表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おちこちの神様  作者: 猫手のローランサン
第2章 広がる世界
9/36

009 挨拶はハロー

 「ハロー、コンチワー」

 「ハローハロー。ハローハロー」


 ビートルズの歌ではない。

 今神様として、グラーニア、オディナと共に治める集落を周っている。

 ここの神様になることを決め、改めての顔見せ挨拶と治める土地を理解するためだ。

 何もないが結構広いので、2~3日かけてのんびり周ることにした。

 皆一様に歓迎してくれた。


 同じ挨拶は飽きてきたので、ハローって言っていたら「ハローの神様」とか言われだした。

 勿論、ハローは英語なので通じない。

 ハローの意味は聞かれる度に伝えているので問題無いと思う。

 子供たちが飽きずに何度も「ハローハロー」と俺を真似て言って流行してるらしい。

 ただ、この言葉を知っている者が聞けば訪ねてくれるかもしれないのでこのまま広めておこうと思った。


 挨拶がてら、人身御供を差し出した家を数件訪ねてみた。

 訊ねた家は、みなアエカのように様々な理由で借金があり、首が回らない状態だったという。

 家の者達はそれなりの覚悟で人身御供を差し出し、あの子達のおかげで無事に暮らせていると言ってた。

 その人たちが言うそれは、都合のいい結果論では無く事実なんだろう。


 驚いたのは、皆のグレムスに対しての敵対心の無さである。

 正直、相当嫌われてると思っていたが違っていた。

 人身御供を出した家には、火山で採掘した売れば金になる鉱石を渡すという補償を出していたからだ。

 あの祭りの晩、かがり火に飛んできた岩がその鉱石だったらしい。

 アエカの両親が残した借金もソレで大半を解消できた様だ。


 昔の日本の貧しい農村でも、口減らしのために間引きがあったというのを習った記憶がある。

 それに、様々な理由から生まれた借金のカタとして子供を取られたりすることもあった様だし。

 おそらく、そういう類の意味合いがあったのだろう。


 奴隷制度もあるらしいが、奴隷として売られるよりはかなり多額の補償金だったという。


 周辺の集落を一通り周って思ったのは、見た感じよりも貧しいということだ。

 様々な種類の野菜や果物、穀物が採れる様だが、収穫物に対する税率が結構高いらしい。

 五公五民。約半分は税としてお上に持っていかれる計算だ。

 実際には過少報告している様なので3~4割ってところか。


 それに加え湖水や湧水が枯渇して以降、主な穀物の収穫量減少が死活問題になっていて毎年頭を悩ませていたらしい。

 やっぱりグレムスが原因じゃねーか、と思ったが黙っておいた。


 収穫物や収穫量減少に関しては

 「時間の問題」

 「大丈夫よ、水が戻ったらスグに作物の収穫量も増えるし他の動植物も増えるから」

 というのがグラーニアの出した結論だった。


 水が戻ると、湖や川で魚や貝やエビ等も採れるし植物も豊かに増え、周辺に生息していた動物達も戻ってくる。

 動物が増えると、肉、皮、骨等の加工品が作れて副収入になる様だ。

 グラーニアが神様をやっていた頃の状態に戻れば、特に問題は無いらしい。


 久々にヘレネを呼び出し聞いてみたが、同じ結論だった。

 むしろ、水さえ戻ればここは自然環境的に相当恵まれているので贅沢な悩みらしい。

 自然と共存するってバランスが大事だということか。


 改めて、夢にしては設定が細かいなぁと思った。

 初めて見る明晰夢なので、この夢がどの程度の夢なのかは分からないが相当ボリュームあると思う。

 ただ、初めてでロングバージョンの明晰夢を見れるのは大当たりかもしれないな。


 挨拶回りの中、時間があったのでオディナと木刀で剣術の稽古をしてみた。

 お互い同じ剣神のスキルがあるので互角かと思いきや、経験やスキルレベルの差なのか全く勝てない。

 子供を相手してるようにあしらわれる。

 真剣の勝負でもまず勝てないだろう。


 ステータステーブルを開いて見ると、俺の剣神のスキルはレベル2に上昇してた。

 グレムスを倒したからか?

 オディナはレベル679らしい・・・

 日々の鍛練と精神修行が必要らしいが、俺はそんなのノーサンキューだ。


 俺の夢だから、俺を一番強い設定にしててくれれば良かったのに。

 ただ、今の単純なパワーなら俺の方がオディナより上の様だ。

 オディナは少し驚いてたが、俺はなかり驚いた。



 のんびりと挨拶回りを全て済ませた3日後の夕方、自宅へ戻ると家が綺麗に片付いていた。

 いや、島が丸ごと綺麗になっていた。

 数年、半放置されていた家や倉庫や井戸、草ボーボーだった島の畑まで綺麗になっていて驚いた。

 畑は耕され何かの種まきまで済んでいて、芽がぴょこぴょこ出ている状態になっている。


 聞くと、アエカが中心となって村の子供達を集めて皆で綺麗にしてくれた様だ。

 素直に嬉しいし礼を言うとにっこりと笑って喜んでいた。


 あと、家の隣にある井戸だと思っていたのは、井戸ではなかった。

 湧水が出てくる場所を石で囲っていた様で、雑草や土などが綺麗に無くなっている。

 石に囲われた綺麗な砂地の表層からは水がこんこんと湧いている。

 その湧水が流れる石の水路は、家の土間に続く台所の洗い場に繋がっていて、そこからまた外に抜けていた。


 なるほど、水道じゃなくて湧水が家の中の洗い場まで水路を伝って来るのか。

 しかも、洗い場は水の出入り口に細かい仕切りがある水槽のようになっていて、小さな鯉の様な魚までいた。

 この家だけが特別では無く、湧水が豊富な湖隣村では昔からこういう感じで魚を飼っているらしい。

 そういや結構細かく水路が張り巡らされていたのはこういうことだったのか。


 湧水はトイレや畑にも繋がっていて、信じられない位便利になっている。

 なので、トイレは水洗だ。


 家の中も埃が綺麗に払われ、さっぱりとして清潔感がある。

 ただ、家具や調理器具類、布団等は古いので、おいおい必要性に応じ買い揃えるようにしよう。

 あと、風呂が無いので風呂を作りたいと思う。


 昼間は暑くても、夕暮れになるとグンと気温が下がり涼しくなる。

 いや、むしろ寒くなる位だ。

 現世でも、都会の夏は熱帯夜になるが、田舎の方はこんな感じだったな。


 日が沈み暗くなってきたのでランプに火を灯し、囲炉裏の炭を増やす。

 一気に居間が暖かくなり明るくなった。


 その囲炉裏を囲んで、俺、グラーニア、オディナ、アエカがお茶をすすっている。

 居間の柱に木製の掛花入れがあり、白い花が1輪入っている。

 何か、すっかりこっちの世界に馴染んだ気がする。

 むしろ、こっちの方が自然体で居られる。


 アエカが夕飯の支度の為に動き出した。

 服が汚れないようにシンプルな白のエプロンまで付けているのが目に入る。

 かなり似合ってるな。


 「ということで、挨拶周りも済んだし、私達は明日からしばらく旅に出るから」

 とグラーニアが言った。

 とりあえず1カ月ほどで戻ってくるらしい。


 「グレムスはどうするか決めたの?」

 と少し心配そうな感じで聞いてきた。


 「しばらくは色々雑用をこなしてもらって後は自由にするつもりだけど、それでいいか?」

 「ええ、モリオトーがそう決めたのならそれでいいわ」

 アエカの方を見たが、彼女も頷いていたので問題無いだろう。


 挨拶回りでここを離れる前、グレムスと話をした。

 俺は勝ったがお前は殺さない。しばらくは村と俺の役に立て。

 と言ったら頷いていた。


 なので、ちょっと雑用を頼んでおいた。

 真面目にこなすなら、しばらくしたら自由にしてやろう。


 「そういえば、今朝モリオトー様宛に手紙が来ていました」

 アエカが料理の手を止め、そう言いながら手紙を渡してきた。

 やっぱり手紙の文化もあるんだな。でも心当たりがない。


 開封する前に宛名を見る。確かに俺宛だ。

 裏の差出人を見ると、複雑な刻印がある。刻印だけじゃわからないな。

 とりあえず封を開き、中の手紙を取り出した。


 当然だが、こっちの世界の言葉や文字は日本語ではない。

 ただ、言葉や文字が何故かすぐに全て理解できているという夢補正みたいなのが働いている様だ。


 白くて上質の紙には綺麗な字でこう書かれていた。


 

 モリオトー神様


 暑さが次第に夏めいてきた今日この頃、湖隣村周辺地域の新しい神様就任おめでとう。

 あなたの噂は既に私の耳に入っている。

 都合がよければ、早いうちに1度挨拶に来てくれ。

 今なら国神マリオットも居るし、彼女も私同様、君に興味があるらしい。


 ブルギュラー公国 

 公主

 ブルギュラーノ・ラングル



 短文だったので目読して内容を確認したが、特に差しさわりがなかったので声に出して読んだ。

 手紙の書き方はこれでいいのか?とは思ったが、まぁどうでもいいか。


 「ラングル公からの手紙か」

 「マリオットも居るのね」

 とグラーニアがお茶をすすりながら言った。


 「ああ、知ってるのか?」

 「勿論。説明したけど、ラングル公はここの領主でマリオットは国神よ」

 「特にマリオットは強いし色々凄いわよ」


 「ついでだし、私達も一緒に挨拶に行こうかしら」

 どう思う?とグラーニアがオディナに聞いた。

 「ああ、それがいい」

 とオディナが返事した。


 「じゃあ私達も一緒にいっていいかしら?」

 「うん。道案内や紹介してくれれば助かるし」

 首都がバレスとい町だというのは聞いたが、場所も行き方等何も知らない。


 「それじゃあ折角だし、アエカも一緒にいくか?」

 と、囲炉裏の火で鍋を作っていたアエカに声を掛けた。


 「え?私ですか?」

 「ああ、首都のバレスに行ったことあるか?」

 「ないです」

 「じゃあ一緒に行こうか」

 「はい。一度行ってみたかったんです」


 ということで、皆で行くことになった。

 アエカはとても嬉しそうに鼻歌を歌いながら料理している。


 ここから首都までは、陸路なら人が歩いて2日半ほど。

 船で下れば1日ほど短縮できるので、首都まで1日半ってとこか。

 結構近いか?


 馬があればもっと早いが、人化出来ないオディナを乗せられる規格の馬が居ない。

 別に急ぐ用件でも無いし、そもそも馬を持っていない。


 ただ、今後のことも考えると足となる馬が欲しいし、馬以外にも色々欲しい。

 剣神スキルはあるが刀を持ってないし、裸足だから靴とか靴下も欲しい。


 食事を済ませた後、ちょっとグレムスのとこに行ってくるわ。と言って家を出る。

 夜なので暗い。家は湖中の小島なので当然水に囲まれてる。

 この家から速く移動出来る様、昼間オディナに水の上を走る技を教えてもらったのだ。

 飛び跳ねるように水面を疾走し、あっという間に対岸に着いた。


 ここからだと、湖隣村からよりは大分短縮してあの山頂の火口まで行ける。

 運動がてら全速力で向かってみる。


 相変わらず裸足だが痛みもないし速い。

 暗い夜の山道を全力疾走してる訳だが、剣神のスキルで感覚が研ぎ澄まされ昼間の様な感覚で走れている。

 今の俺がオリンピックに出れば全種目金メダル間違いなしだな。


 ものの数分で山頂へ到着し、火口から顔を覗かせる。

 グレムスの気配はするが、一応声を掛けておく。

 「おーい、グレムス居るかー?」

 「おお、居るぞー」


 返事があったので下へ降りる。

 やはり前に両腕を斬った場所に居た。


 「お前さ、本当にこんなとこに住んでるんだな。村に降りてきた方が何かといいだろ」

 素直に思ったことを聞いてみた。

 「いや、火の神だからか、ここが一番落ち着くんだよ」

 「この辺りは人が入らない手付かずの山が連なっているから、別に食うものにも困ってないし」

 まぁ俺が持ってる常識じゃ当てはまらないし、余計なお世話か。


 「ところで、俺が頼んどいたヤツどうなった?」

 「ああ、満タン取っといたぞ」

 ふむふむ。

 ちゃんと雑用はこなしてる様だな。


 グレムスがのっそり動きだし

 「モリオトーが結晶化出来る4つ分だ」

 と言って、地面に結晶を4つ撒き、結晶解除した。


 現れたのはデカい鉱石が4つ。

 様々なモノに加工が可能で、需要が高く、売ればそこそこのお金になるらしい。

 これを町で換金して、買いたい物を色々買おうと思っていたのだ。


 「これって全部売ればどれくらいの金になるか分かるか?」

 「いや、分からんな。俺は金要らないし」

 ああ、そんな感じだな。


 「実はラングル公から手紙が来て、会いに行こうと思ってるんだがお前も来るか?」

 「ん?いや、興味無いし行かない」

 「国神のマリオットも居るらしい」

 「ああ、あの派手なアイツか。大人しく留守番しとくわ」


 「じゃあ何か買ってきてほしい物とかあるか?」

 「いや、別に無いな」

 「まぁ何かお土産買って来てやるよ、じゃあ挨拶に行ってる間の留守番任せるわ」

 「ああ」


 と会話をし、鉱石を4つ結晶化し家に戻った。

 やはり結晶のスキルをフルで使うと目に見えて弱くなるな。

 明日は早朝から出発予定なので早く寝ることにしよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ