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おちこちの神様  作者: 猫手のローランサン
第1章 明晰夢の中で
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005 メロスっぽく走りパワーアップ

 勢いよくガバッと上半身が起き上がる。

 ベットの上?ああ・・・夢か。

 ここは・・俺の家だな。


 呼吸が荒い。落ち着かせるように数回、大きく息を吐く。

 両手の手のひらを見る。顔を触る。部屋を見渡す。いつもの部屋にいつもの俺だ。

 さっき見た夢は全部覚えている。額から汗が流れる。

 とにかく明晰夢確定だな。素晴らしい。


 それにしても随分リアルな夢だったな。

 いや、俺がイケメン神様になってあれだけのパワーがあったり、半獣のデカい神様とか出てきてたし夢っぽいか。

 まだ興奮がおさまらない。


 最後の場面思い出しても腹立つなぁ、何であんな終わり方なんだよ。クソッ

 あのグレムスとかいう奴に殴られた首の後ろの付け根をさする。

 夢での出来事だったので、当然痛みは無い。


 ベットの横にあるカーテンを開け、窓も全開で開けワンルームの部屋の空気を入れ替える。

 南向きの窓からは日が差し込み、眩しさで目を細める。

 いつもの休日の晴れた朝だ。


 部屋の中へ戻り時計を見ると、それなりの睡眠時間だったみたいだが、夢のせいですっきりしない。

 そのままトイレをすませ、買い置きしていたパンを手に取り、冷蔵庫からパックの牛乳を取り出す。

 朝食を簡単に済ませてから、少し熱めのシャワーを浴びる。

 シャワーは気持ちいい、体をすっきりさせてくれる。

 顔を洗うのが一番好きだ。


 シャワー上がりに冷蔵庫から冷たいコーラの缶を取り出し一気に飲みほしながら、TVを付ける。

 映ったのは、休日の朝にやってる代わり映えのしない番組。

 リモコン片手にザッピングしたが、特に目に留まらなかったのでそのまま消す。


 ・・さっきの夢気になるなぁ。

 ベットに横になり、変哲のない天井を見ながら思う。

 目が覚めてから2時間ほどたったが、なぜかあの夢のことばかり気になる。


 本来なら、念願の明晰夢を見れたという喜びがもっと溢れそうなものだけど、それがあまりない。

 よし、と思ったのは目覚めた後の少しの間だけ。

 むしろ、自分が明晰夢を見たいという夢を忘れてしまっていたことに驚いのと、みた夢の世界が気になる。


 あの夢での俺の姿は子供の頃イメージしてた通りだったし、展開もそれっぽかったのに最後が違った。

 夢の出来事って、TVを見てるような感じでどこか他人事なのかなと思ってたんだけど、それも違う感じで深く関わっていたと思う。


 気になる。

 でもそうしようもないよな。


 ベットに横になり、くるりと180度寝返りをうつ。

 そういえば、夢って覚えてる間に寝ると続きが見れたりするらしい。ってのは聞いたことがあるのを思い出した。

 今日は時間があるし、夢の内容はばっちり覚えている。

 条件は揃ってるし試しに2度寝してみるか?

 そう思い、電気を消し部屋を暗くし目を閉じる。


 この感じなら、すぐ寝れそうだな。

 続きを見られたらいいな。







 勢いよくガバッと上半身が起き上がる。

 布団の上?ああ・・・夢か。

 ここは・・村長の家だな。


 ん?おお!!

 これはまぎれもなくさっきの夢の続きだな、と感動する。

 首の付け根がジンジンしてる。

 あの手刀でやられた痕だ。

 ただ、さっきの続きにしては布団で寝てたりしているし、多少進行している様だ。


 「目が覚めましたか!」

 とAが心配そうな顔で近くに来る。


 「すまん、どうなったのか説明してくれ」

 「モリオトー様がグレムス様に勝負を挑まれて、一発で倒されました」

 「ああ、そこまでは覚えている」

 「その後、グレムス様が倒れてるモリオトー様に止めを刺そうとしたのですが、アエカが邪魔に入って助かりました」

 「それからここに運ばれて、今気が付いたところです」


 なるほど、気絶した後アエカに助けられたということだな。

 助けるつもりが、助けられるとは情けない。

 実際、情けない負け方したから幻滅させたかもしれない。


 「で、アエカは?」


 「・・アエカ達は、人身御供の儀式を行う為、清めた神輿に乗り他の者達と共に山頂へと向かいました」

 やっぱりそうなったか。

 止められなかったからな。


 「もう間に合わないか?」

 「どうでしょうか?分かりませんが急げば儀式に間に合うかもしれません」


 まだチャンスはあるのか?

 いや、あるな。何となく分かる。

 2部構成で、1度負けておいてからの逆転勝ちはよくある話だ。

 そっちのパターンだな、間違いない。と思った。


 どちらにせよ、彼女だけは約束通り助けないと、さすがに夢だとしても目覚めが悪いからな。


 「じゃあ、ちょっと助けに行ってくるわ」

 と言いながら出口へ向かい、扉を開け助けに向かおうとしたが、どこに行けばいいのかが分からなかった。


 後ろを振り返り

 「すまんが場所はどこで、道はどういけばいい?」

 と尋ねる。

 「モリオトー様が下りてきた1本道の山道を登ればグレムス様が居る山の山頂に着きます。そこで儀式を行う予定のはずです」

 ああ、あの道か。


 そうだ。

 「それと、悪いが何か武器は無いか?」

 あの巨体相手に素手だと分が悪すぎる。

 「武器ですか?」

 ええと、と探し出す。


 「ああ、そこにあります」

 指を差したのは、家の出入り口の扉の上。

 そこに鞘に納められた1本の長く大きく重そうな刀が魔除けの様に飾られていた。


 それを手に取り家から飛び出す。

 そのまま急いで山頂への山道へ向かう。

 「確か、その刀はグラーニア様の式神様が使っていた刀です。ご武運をー」

 という声が既に走り出している背中から聞こえた。


 相変わらず裸足だが痛みは無いし、脚力も強化されているので、走ると速い。

 やはり身体能力は相当高くなっている。

 ただ、俺自身がこの強くなった体の使い方が分かってないんだろうなとは思う。


 これは俺の夢であり先程までの続きで間違いは無いな。と、走りながら考える。

 Aが俺を見て驚いてなかったということは、顔や姿もそのままなんだろう。

 道も見覚えがあるし、このまま進めばたどり着くだろう。


 ただ、先程負けた決闘の様に、このまま真正面からストレートに奴に挑んでもまず勝てないだろうと思う。

 俺には実戦経験がまるで無い。

 この夢の中で現実の実戦経験が活きるかは微妙だが、無いよりはマシだろう。

 ただ、そのマシなのすら無い。


 殴り合いのケンカすらまともにやったことがない。

 素手じゃあ二の舞だと思い何となく武器として刀は持ってきたが、握り方さえ知らない。

 しかも、アイツは全く本気だしてなかったぞ。


 ますますやばいな。

 自分の夢補正で勝てるかと思ってたが、それなら前の時点で勝ててただろうし。

 このまま行っても、さっきの二の舞になるのがオチだ。

 困ったが、ただ時間が無い。今はとにかく全力で走ろう。

 走りながら何か策を練ろう。


 ヤツから勝利を勝ち取る為の何か条件かフラグがあるのか?

 見落としてる?

 そんなことを考えていると、頭の中で「カチッ」っと音がした。


 ん?何?と思った瞬間

 (相互接続に成功しました。この声が聞こえていたら返事してください)

 という声がした。思わず立ち止まる。

 きょろきょろと周囲を見渡したが、人が居る気配が無い。

 それに、聞こえたのは耳から聞こえる声というより頭の中に直接届いている感じがする。


 「ああ、聞こえている」

 と返事をしてみる。

 (ようやく繋がりましたね。それにしても・・・あなたは一体何者なんでしょうか?)

 こいつも意味分からんこと言ってるわ、と思っていると

 (確かに、この質問では意味が分からないですね)

 と、返事しなかったのに返された。


 ということは、頭の中で思ったことが伝わるのか?

 テレパシーみたいなものか?

 (はい、そうです。リンクしている間は声に出さなくても意思疎通が可能です)

 なるほど。


 とりあえず立ち止まっている時間は無いので、山頂へと走りだす。


 (簡単に説明しますと、あなたのように自然発生で生まれる神というのは、姿形や能力等、様々な状態で生まれます)

 (共通しているのは、初期段階では自我が無く本能むき出しの状態だということです)

 ふむふむ。

 そういえば、俺は神様設定だったな。


 (あなたの様な、初期から理性があり意思疎通が可能で、服を着ている様な生まれ方は通常ありえません)

 なるほど。

 だからおかしいってことか?


 (そうです。原因は不明です)

 まぁ夢の設定だからな。

 (・・・それと、あなたは名前がある様ですが事実ですか?)

 ああ、ある。

 森音っていう名前だ。

 (それも変です。名前を持って生まれるなんてありえません)

 (モリオトーで名前を登録します)


 登録?

 (はい。モリオトー様の名前や年齢、能力などを記し登録します)


 能力?

 (はい。神になったものにはそれぞれ固有能力が付随します)

 (モリオトー様の能力は「真似」です)


 真似?

 (はい。スキルを持つ相手と闘い勝利すれば、相手のスキルを真似することが出来る能力です)

 (現在、勝利した相手から真似た水司と剣神のスキルが使用可能です)


 ・・・うーん。

 また立ち止まってしまう。


 何か一気に夢の色が変わってしまった気がした。

 登録?真似の能力?水司と剣神のスキル?

 TVゲームの様な感じがするなぁ。現代人の俺の夢といえば夢らしいか。


 ということは俺が神様で、神様としての能力で手に入れたスキルが備わってるってことでいいのか?

 (はい。そうです)


 でも、それはそれで色々おかしいよな。

 まず俺誰にも勝ってない、むしろ負けたし。

 (いえ、1名の神と1名の式神相手に勝利しています)


 意味分からないけど、まぁいいや。

 夢の中の矛盾点なんて指摘しだしたらキリないし必要も無いよな。

 再び走りだす。


 時間が無いんだけど、その能力やスキルを使えば俺は強くなれるか?

 (はい、スキルを使用すればスキルの能力分強くなれます)


 俺が使用可能な、そのスキルを説明してくれ

 (はい)

 (水司は水を司るスキルで、水攻撃無効や水中呼吸が可能。火耐性も大幅に上昇します)

 (剣神は剣術のスキルで、剣や刀の武器を使用する技術が大幅に上昇します)


 おお。

 やっぱり何かのゲームみたいな感じだけど、なんとなく強そうだな。

 これが夢の中での主人公補正だな。

 逆転勝ちへの足掛かりで間違いないだろう。


 そのスキルはどうやって使うんだ?

 (ステータステーブルを使用しスキルを装着します)

 (テーブルの基本部分は目視出来る神同士なら誰でも閲覧可能です)

 (ステータステーブルは、頭の中でイメージすると自然と浮き上がってきます)

 (モリオトー様は現在イメージ出来ていない様なので、標準的なテーブルイメージを伝達します)


 ブォンと音がした後、自分の前にTV画面の様なモノが浮き上がる。

 今は山頂を目指しているので走りながらだが、一定の見やすい距離に浮き上がっている。

 そこには名前や年齢、固有能力等が書き記されていて、その下にスキル欄がある。

 スキル欄には薄い字で剣神、水司の文字がある。


 (テーブルは確認できましたね。では、スキル装着の説明をします)

 (スキル欄ににあるのはスキル名です)

 (スキルを使用するにはスキル使用許可を与える必要があります)


 (同時に使用できるスキルの種類や数には限度があり、その限度は各々違います)

 (薄い字の2つのスキルに使用許可を出してみましょう)


 と言われたので、何となく使用許可のイメージをしてみる。

 すると、スキル欄に水司と剣神レベル1という文字が白く発色した。


 これでスキルの使用が可能になったってことだな?

 (はい、そうです)

 あと、さっきまで見えなかったが、剣神レベル1?

 (スキルの中には剣神の様なレベル制スキルもあります。レベルが上がれば比例して強くなります)

 意外と凝った作りになってるんだな。


 よし。問題無くスキルも装着出来たみたいだし、これで勝てるか?

 (何に対してですか?)

 グレムスっていう神に勝ちたいんだ

 (グレムス様ですか。勝てるかどうかは答えられません)

 じゃあ勝ち方を教えてくれ

 (答えられません)


 なぜか答えてくれなくなったので、思わず立ち止まる。

 さっきまで質問に答えてくれてたのに、何で急に何も教えてくれなくなったんだ?

 俺の夢の強化補正能力なんだろ、お前は。


 (私の自己紹介がまだでしたね。私はとある神の能力)

 (この世界全ての神を監視、助言する能力そのものなのです)


 (名前はヘレネ)

 (神の能力ですが自我があり、八百万居るという全ての神に対して同時に様々な助言や情報提供が可能です)

 (そして、質問の回答になりますが、私は特定の神に対して肩入れ等は出来ません)

 (全ての神に対して公平な存在として居る様設定されています)

 (なので、対神の戦闘方法等の助言を行うことは出来ません)


 なるほど。三度走りだす。

 俺みたいに新しく生まれた神等にアドバイスしたり、秩序に乱れが無いか監視してる訳だな。

 (平たく言えばそういうことですね)

 (ちなみに、モリオトー様は曖昧模糊たる存在ですので警戒レベル4に相当します)


 何だそれ?

 うーん、色々聞きたいことだらけなんだけど、とりあえず俺が今走ってるの分かる?

 (勿論、理解しています)

 とにかく、今は時間が無いんだよね

 (はい。それも理解しています)


 (私と相互リンクしたのは先程ですが、私の方にはモリオトー様の情報は逐一流れていましたから)

 (ですから、できるだけ行動の妨げにならないよう、とりあえず簡潔に説明していました)

 ああ、そうなんだ。それで自己紹介も省いてたのか。

 要領良いね。ありがとう。


 あと聞きたいんだけど、スキル装着しても特に何も変わらないんだよな。

 これ本当に使えるようになってるのか?

 (はい。スキル装着済みなのは確認出来ています。あとはスキルに合った行動を取ればいいだけです)


 どうすればいいんだ?

 (水司のスキルですが、全身をよく確認してみてください)

 (薄い水の膜で覆われているはずです。それが水の加護です)

 (そのスキルは攻撃的な力はありませんが、防御面等で、水に関する様々な加護を受けることが出来ます)


 確かに解説通りの薄い水の膜が見える。


 (剣神のスキルですが、剣や刀の武器を持つのをきっかけに以降効力が発揮します)

 (今、その刀の鞘を持っていますが、柄を持ってみてください)


 と言われたので、柄を持ってみる。

 えっ?っ?!!!

 うおおおおおおおおおお!!!!


 柄を持ってからの数秒で、刀に関しての使い方や戦い方の凄まじい情報量が頭の中に流れ込んでくる。

 思わず立ち止まる。

 何だこれ、信じられない。


 一瞬にして数十年も修業した刀を使う達人の領域に踏み込めた気がする。

 しかも、無機物だと思ってた刀に意思の様な魂というか、感情があるのも初めて知った。

 持っただけで刀が自身の名前を小支こしだと教えてくれた。

 しかも、グレムスに対して一矢報いたいと思っている意思まで明確に伝わってくる。

 お前もかよ。


 一通り確認できたところで、四度走り出す。

 

 (それが剣神のスキルです)

 なるほど。このスキルはとてつもなく凄いな。

 刀と一心同体になった気がする。

 凄いぞ俺の夢補正。ありがとう俺の夢。


 これで絶対勝てるわ。


 夜空に映る星と満月の月明かりで、目的地である山頂がぼんやり見えてきた。

 噴火は収まっているようで、噴煙も無い。

 山頂が近くなると背の高い木々が無くなり、星の数も多くなった気がする。

 目も体も慣れてきたな。


 俺は刀を強く握り、剣神スキルで知った体の使い方を体現し、走る速度を1段早めた。

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