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死が支配したこの世界で  作者: PSICHOPATHS
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下地の四日目

「今日一日は全部前準備に充てたいと思う」


全員が起き出してきて一番最初に言葉にしたのはそれだった。


「……おめえ、朝っぱらからテンション高すぎだろぉ」


「夜中に起きてから寝てないからな!!」


「けが人のくせに何やってんのよ……」


姫の愚痴にそれもそうだと笑い、テーブルに向かって歩く。うん、少し不安定だけど歩けない訳じゃないな。ただ分かっていた通りしばらくは探索できなさそうだ。


「まあ、朝飯食べながら話をしようじゃないか」


「足は大丈夫なのか?」


「しばらくは走れないけど、動けないほどじゃないさ」


皆俺の足の心配をしてくれる。それを見てゆかはほら見ろとばかりに微笑んでいた。

ゆかに苦笑を返せば、それを見た莉子が不思議そうな顔をする。なんとも言えない空気だった。まるで、パニックの前に戻ったかのような雰囲気。


楽しい。素直にそう思う。


やがて姫が朝食を運んできた。莉子も手伝ったそうで、少し鼻息が荒い。


「お、美味いじゃんか」


「ありがと。っそれで準備っていったい何をするつもりなのよ?」


「それなんだけどな、この家を出ようかと思って」


その瞬間、皆の顔に緊張が走った。なんで皆がそんな顔をするのか数秒の間分からなかったが、その意味に気付いて慌てて首を振った。


「違う違う!皆で新しい拠点に行こうってことだよ。

昨日おとといは焦りすぎてたからさ。一晩ゆっくり考えて、決めたんだ。いつもの俺ならやっぱり何よりもまず環境を整えるかなって」


「あー、そういうことな。この前の事があったからぁな、焦っちまったわ」


皆がほっと息を吐いたのを見て俺も苦笑した。やはり皆を不安にさせていたらしい。


「ごめん。んで、やっぱり安心して眠れる場所って大事だと思うし、それぞれに部屋があった方がいいだろ?

物資をため込もうにもここじゃあちょっと狭すぎる。だから二人に聞きたかったんだ」


「私たちですか?」


「そ。二人はこの辺については詳しいだろ?拠点に出来そうな場所に心当たりはないかなと思って」


そう言われてゆかは悩んでいるようだった。さすがに拠点に出来そうなところと急に言われても思い浮かばないらしい。困ったような表情を見せている。

俺は分かりやすいように拠点に向いた建物の条件を上げていく。


「まずはやっぱりそこそこ広いことだな。次に入り口が道路より高い位置にあること。車庫もあるといいな。

それとこれは入ってから確かめることになるけど、地下室があるとさらにいい。ソーラーパネルがついてたら最高だな」


「んー、私はちょっとわからないですね」


「あー、やっぱそんな都合よくは―――」


「あ、私そんな家知ってる」


簡単に言ってのけた莉子に思わず顔を向けてしまう。

全員からの視線が集中し、少しくすぐったそうにしながらその家の事を話し始めた。


「えっと、その家は一年のころ仲良かった水谷って子の家なんだー。何度か家に遊びに行ったこともあって、すごく大きい家だったなあ」


「おお!地下室とかもあった感じ?」


「あった感じ。お父さんの書斎って言ってた。その子は今年の四月に引っ越しちゃって、それからずっと空き家だったと思う」


なんてこった。最高に運がいい。こういってはなんだが、この情報だけでこの子たちを連れてきた甲斐があったというものだ。

空き家というのも都合がいい。他の人間と鉢合わせになることがないからだ。


「あれ?でも部長、鍵がないと家の中に入れなくないかい?そういう家ってセキュリティがしっかりしてるだろうし、侵入するのが大変な気がするけど」


「それもそうか……。まあでも最悪、蝶番外して扉ごとこじ開けてもいいだろ。車庫にしたって、シャッターなら鍵ごと壊して、柵や鎖だったら外せばいい。

セキュリティ会社にしたってこんな時にまでやってはこないだろうしな」


もっと言えば窓ガラスを破壊してもいい。焼き破りすればそう音も立たないだろう。窓に関してはあとで変えるつもりだしな。


「よし、じゃあ悪いけど今日は莉子にも外に出てもらうことになるな。皆がいれば危険な目には合わないと思うから」


そう言うと莉子は恐る恐るとだが頷いてくれた。


「んじゃ、今日の予定を詰めるからみんなも意見よろしく」





…0…0…0…0…0…






なにかあったらすぐに帰還するという約束をして皆を送り出し、俺とゆかは二人で作業を開始する。


「よし、皆も行ったし俺らは俺らの仕事をするか!」


「はい!」


作業というのは物資の確認の事だ。ゆかが品物の名前と個数を読み上げ、俺がそれをメモする。

流石に二日間で集められた物資の量は限られている。あっという間に終わったが、その内容が問題だった。


「やっぱ食料が問題だよなあ。この量じゃあ、持って二日か三日だろうな」


「じゃあ、どこかで取って来なきゃいけないですね」


「うん。それにしたって物資がいつまであるかも分からないし、缶詰やレトルトパックにも期限はある。

自分たちで食べ物を生産できるようにならないと話にならないんだよな」


まあそれも二、三年先のこと。差し迫った問題ではないから今は置いておくしかないのだが。

願わくば、この状況がその間に収束してくれると嬉しいのだが。


物資のメモを見ながらふと思い立って煙草を取り出す。そういえば初日からこっちずっと吸っていなかった。


「吸ってもいいかな?」


「はい、どうぞ。……それにしても山本さん、煙草吸われるんですね?」


「ああ、まあね。大学通ってると周りがね」


煙草に火をつけながらゆかにそう返す。


「様になってますね」


「……っふー。二年のころから吸ってるしね」


そんな益体もない話をしながら皆に思いをはせる。ちゃんと目的地まで付けただろうか?

鷹ちゃんと姫がいるんだからそう心配はないが、莉子は不安を感じてるかもしれない。急な事だったし、昨日俺が怪我をして帰ってきたばかりだ。大丈夫だといいんだが。


「おっと」


気付いたら煙草の先端の灰が今にも落ちそうになっている。慌てて携帯灰皿に灰を落とす。


「考え事ですか?」


「ん、皆の事をちょっとね。大丈夫だとは思うんだけど、やっぱり心配でさ」


やはり敏い子だな。こちらの感情の機微をしっかりと読んでいる。


「そういえば二人はどういうつながりなんだ?部活仲間?クラスメイト?」


「両方ですね。同じクラスで、同じ合唱部でした」


「はーなるほどなあ。仲はいい方なの?」


言ってから気付くが、少しぶしつけすぎたか。それに会ったばかりのやつが聞くようなことじゃない。

しかしゆかは笑ってうなずくと、小学校のころからの親友ですっと答えた。


「そりゃあいいな。こんな時だから、親友が生き残ってくれてるのは嬉しいよな」


「はい……。お母さんとお父さんはどうなったのか分かりませんけど、莉子だけでもいてくれて本当によかったって思います」


そうだった。この子の両親は出ていったきり帰ってきていないんだったか。

居場所を変えてしまったし、また会える可能性は低いだろう。


「そっか……。俺たちはなあ、親と仲が悪いからそんなに気にしてないけど。やっぱり心配だよな」


俺は父親と折り合いが悪く、母親ともあまり会話していない。弟と妹がいるものの、連絡もつかないし安否の確かめようもない。

鷹ちゃんは両親を早く亡くして今はおばあちゃんと住んでいるし、姫の場合は片親だし仲も悪い。


永道は俺よりはるかに複雑な家庭事情だ。むしろこの状況に喜んでいる可能性さえある。のりさんに関してはあまり聞いたことがないので詳しくは知らないが、心配している素振りは見せなかった。

そんなことをつらつらと話しつつ時計を見やる。既に昼近かった。


「さ、暗い話はあとにして飯にしようか。昼からもやることあるし、しっかり食べよう」


「はい!」


昼食はちょっと豪華にカレーライス。土鍋に米と水を張り、炊く。カレーに関してはレトルトだが、辛めのものとコクの強さをうたったものを混ぜ合わせて煮込む。

味を見てほんの少しだけ調味料を足す。レトルトでおいしいカレーを作るコツである。


俺がやるには足元が不安だったため、俺が指示を出しながらゆかに作業をしてもらう。微妙な味の調整は俺がやったが。


「意外です。山本さんって料理できたんですね?」


「まあ一応飲食店でバイトしてるし、料理自体趣味みたいなもんだからね。

普段は俺が料理すると姫がうるさいんだけど、今日は特別な?」


私より女子力が高いだのどうだのと、姫は俺が料理を作ると愚痴を言ってくるのだ。それが面倒であまり姫の前では料理をしない。

だが家では地味にケーキを焼いたりもするし、料理やお菓子作りは得意な方なのだ。


「んじゃま、食べようか?」


やがて米が炊き上がり、蒸らしもしっかりと行った。ふたを開けてみればつやつやのお米が総立ちになっていた。湯気にのって甘い香りがし、思わずほおが緩む。


盛り付けはゆかにやってもらい、テーブルに着く。そして二人そろって手を合わせた。


「「いただきます」」

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