廊下
講堂を出たロジーナは、廊下を売店の方に向かって歩き出した。
「ロジーナ」
穏やかな声に呼び止められ、ロジーナは息をのむ。
胸の前に持っていた筒を両手でぎゅとにぎりしめ、ゆっくりと振り返った。
「師匠……」
優しい眼差しに吸い込まれそうになる。
「元気そうだな」
クレメンスは目を細め、ロジーナに微笑みかける。
「はい」
胸がいっぱいで、ロジーナの声は声にならなかった。
「おめでとう」
クレメンスは真っ直ぐにロジーナを見つめて言った。
「ありがとうございます。これもみんな師匠のお蔭です」
ロジーナは瞳を潤ませながら頭を下げる。
クレメンスは「フッ」と笑った。
「私は何もしていない。お前の努力が実を結んだのだ。よく頑張ったな」
「師匠……」
顔を上げたロジーナに、クレメンスはにっこりと笑いかけ、真剣な眼差しをむける。
「よくぞここまで来たな。ここからが本番だ。精進しなさい」
「はい」
コクリと頷くロジーナに目で頷き、クレメンスはくるりと向きを変え、廊下の奥へと消えていった。
ロジーナは両手で筒を握りしめながら、クレメンスの後ろ姿を見送った。
見えなくなっても、しばらくそのまま動けなかった。
ロジーナは喘ぐように切ない息をつく。
こみ上げてくる想いをギュッと抑えつけ、大きく深呼吸すると、方向転換し、売店に向かって歩き出した。