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死が支配したこの世界で  作者: PSICHOPATHS
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始動の九日目(4)

昨日、ついに毎日更新を落としてしまいましたorz


今日も少しだけ短いし……。とはいえ、明日からは話が大きく動き始めます。お楽しみに!

俺はまだまだ優秀なリーダー役とは言えない。そのことを再認識した出来事から少し経ち、食後。俺はとある場所に来ていた。


とある場所、などとは言ったものの実のところ家から数秒歩いたところにある場所。要するにお向かいさんである。

宮本家の玄関前に俺はいた。勿論ゾンビは警戒しつつであるが、うめき声は遠くからしか聞こえないためそう心配はないだろう。


インターホンを押せば、暫くして女性の声が帰って来た。


「あの……、お向かいの方ですか?」


「ええ。山本と申します。今日は少し話があって来ました。中に上げてもらえませんか?」


「しょ、少々お待ちください」


中から慌ただしい足音が聞こえたと思えば、玄関の扉が開かれた。


「おまたーーー」


「あ、締めて待っててください」


片手に持っていた手土産を放り、両手にナイフとマチェットを構える。体に染み着き始めているその動きは、それが到達するほんの数秒前に完了した。


「っらぁ!!」


横薙ぎにふるったマチェットはゾンビのテンプルを強打する。ゾンビは勢いのまま横の壁に激突。俺はそいつの下顎を掴み、膝を鳩尾にくれてやり完全に動きを止めた。

そしてトドメに首にナイフを抉り込むのだった。急所を刺されたゾンビは何度か痙攣した後動かなくなった。


「ヒイィッ!?」


「あ、あんまり叫ばないでもらえます?他のゾンビも来ちゃうんで」


奥さんが悲鳴をあげたくなるのもわかる。最早ほとんど何も感じずにゾンビを殺せている俺は、この家の人たちのように外に出ていない人間には理解できまい。

そのことを少し辛く感じるも、それどころではない。


他にゾンビが来ているかどうかをじっと確認する。どうやら今度こそ新手は無いようだ。先ほども確認はしたのだが、もしかしたら横道から曲がって来たのかもしれないな。

怯えたままの奥さんに一礼し、声をかけた。


「ごめんなさい、驚かせちゃいましたね。他にも来たらことですし、早く中へ入れてもらえますか?」


「は、はいっ!!」


宮本の家は外観通りモダンでおしゃれな家だった。ゾンビパニックが起こる前なら是非とも一度は住んでみたかったものだ。

今となってはリビングにある大きな窓は弱点でしか無いのだが。


リビングの中央にあるソファ。そこに宮本は座っていた。


「お久しぶりです、宮本さん」


「こちらこそ、お久しぶりです。今日はなんの御用でしょうか?」


「実は、一つお願いしたいことがありまして」


そのお願いとは、室内栽培の話だった。


「実は明日か明後日に大規模な戦闘があります。そこで手に入れた物を使って皆さんには、野菜を栽培して欲しいんです。前回出された条件でどうでしょうか?」


「では!?」


「ええ、その間は毎日の食料を配給させてもらいたいと思います」


この話を持ち出せたのも、大谷さんが仲間になってくれたことが関係している。

大谷さんの自家用車含め、運搬力と人手が上がった今だからこそのこの話だ。それにこの室内栽培がうまくいけば、食料の安定供給が生まれる。


塩や水は勿論のこと、ビタミンもまた生きるのに必要な栄養素だ。野菜不足の現在、サプリやこうした室内栽培などの手を打たなければならない。

そういう意味では、これは必要経費といってよかった。


「とりあえず、目処としては一ヶ月から二ヶ月程度を見ています。その間、食料をその時の状況に応じて配布します」


「その時の状況と言いますと?」


「それは簡単な話ですよ。食料が手に入らなかったら、そもそも渡せるものがありませんし。もし、貴方方がこの事を他の人に知らせて厄介ごとになったら、私達は切り捨てざるを得ません」


「なるほど、道理です」


まあ、基本的なことだけだし反論はされなかったか。あとはここに行くつかの条件を付け加えなくてはならない。


「まず食料の配給ですが、毎日この時間に食料を持って来ます。米は余裕がありますので、先に少し多めに渡しておきますね。この配給は、ことの成否に関わらず、一ヶ月間の保障をさせていただきます」


「ありがとうございますっ!」


奥さんが必死に頭を下げているのを見て、どこか悲しくなって来た。本来なら、俺みたいなガキに頭を下げるような人ではないだろうに、と。

しかしそれはどうにかできる問題でもないか。


「細かいことは、また明後日に来た時に話します。今日のようなことがあっては何なので、8:45〜9:00の間は玄関の鍵を開けておいてください」


「明後日の9時前ですね、分かりました」


そこでふと視線を横に向けると、扉の陰からこちらを覗いている子供と目があった。

小学生低学年くらいだろうか?あ、後ろから女の子が来て下げたな。こちらに頭を下げて来たが、構わずに手招きをする。


「な、なに?」


近寄って来たのはちっちゃい方の子だった。その手に袋をかけてやる。


「これ、今日と明日の分のご飯。中にアイス入ってるから後で食べな」


そういって頭を撫でてやるとキョトンとした目を向けて来た。それにクスリと笑い、立ち上がる。


「これから明日のことについて話し合いがあるので、今日はこれで失礼しますね」


「食料まで、本当にありがとうございます」


「ギブアンドテイクですから、気にしないでください」


打算ありきの行動だ。あまり有り難がられても困ってしまう。子供のありがとー!!という声を背に、俺は宮本家を後にするのだった。






…0…0…0…0…0…






帰りはなにも起こらなかった。

とりあえず殺したゾンビを道の端に転がしておいたが、近いうちに焼いといた方がいいかもしれないな。


さて、家の中に入って最初に俺を出迎えたのは莉子だった。少し気まずそうにしながらも笑顔でおかえりと言ってくれる。

この子にも、何か仕事を考えてあげないといけないな。


「ただいま。交渉は成功した。明日から忙しくなるな」


「約束したんだから、私にも仕事ちょうだいね?」


「ああ、任しといてくれ。ちゃんと考えておくよ」


そう返すと莉子はスキップしながら奥へといってしまった。思わず苦笑を漏らしながら俺も後に続く。

何人かはもう部屋に引っ込んだらしく、リビングに残っているのは数人だけだった。


「おお、山。契約取り付けられたか?」


「うん、問題なさそうだよ」


「そりゃいい。んじゃ、タバコでも行くか?」


「あ、いいっすね。行こうか」


そこへ大谷さんも手を挙げた。


「お、俺もタバコ行くわ」


てな訳で、全員で二階のベランダまで出るとタバコに火をつける。本当にこの時期のタバコはいい。冷たく乾燥した空気に煙が美味く感じる。


「ふーっ!それにしても、そろそろタバコも品切れか。今度コンビニでかっぱらって来なきゃな」


「そういやそうだな。山が矢毒に使ってるの含めて結構消費してっからなぁ」


「おお、あのボウガン毒なんて使ってたのか?」


大谷さんが感心したような表情でこちらを見てくる。


「ニコチンは結構強烈な毒だし、煮詰めたのは液体だから矢に塗れる。ボウガンには使いやすいと思って」


「ほーん。まあ管理だけはしっかりしとけよ?」


「はい」


ふう、と煙を吐き出す。そこでふと気がついた。


「ああ、もう息が白くなる時期か」


煙を吐いた以外の息も白いのを見て季節が写ろうとしていることを実感する。

ついに、冬が来る。これから何がどうなって、その中で俺は何ができるのだろう?


仲間が増えて、拠点を確保し、物資を備蓄した。やれることは増えたんだ。どうするべきなのか、いよいよ考える時が来た。


少なくとも、俺の考えでは後数日のうちにまた何かが起こる。それが外れてもせいぜい時期が伸びるだけ。起こることは変わらない。

それをどうやって避けるかが肝要だ。まずは、この人達に話をつけなければならないだろう。


俺は、二人の方をじっと見つめた。




「二人とも。話があります」




この選択が功を奏すか、それとも凶と出るかは分からない。でも、決めたからにはやる。それだけだった。

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