控室
魔術師協会の幹部たちは少し早めに本部の控え室に集まり、ソファーに座り、和やかに談笑していた。
皆、師範魔術師の正服姿だった。
「おはよぉ」
ニコラスが大きなあくびをしながら入ってきた。
さすがのニコラスも今日は正服に身を包み、まるで別人のように髪もきちっとセットしていた。
「朝からご苦労だねぇ~」
そう言いながら、ズカズカと部屋の奥へと進み、クレメンスの前に立つ。
「クレちゃん。おめでとう~。愛弟子が師範になって嬉しいでしょ」
ニコラスは抱きつくようにクレメンスの膝の上に腰掛け、頬がくっつきそうなくらい顔を近づけた。
「ありがとう」
クレメンスは顔を正面に固定したまま答えた。
「ところで、ニコ。一つ尋ねたいことがあるのだが」
ニコラスの顔をチラリとみる。
「なぁに?」
ニコラスはクレメンスの耳元に口を寄せて言った。
「お前はなぜ私の上に座っているのだ?」
クレメンスは静かな声で尋ねる。
「オイラの座るとこがないからさ」
ニコラスはクレメンスの顔を至近距離で覗きこむ。
「向こうの席が空いているぞ」
クレメンスが空いている方へ視線を動かす。
「ヤダよ。オイラ、こっちがいいの。ディミトリアス先生の顔がコワいんだもーん」
向こう側に座っているディミトリアスがジロリとニコラスをみる。
「ほらぁ~。コワいでしょ~。きゃー」
ニコラスはディミトリアスを指さし、両足をバタつかせながらクレメンスに寄りかかる。
ディミトリアスが目をすがめた。
部屋の空気が凍りつく。
凍てつく空気を突き破るかのように、クレメンスの隣に座っていたフランクがスッと立ち上がった。
「わるいねぇ」
ニコラスは悪びれる様子もなく、フランクの座っていた場所に移動する。
「惜しいなぁ。もうちょっと早ければ満点をあげたのに」
フランクの顔を下から見上げ、ニコラスはニタァと笑った。
フランクは、一瞬眉をピクリとさせたが、すぐに口元を緩める。
「ご指導ありがとうございます」
微笑みながら、ニコラスにうやうやしく頭を下げた。
ニコラスのニタニタ笑いが固まる。
「フフフフフ」
クレメンスが笑い出した。
ニコラスは眉を下げてあからさまに残念そうな顔をした。
その表情に、他の幹部たちも笑い出す。
「つまんなーい。フランク先生、クレちゃん化したらダメだよぉ。かわいいフランク先生を返せ~」
ニコラスはのけぞって足をバタつかせる。
室内は笑いに包まれた。