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DARK WORLD  作者: 西本 拓人
3/5

撃と滅

強く打ち付けた頭と腰をさすりながら上半身だけ起こして、建は周囲を確認した。

ため息を吐いた後に出た第一声は

「今度は…雷鳴轟く異世界か…」

眼前に見えるのは無限に広がる荒野に数列できた…天から降り続ける無数の雷の雨を受け、避雷針の役割を果たす黒い石の群れ。

幻想的と思うよりも先に次の展開の方に目がいくので、こう言う風景を見ても面倒臭いとしか思えない。

「さて…今度はどんな怪物が出てくるんでしょうね…はあ…」

彼は大剣を突いて立ち上がると、歩き出した。

鉄が焼け焦げたような臭いが鼻をつく。

足下はあちこち荒れてはいるが平地なのでよっぽどのことがなければ死ぬようなことはないだろう。

空を見上げれば、一番目の扉の世界よりも黒い雲で覆われていて、当然太陽光なんて射し込むことはない。

そして、永遠と歩き続けていると今迄に見てきた避雷針よりも巨大な…彫られているのは英文だろうか?…だとするのならば、石碑があった。

「なんだこれ?」

彼はそれを訝しみながらも手で触れてみた。

瞬間、

「なっ…⁉︎」

天罰にも等しいほどの雷撃がその石碑に落ち、雷鳴と轟音、そして破砕音と共に莫大な閃光を迸らせながら爆発し、建はその時に生じた爆風によって50mほど吹き飛ばされ、頭から地面に落下した。

「ぐ…あ…」

ズキズキと痛む頭を抑えながら、石碑に視線を送る。

すると…バチバチと弾ける稲妻をその身に纏い、百獣の王によく似た獣がその先にいた。

「次は…雷獣か。…もう驚きはしねえぞこの野郎」

彼はもう何度目か分からないため息を吐き、ゆっくりと立ち上がって、大剣を構え、雷獣を睨みつけた。

「があああああああああっ‼︎」

「行くぜ…雷獣!」

そして、雷獣の咆哮を合図に彼は地を大きく蹴って前に飛び出した。

高速で近づく建に気づいたのか雷獣は彼に特大の雷撃を喰らわせようと複数の避雷針から雷を吸収し始めた。

彼は

「させるかよっ!」

即座に足を止めると大剣の切っ先を雷獣の脳天に定め、

「喰らえ…ヘイル・バレット!」

拳大の雹の弾丸を撃ち出した。

その雹の弾丸は身の回りにある空気を次々と纏い、超高速で回転しながら雷獣の脳天へと…行かず、雷獣自体が消えていた。

何故?

理由は至極簡単だ。

高速と言えど所詮は自動車の最高速度であり、それが光の速さと同等だろうか。

答えは…否だ。

雷獣はそう、雷を纏い、筋肉を刺激し、光速で回避したのだろう。

では、その雷獣は今、何処にいるのだろうか?

バチィッ!

「っ⁉︎」

心臓に悪い火花が弾ける音が背後から聞こえ、…振り返るとその場におらず、その後は上空、右上、左、背後…と連続的に電気の残滓を残しながら光速移動する雷獣に彼は翻弄され続けた。

「クソ…舐めやがって!」

建は空中に飛び上がると、一瞬見えた雷獣の胴体めがけて雹の弾丸を撃ったが、撃ち抜くことなく地面を抉り、無駄弾を撃つことになった。

「ちくしょう!…次は何処に…グアッ⁉︎」

焦りが凶となったか、建は雷撃をその身に喰らい、回転きりもみジャンプをするかのように高速回転しながら、地面に落下した。

「ぐ…あああっ…うぐっ…」

言葉にしようにも声に出るのは呻きだけ。

全身に激痛が走り、思うように身体が動かせない。

雷獣がゆっくりと近づいて来る。

「っ…」

今になって全身がガタガタと震えていることに気づいた。

情けない…とは思えない。

むしろ仕方がないと思う。

力があるとは言え、たった一回の戦歴だけで光速で移動し続ける怪物なんかに勝てるわけがない。

一度目の敵をなんとか倒せたのは…ほとんど、奇跡が起こしたようなものだ。

そして、その奇跡がもう一度起きることは…ありえない。

死が近づいて来る。

足音と共に、雷鳴と共に。

ーー俺は…死ぬのか?

雷獣の荒々しい息遣いがもう聞こえる距離になった。

ーー火龍を倒せたのは…あれはまぐれだったのか?…それだったら笑えないな…。

彼は自嘲する。

そして雷獣は…彼を殺すべく、その鉤爪を振り上げた。

高電圧の電流がその鉤爪に集まっていく。

ーー俺は…俺は…

…直後、その「死」が振り下ろされた。

彼は硬く目を瞑る。

全身が恐怖で硬直するのが感覚でわかる。

彼は…このまま死を受け入れるのか?


その刹那、


『いんや〜、まだ頑張って貰わないとね』


あの少年の声が聴こえたような気がした。


-----あんの……野郎…


彼は小さく笑い、大剣の柄を握り直すと…



「ヘイル…インパクトッ‼︎」


宝石の輝きと共に莫大な衝撃波が刀身から発せられ、…そして、…絶対零度の冷気を一身に浴びた雷獣は完全に凍りつき、2度と動かなくなった。

建は大剣を振り上げた態勢のまま、荒い息を吐き、

「勝っ……た…」

気を失った。


扉の中に入って二時間以上経っても一向に帰ってこない建に対して、シェイドは

「うーん…おっそいな〜」

とイライラしていた。

「早く帰って来いよ〜、次もあるってのにさ」

こう言われると建の善戦も浮かばれないのだが…そんなことは露知らず、少年は続ける。

「全く…二種類の属性持ってんだから、うまく使えれば数分かからず雷獣なんざ倒せるだろうに…」

とある程度、二番目の扉の世界で気絶している建に向かって愚痴り終えると、はあ…とため息を吐き、

「仕方がないから…迎えに行ってやるか…」

と扉を開いて、雷獣の世界へと降りて行った。


二番目の世界


「ふーん…雷がもう降ってないじゃん…ってことは…おっ!…いたいた」

見渡してみると雷の雨は降っておらず、歩き続けていると、シェイドは地面に突っ伏している建を見つけた。

彼の傍に近づき、

「おーい君、起きろ。…僕が来てやったぞ?…ほらって」

ペチペチと頬を叩きながら、声をかけてやるが全く起きる気配がない。

「あー…面倒くっさ。…よいしょっ…と」

自分より一回りも二回りも大きい建を背負い、

「あーあ、おっも…」

憎まれ口を叩きながらも、内心では賞賛してる自分に…全く丸くなったな…と苦笑しつつ、扉を出現させ、…その扉を開き、塔の中へと戻って行った。


「おーい…いい加減起きろって」

…暗闇の中に人の声が聞こえる。

少女なのか少年なのか検討もつかないほどまだあどけなさのある声。…しかし、ちょっと「棘」があるのは気のせいだろうか?

「ん…う…」

建はその声に促されつつ、目覚めると…

「うわっ!…シェイド」

視界いっぱいにシェイドの顔があった。

「おいおい、そんなに驚くなよ」

「顔が近くにあったら誰でも驚くだろ!」

そう呆れる少年に彼は反論するが、

「あははっ!…そう?」

「あははっ…ってお前…」

笑われてしまった。

建は肩を落としたが、「ところで」と話題を変えて、ディティールの凝った階層を見渡し、

「ここ…塔の中?」

「うん、僕が君をここに返したんだよ。…いや〜、しっかし、気を失ってるとはね」

「悪りい…恩に切る」

シェイドはケラケラと笑っているが、建は自分と彼の体型を交互に見て、大層重かっただろうなと心から彼に感謝した。

その建にあくまでも謙遜するシェイド。

「ははっ…いいよいいよ。…あ、そうだ。…雷獣戦きつかったよね?」

「ん?…ああ。…速すぎて目が追いつかなかった」

その彼の言葉に若干罰が悪そうな顔しつつもシェイドは謝罪した。

「先に謝っとく、ごめん」

「え?…どう言うこと…?」

建の頭の中は今、絶賛はてなマークだ。

その彼にシェイドは

「そのブーツ…手で軽く触れて『ブースト』って発声してみて…」

と促した。

建は訝しみながらも言葉に従い、その内容通りにブーツに左手で軽く触り、

「ブースト…」

と発声してみた。

すると…

「うわっ⁉︎…光った!」

蒼白い…まるで電流のようなものが何度もそのブーツから発生し、…それが消えることなく迸り続けている。

シェイドは表情を暗くして、本当に申し訳なさそうに言った。

「それは速力を上げる、名前通り『ブースト』っていうシステムさ。…そのブーツが光ってる間だけ回避力、速攻性それらが急激に上がる仕組みだよ」

「な⁉︎…そんなんがあるんなら、あれに本当に速攻で勝てたじゃん!」

「だから、ごめんって言ってるだろ!…本当は…そんなチート、五番目の扉の世界から使って欲しかったんだけど…二番目の魔獣でボコボコにされるとは思わなかったんで…」

「おま…直球で…」

正論を言われ、肩を落とす建にシェイドは

「うん。もうそれ使っていいから、練習も兼ねて三番目の世界に行こうか」

とその彼の肩にポンと手を置いて言った。

「え?…練習?」

「うん、ブーストは慣れてないと高速移動過ぎて着地点や魔獣を視認して斬りつけることもできないからさ」

「……………マジで?」

「うん、大マジ」

ポカンとする彼に対し、ニヤリと笑うシェイドはやはり、建にとっては…「悪魔」にしか見えなかった。

「ははっ…今回は監督として付いて行ってあげるよ。…ほら」

「…分かった」

と笑いながら差しのばしてきたシェイドの手を渋々、彼は取り、…二人は濃い緑の扉を開くと、その中へ降りて行った。


三番目の扉の世界はなんとも言えない、美しい森林だった。

空を見上げれば「青空」で、林道はさも人の手が加えられているかのように綺麗に整備されている。

そのことについては『闇の番人』であるシェイドによると「自然の力だけ」というので驚きである。

森林の中を歩き続けていると奥地だろうか…何やら苔生した巨石が行く手を阻めていた。

彼はシェイドに確認するため、声をかけようと視線をシェイドに向けると、…少年は何やら真剣な眼差しで一心にあの巨石を見ていた。

建は当然疑問に思い、聞こうとすると、その前に少年が低い声で忠告した。

「……来るぞ。…念のためブーストしといて」

「わ…分かった」

何が来るのかは知らないが何故かその忠告には「緊張感」があったので、彼は頷き、手でブーツに触れ、

「ブースト」

と発声した。

刹那、ブーツから蒼白い閃光が迸ると共に「眼前にあった巨石が派手に爆砕」し、白い煙が立ち籠めた。

すると、一分とかからず

「上に跳べ!…早く!」

シェイドの声が聞こえ、その声に従って跳躍した。

空中に飛び上がるのには桁違いの圧力が頭から押し寄せるが、煙を抜けると、すぐ傍にシェイドがいた。

そのシェイドが

「下を見てみろ」

と言ったので、見てみると

「なん…だ…。…あれ…」

煙から覗く、数多の木でできた触手が蠢き、それらが森林をなぎ倒しては吸収を繰り返し、肥大化し続けている光景が視界に入った。

シェイドは

「あれは…三番目の魔獣、ドリュアス。…元々の起源はある木の妖精の名から…らしいが、そんなものにはどっから見ても似つかない…醜悪な化物だよ」

と汚物でも見るかのように眉を顰めながら、解説し、「本当に見るに堪えないよ…」と付け加えた。

建は…その未だ触手しか見えない魔獣を見て、

「……三番目の魔獣…か。…あれが…」

言いつつ、大剣の柄を握りしめる手に一層、力を込めた。

ミシミシと軋む音など気にせずに。

シェイドはそれを見て、

「滞空時間は短い、氷の足場創りながら一気に接近して乱斬りしろ。…核は…煙の中だが、その中でも視認できるほどの大きさだから大丈夫。…行ってこい」

と笑った。

建はシェイドに微笑み返すと、

「よっしゃ、行くぜ!」

大剣を一度大きく振って、頭上に氷塊を造り出すと、バク転する要領で一気に蹴り上げ、ブーストされた脚力を頼りに頭から煙の中に突っ込んだ。

途中、木製の触手が幾度か彼を襲ったが、その音速に近い速さで急降下する彼に触手は追いつくことができなかった。

そして、彼は視界が濁っていて地面が見えないためほぼ勘だけで距離を測り、大剣を突き立て、着地した。

「ふう…さて…」

直後、彼は大剣を引き抜いて、薄いながらも大きな影が視認できたので、それに向かい走ると、彼が接近して来ているのに気付いたのか無数の触手が襲いかかってきた。

彼はそれらを無造作に振り抜いた一閃のみで斬り捨て、お返しと言わんばかりに

「ヘイル・バレット!」

雹で出来た弾丸を放った。

その弾丸は真っ直ぐに直進し、標的である大きな影にぶつかり、…その衝撃で影が大きくよろめいた。

それを確認すると

「よっしゃ!」

手をグッと握り締めた。

そして、…

「さっさと決めるぜ…っおら!」

ブーストをかけた疾走は…もう音速を軽く超えてしまい、宙を飛びながら爆走して

「ヘイル…インパクトォオオオおおおおおおおおおおおおっ‼︎」

急接近した影に向かい、大剣で斬りつけ、手応えを感じるとともに振り抜く…煙を抜けると遥か後方で派手に爆砕する音が轟いた。

それを上空から眺めていたシェイドは

「ひゅう…やるね、あいつ」

とニヤリと笑みを浮かべ、そう賞賛した。

と…、空が急に雲に覆われ、「暗く」なった。

少年はそれを見て、

「っ⁉︎…嘘だろ?…あり得ない…」

と驚愕し、冷や汗が額をつたうが建に「塔へ帰還するよう」伝えるため、降下した。

その間に雨がポツポツと降って来ていて徐々にその降水量も増えている。

「くそっ⁉︎……あ、おい!…早く塔に戻るぞ!」

シェイドは彼の目の前に降り立つと、そう言って、扉を出現させた。

建は彼が憔悴している意味が分からず、聞いたが、

「お、おい…どうしたんだよ、シェイド。…いくらなんでも、焦りすぎじゃ…」

「文句は後で聞く!…開け!」

と怒鳴られ、シェイドは建の手を掴むと扉を開き、塔へと戻った。


塔の中に戻ると…酷い有り様だった。

一階にあった鈍色に輝く両扉は今では影も形もなく、粉々に粉砕され、暗く淀んだ世界が垣間見れ、塔の中の装飾品は…その美しさを失い、ボロボロになっていた。

そして、…床に描かれているべき魔法陣が消失していた。

それらを呆然と立ち尽くして眺めるシェイドは、…絶望に浸った表情で膝から崩れ落ち、地面に手をつくと、

「あ…あはは…」

「ど…どうしたんだ、シェイド」

「あははははははははははははは‼︎」

涙を流し、狂ったように笑い出した。

「お、おい…!…シェイド!…どうしたんだよ、おい!」

建が声をかけ、肩を揺らしてもその虚ろな目でどこを見てるのか…笑いを止めることはなかった。

そして…狂笑し続けている少年と建を前にある光景が映し出された。

それはーーーー


「嘘…だろ…?」

建の目が驚愕に見開かれる。


そう、「それ」は破滅した現実世界の風景だった。

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