自宅
<登場人物>
ロジーナ・・・師範魔術師。世界でも1,2を争う魔力の持ち主。
クレメンス・・・師範魔術師。魔術師協会の会長。ロジーナの師匠。
フランク・・・師範魔術師。魔術師協会幹部。クレメンスの部下。
ニコラス・・・師範魔術師。魔術師協会幹部。クレメンスと並ぶ使い手。
ディミトリアス・・・師範魔術師。魔術師協会の最長老。魔術師協会幹部。
カルロス・・・師範魔術師。クレメンスの弟子。
タチアナ・・・上級魔術師。魔術師協会事務局のお局様。
コーネリア・・・上級魔術師。魔術師協会事務局勤務。ロジーナの友人。
身支度を整えたロジーナは鏡台の前に座った。
いつもは、後ろでひっつめにしているか、無造作におろしている髪を、今日は綺麗に結い上げていた。
手鏡を持ち、合わせ鏡のようにして、髪が崩れていないか確認し、撫でつける。
朝から悪戦苦闘した甲斐があって、なかなかの出来栄えだった。
ロジーナは満足して微笑むと、手鏡を置き、もう一度正面を見た。
鏡の中には、薄化粧を施し、髪をきっちりと結いあげ、師範魔術師の正装に身を包んだ、いつもと違う自分がいる。
ちょっぴりお洒落した自分は、少しばかり大人びて見えた。
クレメンスは綺麗だと思ってくれるだろうか。
ロジーナはふとそう思ったが、慌てて首を横にブンブンと振る。
一体何を考えているのだろうか。
今日は認定式だ。
そんな浮ついたことを考えている場合じゃない。
こんなことを考えていたと知られたら、きっと軽蔑されてしまうに違いない。
情けない。
ロジーナは鏡の中の自分を睨みつけた。
不意に髪型が気になった。
そもそも髪を結い上げる必要があったのだろうか。
いつもと同じ髪型でもかまわないのだ。
自分は何に期待して、こんな凝った髪型にしたのだろうか。
認定式にわざわざこんな髪型で行く必要などないはずなのに……。
ロジーナは急にはずかしくなった。
右手を頭の後ろに回し、髪の中のコームを一気に引き抜く。
豊かな黒髪がパサリと肩にかかった。
ロジーナは鏡台の上にあったブラシをとると、うつむきながら乱暴に髪の毛をとかし、いつものように後ろで一つに束ねる。
そして、肩を軽く払いながら時計に目をやる。
予定の時刻を過ぎていた。
慌てて立ち上がり、バッグに手を伸ばしたが、ふと動きを止めた。
「そうよ。何も早く行く事はないのよ」
ロジーナはそうつぶやくと、再び腰を下ろした。