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死が支配したこの世界で  作者: PSICHOPATHS
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対面の六日目(2)

ゆかたちはどれだけ持ってきたらいいのか分からなかったのか、備蓄庫にある粗方の食料を持ってきたらしい。

袋に詰めてふらつきながらも、二人掛かりで運んできたようだ。


「二人とも、ありがとう」


「い、いえ!」


俺は二人の持ってきた袋の中から渡せるものをより集めていく。

俺たちの持っている食料は、初日にかっぱらってきた缶詰やレトルトが主になっている。そこにホームセンターへ行った際に手に入った非常食などが入ってくる。


この半分でも、ここで交換するには十分な量だろう。


何せ皆は食料を調達しにスーパーへと向かったのだ。今日の夜にはかなりの量の食料が手に入るはずだ。問題がなければではあるが。


「うし、こんなもんだろ」


そう呟いて渡す食料の選別を終える。どれも俺たちの好みに合わないものであったり、長く日持ちしないものだったりする。


「じゃあ俺はまた話ししに行ってくるから、二人はまた倉庫にいてくれ」


「分かりました!」


「頑張ってね!」


二人の声援を背中に受けつつ、俺は再び男たちの目に姿を晒した。






…0…0…0…0…0…






二人はちゃんと先ほどの位置で待ってくれていたようだ。ここで好き勝手歩き回っているようならどうしようかと思ったが、そんな心配はいらなかったらしい。


「さ、持ってきましたよ」


「おお、ありがとうございます!」


「交換の品は後から受け取りに上がります。先にこちらをどうぞ」


そう言って食料を渡し、「ついでにこれも」と隠し持っていた飴の袋を渡した。


「お子さん達に食べさせてあげてください。

こんな状況とはいえ、食料を無償でという訳にはいかず申し訳ない」


「そんな!交換していただけるだけありがたいですし、おまけまで付けて頂いて。なんとお礼を言って良いのか……」


「本当に、ありがとうございます。ここまでして頂いて何なのですが、もう1つ、私どものお話を聞いていただけませんか?」


来たか。はなから食料のことだけとは思っていないかった。

次に出てくる言葉は恐らく仲間に入れて欲しい、または緊急時の避難先、だな。


「はて、何でしょうか?」


「折り入っての相談なのですが、私どもを貴方がたの仲間に入れて欲しいのです。私どももこの歳ですので、我々のみで外に出るのは危険です。

なので、皆さんの何らかの形で役に立ち、その報酬という形で食料を配給していただけませんか?」


ほう、予想通りとはいえそれなりに考慮できる内容だな。確かに探索に着いてくるなどと言われた日には切り捨てるしかないが、その形ならば交渉のテーブルには載せられる。


だがしかし、現実はそう甘くない。


「お断りさせていただきます。その提案にはいくつかの欠陥があります」


「欠陥と言いますと……?」


「まず第一に、我々は気心の知れた仲間でのみ構成されています。だからこそここまでやって来れたという自負も。ですので、そこに皆さんを入れるのは輪を乱す可能性があります。それは避けねばなりません」


「それはーーー」


「次に、ですが」


宮本が何かを言おうと口を開きかけたところを先んじて封じる。


「我々は非常に若い。貴方がた大人達が我々の意見を聞き続けてくれるという保証がありません」


そして3つ目。


「最後に、貴方がたを一度受け入れてしまえば、この付近の住民がこぞってここに押し寄せるでしょう。それはまずい。輸送力とこの町にある食料の総数が有限である以上、いたずらに人数を増やすことはできません。

そちらの総数は7名。最低でも我々の食料が半分になることが決まっている訳です」


「それは……、しかし何かと人手がいる事もあるのでは?」


「その人手を集める必要のある作業を、当面私達はするつもりがありません。

すでに私たちも知人の子供を二人保護しています。これ以上の増員は不可能です」


宮本は悔しそうな顔をしたものの、自身が頼む側の人間であることをしっかりと認識しているのだろう。それ以上何も言えなかった。


「すいません。しかし我々も命懸けで食料を入手し、ここ数日を生き延びて来ました。その戦果をいたずらに渡すことはできないのです」


「いえ、無理を言っているのは私どもも理解しています。ですがせめて、我々に何かあった時ほんの少しでいいですので助けていただくことはできませんか?」


「……確約は出来ません。我々がその時までこの場所にいるかどうかすら知れません。ですが、保護が可能な時、お二方とそのご家族を一時という条件であれば助けましょう。

しかし他の方が合わせてくるようなら、その時は一切の躊躇なく見捨てます。それでもよろしいですか?」


つまりは、ここであったことを人に話すなと脅しているのだ。二人は神妙に頷き、頭を下げて去っていった。


これで交渉は終了。だが、大幅に計画を変更する必要性を俺は感じていた。






…0…0…0…0…0…






昼過ぎ。いつもより少し早い時間に皆は帰宅した。


返り血のかかっている装備をメンテしつつ、皆にはゆっくり風呂に入ってもらった。

この時間帯に帰って来てもらったのは、俺が一本電話を入れたからであった。というのも、早急な会議が必要だからである。


風呂から上がって来た皆に水を渡しつつ、本日の成果を見渡す。


その量は今までに無いほど多い。四人はまず、スーパーの中のゾンビを一体残らず壊滅させてから食料を運んで来たらしい。

そのため、驚くほどの戦果が目の前にある。言って仕舞えば、8人乗りの車に詰めれるだけ詰めて来た量である。それはもう半端な量では無い。


飲み物が10ケース、缶詰やレトルトが無数に。菓子や冷凍食品も片っ端から集めて来たらしい。肉はダメになっているものが多かったそうだが、ベーコンやハム、ソーセージなどがかなりの量ある。

更には精肉店の冷凍庫にあった肉や熟成中の肉も余さず取って来ている。これらは近いうちに燻製にするとしよう。燻製機はまたホームセンターへ出向いた時に物々交換すればいい。


「皆、お疲れ様。これだけあればしばらくの間はやってける。本当に良くやってくれた!」


「これでもかってくらい詰め込んで来たもの。それくらい喜んでもらえたら頑張った甲斐もあるわね」


「おう、少し事情があってさ。しばらくは食料を取りに行かなくてもいいだけの備蓄が欲しかったんだ。これだけあれば十分だ」


そう言った俺の言葉の中から耳聡く不穏な単語を聞きつけ、姫が訝しげな表情をする。


「事情?」


「ああ。至急この家を要塞化しなくちゃいけなくなった」


「ああん?いってえ何があったんだよ?」


俺は皆に今朝あったことを説明した。

やはりこの辺りには生き残りが多いこと。その中でも目と鼻の先の家が接触を仕掛けて来たこと。そろそろ食料が尽きかけている頃だということ。


「他の家からもここは見える。だからここが襲われる可能性がある。というか、その可能性は高いと見てる。もともとゾンビの大群が来た時のために考えてはいたんだが、前倒ししようと思う」


本当なら、もっと先の話だったのだ。しかしここは想像以上に人がいすぎた。

人が死ぬことを望むなんて下種の思考だが、それでも思わずにいられない。もっと数が減っていればと。


「それ、材料はどうするんだい?」


「まあ町方のところに頭下げるしか無いよな。食料はあるんだし、作戦の時の報酬を減らすとかすればいいと思うが……」


まあ、向こうもそれほど邪険にはしないだろう。ある程度こちらからもメリットを提示する必要があるだろうが、それも難しくはあるまい。せっかくいい肉が入ったのだから、持っていってやればいいことだ.

向こうも基本はジャーキーや缶詰などが主食のはず。一週間ぶりに美味い肉が食えるとなれば食いついてくるんじゃないか。


「そんで、永道とのりさんは俺と一緒に打ち合わせしてもらっていいか?他の皆は戦利品の運び込みを頼むよ」


それが鶴の一声になったのか皆が動き始めた。

んで、とのりさんがこちらに視線を向ける。


「要塞かつったって、どうするつもりなんだよ?素人仕事で簡単にできるもんじゃねえだろ」


「そこはまあ、やるしかないでしょ。それにやったことがないだけでやれない訳じゃないと思うしね」


のりさんの言葉に永道がそう返す。永道には昨日のうちからその可能性は話してあったからな。

既にある程度のプランは考えてあるのかもしれない。この方面で永道は本当に頼りになるな。


「とりあえず窓ガラスをアクリルに変えたいな。柵もつけて侵入できなくしなきゃな。ほかにも庭の入り口や家の周りに防犯砂利とか撒く。

あとはいつも通り食料の備蓄と武器の製作。塀の入り口にバリケード、車庫を改造するとかかな」


結構大々的に手を出すことになるが仕方ない。場右岸も作りたかったが後回しだ。



……いざというときの最終手段も考えてはいるが、なるべく使いたくはないものだ。

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