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死が支配したこの世界で  作者: PSICHOPATHS
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試行の八日目

今回、人体の解体描写があります。お気をつけ下さい。


無理な方はあとがきにまとめを載せておいたので、そちらをご覧ください。

その日の早朝、俺の姿はとあるマンションの二階にあった。


手に入ら手製のボウガン。ボルトにはタバコを煮詰めたニコチンの毒がたっぷりと塗られている。

それを構え、その時を今か今かと待つ。


ゾンビが、呻き声を上げながら、ゆっくりと近づいてくる。俺は音を立てないように二歩動き、ゾンビの背後を取った。

呼吸を落ち着かせ、脱力した瞬間、トリガーが引かれた。


パシュッと気の抜けた音を立ててボルトが放たれる。

3メートルほど飛んだそれは、狙いどおりゾンビの首筋に突き立った。

びくりと震えたゾンビは、振り回すように両手をさ迷わせたが、しばらくするとその場に崩れ落ちて動かなくなった。


よし、ゾンビにもちゃんと毒は効くんだな。ニコチンもちゃんと体内に入るか不安だったが、問題なさそうだ。

後何匹か狩ったら次だ。


軽く走ってみても、足は問題なさそうだ。疲労や使い過ぎが良くないのは当然だから、無理をするつもりはない。

それでも、しなければならないことはある。


その後、俺は場所を変えて三体のゾンビを仕留めた。その三つの骸はとある民家の庭に並べてある。


今日、こんな朝早くから外に出たのは他でもない。ゾンビを解体したかったからである。

家にいる間、ずっと考えていた。そもそもゾンビとは一体何なのか?何かに寄生された生者であることはすでに分かっている。だが、食事は?体温の保持は?一週間も飲まず食わずでなぜ生きていける?


ましてや夜の冷えるこの時期に、何日も外にいたまま凍えないはずがない。水分も取らずに生きていけるわけがない。

何かがおかしいのだ。摂理に反していると言ってもいい。それを可能とする何かが、このゾンビたちの中にはあるはずだ。


「……やるか」


まず、全員の服を脱がせていく。女の埃と油にまみれた肢体が露わになるが、興奮はない。

それよりもまず、驚愕が俺の心を支配していた。その身体には、びっしりと苔のようなものが生えていたのだ。


「何だこれ?苔?カビ?服の中だけに、か?」


調べてみれば間違いない。人目につくような場所にはそれはなかった。

緑色の苔ともカビともつかないものは、全て服に包まれた皮膚にのみ生えている。


そして次の驚愕。


緑色のそれらが、少ししたら全て枯れていったのだ。服を脱がした以外何もしていない。

だというのにも関わらず、まるで塩を浴びたナメクジのごとくあっという間に萎れてしまった。


「どういうことだ?」


考えられる要因は二つ。空気に触れたこと。これは被寄生者の体内にある菌糸が空気に触れた途端、枯れてしまった状況に今が似ていることから。

そして二つ目。光を浴びたから……?


どうにも後者が正解のように俺は感じていた。

と言うのも、だ。考えてみれば、敵を噛んだ時に寄生するとするなら、産卵管は恐らく喉から通って口に出てくるはず。だとすれば空気にも触れるはずだからだ。


「その可能性は考えてなかったな……」


それにしてもこのカビのようなものは何だったんだろうか。緑色から見て葉緑素?いやしかし光を浴びて枯れるならその可能性は低いか……。

だが、間違いなく重要な器官であることは間違いないだろう。


そのカビをナイフで削ぎ落とし、地肌を露呈させ、ゆっくりと腹部を切り開いた。


まず現れたのは黄色い脂肪。それをさらに深く切れば中から内臓が覗く。

俺はそこに手を突っ込む。ほのかにぬるい血の温度を感じながら、彼女の内臓を外に引きずり出した。それらは人の中から出てきたと思えないほどカラフルで、美しいとすら感じる。


「肺と心臓はまだ体内に残っているな。今度は胸か」


胸の谷間にナイフを這わせ、皮膚を引き裂く。首も切れ込みを入れて、肋骨から肉を剥がすかのようにして邪魔な皮を除去した。


血にまみれた手を一度タオルで拭い、滑らないように注意しながらハンマーを持った。

それで持って、一本ずつ肋骨を砕いていく。尖った方を持って、脇側の部分を強打してへし折る。内臓を傷つけずになんとか全ての肋骨の処理が終わった。


解体が終わり、並べられた女の臓器にはパッと見だだけでは異常はないように見える。

しかし、奇妙なものが一つ。


ーーー胃が、異様に膨らんでいるのだ。


かすかに脈打っているようにも感じられる。

胃をゆっくりと押してみれば、なんらかの固い感触。まるで中まで肉が詰まっているかのような……。


ここだな。


見当をつけたらあとは開くだけ。慎重にナイフを這わせ、内部を覗く。


そこには、赤々しいピンク色の肉塊があった。そこからは首や腸の方に向けて例の菌糸のようなものが伸びている。

それらは光に触れたせいか萎れていくが、その肉塊に変化はない。安全を期す為にも、おれはその肉塊にナイフを突き立てた。


ピクンと肉塊は震えたあと、完全に動きを止めた。


「こんな生き物、見たことないな……。間違いなく、元凶はこいつだな」


胃腸にこんなものがあったのが気になる。

もしかしたら、何も食べていないはずのゾンビに栄養補給を行なっているのはこの器官だったのかもしれない。


臓器を用意しておいたバケツに小分けにし、それぞれち油をを入れて着火した。完全に焼くことはできなくとも、何も処理しないよりはマシなはずだ。それらを放置し、今度は死体の食道を切り開く。

俺の予想通りであれば、ここに奴らの産卵管に近いものがあるはずだ。


「あった……」


見つけたそれは、他で見た菌糸よりはるかに太い。小指ほどの太さで、先端には針のようなものがあった。恐らくは噛んでいる間にこれを突き刺して、産卵もしくは感染などの生殖行為をするのだろう。


そこまで分かってしまえば、先ほどの俺の考察が正しかったことが確認できる。


この位置ならば空気に触れることも普通にある。噛むときにも口の中まで出てくるはずの器官だ。

やはり、光が奴らの弱点なのだろう。それだけ分かれば最早臓器と脳には用はない。


脳にあるのは行動を制御する器官なのは分かりきっている。肝心なのはこの胃にあったものが本体なのかどうかだ。

しかしそれも産卵管があの肉塊から伸びていたことを考えれば、そうであることは想像に難くない。違ったとしても、人を殺せば動けなくなることは同じだ。


そうして考察を進めながら、俺は男の死体を解体し始めた。


その結果、男女に器官の差はなかった。胃に肉塊があり、そこから産卵管と菌糸が伸びる。

表皮にはカビとも苔ともつかないものが覆っている。


解体の作業は全てデジカメで保存した。


このデータは全てネットに上げるつもりだ。

すでに載っているかもしれないが、やらないよりやった方がいい。少なくとも、昨日一昨日とネットを回遊した時点ではその情報はなかった。このデータがなんらかの役に立つことを望む。


「さて、あいつらも起き始める頃だし、さっさと帰るか」






…0…0…0…0…0…






家に帰って、俺を出迎えたのは仁王立ちのゆかであった。その顔には気迫が満ちていて、怒っているのがわかる。


「……あの、ゆかちゃん?」


「何ですか、山本さん?」


「言い訳をしていいかな?」


「ダメです!」


そうですか……。


結局俺は彼女に何をしていたのか根掘り葉掘り話す羽目になってしまった。散々怒られた上、泣かせてしまったのは心に痛い。


「もう……」


「ごめんって。でも皆に見せられるような事じゃないのはわかるだろ?」


「分かりません!皆さん、きっと付いていったと思います」


だろうけどさ。それでも見せたくないものってのはある。

俺が最初混乱していたように、皆にも精神的疲労がかかっているのは間違いない。防衛のためとは言え、ヒトの形をしたものを簡単に殺せる奴は頭がどこかイカれている。ましてや解剖なんて。


皆は俺みたいな、嗜虐趣味者でもサイコパスでもない。


折角今日は休日にしているのに、皆に心労をかけるわけにはいかないのだ。

俺がそう説くと、ゆかは大きくため息をついて首を振った。


「ごめんなさい。山本さんが皆さんのことを考えてることは分かってるんです。でも、心配だったんです……」


「こちらこそ、本当にごめん」


「いいです、仕方ないことですから。まだ皆さんぐっすり寝てますから今のうちにお風呂はいってきて下さいね」


その言葉に頷き、俺は風呂へと歩いていった。


今度から、この子は怒らせないようにしよう。この子の涙は心に響く。あまりの心の痛さにそう誓った。


胃の中に寄生生物の本体アリ。

見た目はピンク色の肉塊。恐らくこれが栄養補給なく動くゾンビの栄養源。そこから産卵管が伸び、喉元まで来ている。


その栄養を確保しているのは恐らく、光の当たらない表皮を覆っているカビとも苔ともつかないもの。


胃の肉塊以外は光に触れた瞬間に萎れたため、ゾンビの弱点は空気ではなく光ではないかと考察。


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