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死が支配したこの世界で  作者: PSICHOPATHS
14/32

移動の五日目

翌日の搬入作業は迅速に行われた。


俺は手伝いをさせて貰えなかったが、永道とのりさんが大活躍していた。往復回数は4回にも及んだが、ゾンビの数も少ないため、何とかなった。

話に聞いていた通り、この辺りは生存者が多いらしい。あれだけ音を立ててゾンビがやってこないのは不自然だ。そうでなければ説明がつかない。


搬入を終えたら、中の確認と設置。


新しい拠点は本当に大きく、部屋の数も多い。さすがに一人一部屋というわけにも行かなかったが、それでも今までに比べれば大分マシだ。

女性を含めて雑魚寝ではやはり問題があったからな。よかった。


運び込んだ家具の組み立てだが、やはり永道の手腕はすごかった。何をするにしても手早い。

慣れているのもあるだろうが、それにしても惚れ惚れする巧さだった。俺も多少は心得があるが、あれくらい出来るようになって見たいものだ。そう思わされた。


「よし、これで終わりだよ」


永道のその言葉で引っ越し作業の終了が宣言された。


中学生組が拍手をし、のりさんがくたびれたとばかりに座り込んだ。俺も姫と鷹ちゃんとハイタッチを交わした。


「それにしても、やっぱガランとしてんな。こりゃ近いうちに色々取ってこないとな」


「うーん、ショッピングセンターとかかい?ゾンビ多そうだねぇ。やっぱ部長が戻ってきてからかな」


それもそうか。一応打撲したのがスネということで、歩くこと自体はそれほど難しくない。しかし、長距離だったり、全力疾走は無理だ。

治るのに一週間はしそうだし、暫くは動けないな。


「せっかくひと段落したんだ。先のことは後で考えりゃあいいじゃねえか。とりあえずゆっくりしようぜ」


のりさんがそう言ってその場に寝転がる。

のりさんと永道は重いものばかり運んでいたからな。よほど疲れているのだろう。そのまま寝てしまいそうな雰囲気だ。


他の皆もここ最近の疲れが一気に吹き出したのか、眠そうである。

そろそろ昼食の時間だが、もはや限界なのだろう。姫も座布団に座って船を漕いでいる。元気そうなのは中学生組と久々に木工をして元気そうな永道だけ。


鷹ちゃんも一言眠るとだけ言って、リュックを枕に眠り始めてしまった。


俺はまだ体力が有り余っているため、永道とついでに中学生組を伴って二階へと上がる。


「それで部長、話ってなんだい?」


カーペットも敷かれていないフローリングに座り込んでの永道の開口一番だった。


「ああ、実は作って見たいものがあってさ」


俺はそう言ってスマホの画面を見せる。

そこにはとある図面が描かれていた。それは武器、しかも飛び道具の1つであるボウガンの図面である。


「永道、これ作れると思うか?」


「……作るのは簡単だと思う。でも多分、そんなに威力は出ないと思うよ?」


だろうな。この図面やとりあえず手に入る材料ではそこまでの威力が出ないことは分かりきっていた。


「この図面にあるのも段ボールを貫通する程度だしな。調べたところだとそれも手作りなら凄い部類みたいだが、人殺すのには足りないよな」


それでも作ろうと考えているのには訳がある。昨日、のりさんにバイクの入手経路を探してもらった通り俺は単独行動を考えている。

別にここを出てどこかに行こうという話ではない。今のままでは物資の収集や周囲の哨戒に限界があるからだ。


団体での行動は確かに有利だ。しかし、今の状態だと無駄が多い。


鷹ちゃんと姫は強い。それにのりさんが盾を使った戦法をものにすれば、俺の存在はそんなに意味がなくなってくる。少なくとも、普段の探索程度では。

大規模な作戦、もしくはゾンビが沢山いると思われる場所への潜入には五人でかかった方がいい。それは間違いない。


だけどそれでは行動範囲に限界がある。

一人の利点は小回りがきくこと。どこにでも忍び込め、哨戒や遠方への探索に向いている。今はいい。でも先々のためにはその人間がいた方が何かと便利だ。


そんなことを三人に説明する。


「……流石に簡単に賛成はできないね。今のままではダメなのかい?」


「負傷してこんなざまだから、文句は言えねえけどな。でもやっばり、そういう役回りの人間はいた方がいい。

その人間をこの中から選ぶなら俺だろうさ」


「それにしたって、危険すぎるよ。前みたいなことになったらどうするつもりだい?」


「分かってる。そのためのこれだ」


指でボウガンを指し示す。


「だからそれじゃあ殺傷力がないって……」


「ーーーこの矢に毒を塗る」


その一言に三人は唖然とした表情を見せた。


「で、でもそんな毒なんてどこにもありませんよ?」


「知ってるか、ゆかちゃん?こいつは殺人でよく使われる青酸カリより、致死量が少ないんだぜ?」


そこで俺が取り出したのは、何処にでもあるもの。俺ものりさんもよく使っているものだった。


「……煙草?」


「そう、正確にはニコチンだね。ニコチンの毒性は半端ないぞ?赤ん坊なら一本で死んじまうことだってある。

これはそんなに強くないけど、もっとニコチンの強いタバコを使えば少なくとも不調は起きるはずだ」


ニコチンは水によく溶ける。タバコのフィルターと巻き紙を取り除いて煮詰めてしまえばそれだけで劇物の完成だ。

これを使ったトリックの推理小説すらあるくらいだ。流石にそこまでの期待はしていないが、それなりの効果は見込めるはずだ。


本使用の前にテストをすればいいだけの話だしな。


「毒矢を使って遠距離から仕留める。

音に集まる習性を使ってゾンビをおびき寄せて、ゾンビを狩る。別にそう難しくはないはずだ」


装備の荷重にも問題が残るが、せっかく今は怪我して動けないんだ。他の筋肉を鍛えれば解決出来る。


実はこのことは初日から考えていた。その時は弓やアーチェリーを使うことを考えていたのだが、それよりはボウガンの方がいい。

今まで使ってこなかったのは、取り回しの悪さ、そしてフレンドリーファイアが怖かったからだ。しかし、一人で動けるとなれば話は変わる。


「まあ、それこそ先の話だし今すぐとは言わない。でもこれからそう言う行動をとるかもしれない。

だからその準備をしようと思ったんだ」


「………」


何よりもまず食料を確保しなければならない現状で、それは先の話になる。

生活基盤を整えて、武器を溜め込み、その後の話だ。今すぐどうこうと言うわけではない。


永道は結局、単独行動には返事を出さなかったが、ボウガンを作ることには了承してくれた。

永道が外に出なければいけない中、作るのは自然と俺になるがこの程度の木工なら俺でも出来なくはない。永道からアドバイスを貰えれば作るのは容易だろう。


俺のこれからの指針が決まった。






…0…0…0…0…0…








その日、結局皆は夕方近くまで眠りこけていた。


途中で永道も仮眠をとることになり、残った俺たち三人は夕食の準備をしていた。


「それにしても山本さんって本当になんでも出来るんだね。空手とかも出来るんでしょ?」


「そうだなあ、俺は結構飽き性っていうか多趣味でね?保育園の頃には空手をやって、小学校はサッカー、中学は剣道、高校はバドミントン、大学はアニメとか見てバイトに勤しんでたよ」


ガキの頃に空手をやっていたおかげで鷹ちゃんと会うことになった。剣道も高校になってからもなんだかんだ道場に通っていた。そこで姫と仲良くなった。

高校に入ってからやれることが広がり、小説を読んだり書いたりしてるうちに自然といろんなことに手を出した。


永道程ではないが木工にハマった時期もあるし、前に行ったミリタリーショップではないがサバゲー用のエアガンに凝った時期もある。

大学では弓道部に顔を出したり、登山をしてみたり。勉強に関してはそこまででもないが、雑学や危険物について調べまくってみたり。本当にいろんなことに手を出した。


「我ながら手を広げすぎだとは思うんだけど、新しいことを覚えるのが好きな性分でね。

色んなことに手を出した分、物事の飲み込みとか応用が早くなった自負はあるよ」


新しいことを覚えるのは楽しい。今までに習ったことを他に活かすのも、その方法を考えるのも面白いし好きだった。

ある意味この状況はその集大成とも言える。


「ほえ〜、本当に色んなことやってるんだね」


「全部覚えてるものなんですか?」


「いや、そんなことはないけど体に馴染んでればなんとかなるもんだよ」


戦い方とかもそうだ。敵の攻撃を避けるタイミングとかも少しすれば思い出したし。

現実的な話、こんだけ色んなことをやっても今までの世界ではなんの役にも立たなかった。だが、今なら違う。


俺の来歴が役立ってくれたのはいい意味での誤算であった。


缶詰の料理に適当にアレンジを加えつつ、そう思う。何か起きればいいと思っていた。その何かがこんな形なのは皮肉なものだが、それでも楽しんでいる自分がいるのは否定できない。


「よし、出来た。莉子ちゃん皆を起こしてきてくれるか?」


「はーい」


起きてきた皆に夕飯を食べさせながら、先のことを考える。


自分を過信するわけではない。だが、自分を試せる状況を楽しむだけの余裕は得た。

後は実行あるのみだ。

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