を握りしめる。

負けるわけにはいかない。その気持ちを新たに、俺は外へと出た。震えは収まった。あとは、全力で全うするだけ。


バリケードの裏に立ち、大きく息を吸い込む。


「作戦、開始っ!!!!!」


いよいよ作戦開始です!



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