5錠目 神獣の独白
長らくお待たせしましたぁああm(T□T)m!
今回視点が変わります。
ああ、茶框は書くならこういうタイプが書きやすい。
あ、ちびちゃんの血の匂い。まーたちびちゃんはどこかで血を吐いちゃったかー。
ここ最近吐血の回数が見るからに増えたねー。そのうち貧血とかで倒れちゃうんじゃないかな。
最悪、出血多量で死んじゃうかもね。
「ま、そんなこと僕が絶対にさせないけど」
昔から変わらない胃の弱さのちびちゃんに僕は呆れながら今日も笑う。
『やっほー、初めまして僕は今日から君の主治医になるお兄さんだよー』
『せんせー、はじめまして』
僕とちびちゃんが出会ったのは、まだちびちゃんが10にも満たない頃だったなー。当時から何かと胃が弱かったちびちゃん。
ご家族の人曰く、あまり薬が効かない体質らしい、と当時聞いていた。
神獣であった僕はその頃、ちょーど神界に居るも飽きたし人間界に行く気すらなかったから魔界に居たんだよねー。
僕自身、薬になるからね、不本意だけど薬に関してはそこら辺に居る仙人よりも詳しかったから魔界で薬剤師みたいなことをしてた。
薬を作っては売る、たまに人間に襲われかけて腹いせに材料にする。そんな毎日でたまたま、ちびちゃんのお父さんに会ってちびちゃんと出会った。
初めて会った日は驚いたよー。なんせ自己紹介した途端に真顔で血を吐いたからね。アレはさすがの僕も引いた。目の前で幼子が、しかも女の子が真顔で血を吐くってないよ?フツーはあり得ないから。
鼻血ならまだしも吐血って…ねぇ。プラス血吐きながら苦笑いだよ?マッドサイエンティストと悪名高い僕でもあれは血の気が引いたね。
そこからはごそーぞーどおり、急遽作った薬を飲ませてみるとあらビックリー。
なんか僕の薬だけ受け付けることが分かったちびちゃんに、僕が彼女専門の主治医になって、薬を過剰摂取しすぎないように、それから薬を頼りすぎないようさせたんだよね。
幼い頃から薬に頼りすぎたら大人になった頃に痛い目をみるし。
ま、僕が新作と言っては胃にはノーダメージの怪しい色をした薬を大量に飲ませてきた結果、薬に頼りきることない。
胃薬=(イコール)安全。他の薬=(イコール)危険って幼いながらに理解したらしい。
その考えは現在も健在で薬に余り頼らないようにちびちゃんなりに気を付けてるっぽい。うんうん、ちびちゃん偉いなー。今度誉めてあげないとねー。
そんな長い付き合いのちびちゃんがついこの間、見合い話が来たらしい。
「…しかも相手はあのタイチョー君ときた」
タイチョー君はこの魔界においても魔王城においてもかなり有名だ。
彼はまだ若いながらも吸血鬼の若頭として腕がたち、そしてこの城に住む魔王サマ直属の部隊の隊長を務めるという手腕と実力の持ち主。
それでいて容姿端麗。
うーん、むかつくねー。なにそれ、嫌みったらしいたらありゃしないねー。
もう魔界全土の無能ブサメン君達に前後真横真下の全方位から刺されちゃえばいーんだ。
気に食わない。気に食わないね。
ホーント、気に食わない。……なんでちびちゃんなのかな。ちびちゃんは他種でそのうえ位ではなく級に属する中級悪魔のディアボロスだ。そしてちびちゃんの22歳も年下ときた。
種族も身分も年も違う、見た目はちびちゃん自身は卑下してるけどそれなりにカワイイ容姿をしてるけど一部残念。そんなちびちゃんの良さに気付いたことは誉めてあげなくもない、……だけどね。
「所詮、吸血鬼としてちびちゃんの血の匂いに惹き寄せられた獣の癖に」
嗚呼、ホンットに気に食わない。血の匂いに惹き寄せられた獣の癖に何ちびちゃんなんかに本気になっちゃってんのかなー?
今までどんなに綺麗な吸血鬼の女や他種族の女の子に言い寄られても興味すら持たず、挙げ句“男色”と噂されていた奴が。
「ふふふ、嫌だなー。アイツ目障りだなー」
さっき僕お手製の胃薬を貰いに来たちびちゃんからふわっと匂った嗅ぎ馴れない、不愉快な匂い。
ちびちゃんはいつも庭で育てている花の微かな香りを身に纏っている、だけど、あの不愉快な匂い。あれは確かめなくともタイチョー君の匂いだろうね。
タイチョー君の匂いを微量ながらに纏わせている、ということは…長い時間近くにいたか…、もしくは抱きしめられていた…か。
「嗚呼、目障り。目障りだ。本当に殺してやりたいくらいに、ううん殺したいくらいに目障りだなー」
確か吸血鬼って牙とか爪とか骨が武器に加工出来たんだよねー。
ああ、あと吸血鬼って目の色が特徴的で色が濃ければ濃い程にコレクションとしてコレクターに高く売れるんだっけ。
あっ、良いこと思い付いちゃったー!
タイチョー君が調子乗りすぎてきたら容赦なく殺っちゃって、それで歯をぜーんぶ引っこ抜いてー、爪も剥いで、そーだね背骨かな?うん背骨を体から引っ張り出してそれを使って無様な装飾品を作ってやろーっと。
「ふふ、ふふふふ!あー、ヤバイかも、考えただけでも楽しみ過ぎてヤバイなー。どれくらいヤバイって聞かれたら人間を500人くらい無差別に殺せるくらいヤバイなー。もういっそのことタイチョー君、今日のうちに苦しませずに殺っちゃおうか」
でも僕はまだちゃーんとタイチョー君と会ったことがないんだよねー。
どーせ殺っちゃうんなら僕とちびちゃんとの仲を見せつけて絶望させてみたいな。見せつけるだけで絶望するとは思わないから、目の前でちびちゃんといろいろヤっちゃうのも良いねー。
「あははー、ネェ…君はどー思うかなぁタイチョー君?」
チラリと視界の端に映った殺したいくらいに目障りで不愉快な存在に僕は言う。
「ちびちゃんはお前なんかにあげないよ。僕はあの子が小さい頃から知っている。知っているからこそ手放しがたい存在なんだから」
神界でも下界でも薬になるからと、常識を持たぬ者に大人も女子供関係なく乱獲され数が少なくなった一角獣。
それは幾千年と刻が過ぎようが変わることがない非常識で常識。
魔界ではそう狙われることは減ったけどそれは減っただけであり無くなりはしなかった。
『せっ、センセイにひどいことしないでください』
…あれはいつのことだったっけ。ちびちゃんがまだ小さいとき、わざわざ魔界に魔王サマを倒しに来たっていう何十代前かの勇者一行が僕を見つけるなり武器を向けてきたことがあったんだよね。
あー…しんど。そう思いながら無視してたらちょうど僕のところに薬を貰いに来たちびちゃんがその場に居合わせたんだ。勇者一行は偶然現れた悪魔の子に驚き、勢い余って魔法をちびちゃんに向けて発動させた。
あ、いけない。
そう思った瞬間ちびちゃんに放たれた魔法は、不思議なことにちびちゃんに当たることなく消失した。……そういえば、ディアボロスの特徴で角以外に魔法とか呪詛の無効化っていうことを聞いたことがあったね。
故に、ディアボロスの種族の人達は魔法を一切使うことが出来ない、とも。
悪魔と言えど、まだ子供。だからその子供に特徴とは言え力任せに放った魔法を消された勇者一行は顔を強張らせた。
ちびちゃんなりにその状況を幼く拙い知識で理解したらしく、そして言ったセリフが『せっ、センセイにひどいことしないでください』。
で、そのあとのおおまかな説明だけど、ちびちゃんのセリフに気を取られていたソイツ等をちびちゃんに免じて生かしたまま魔界から地獄に追い出した。
気分的に殺して実験体にしてやろーかなー、とか考えてたけどちびちゃんが居たしね。ちびちゃんにはそういうの見せたくも見られたくもなかったからそれで終わらせた。
『地獄で精々生き延びなよー?』って笑顔で見送ってあげた。
んー、僕って優しい。
たぶん、この時からかな。僕がちびちゃんを特別に感じ始めたのは。
今まであの子がしたみたいに心配されたことがなかった僕は、あの子が幼いその身体で、武器を持つ者に対してあんなことを言ってくれて(涙目でだったけど)。
何百も年下の女の子に、何を…だなんてとも思ったけどそれでも徐々に徐々に心の中に広がる想いは止められなかった。
昔、数少ない本音を語れる知り合いの、とある馬鹿な神が言っていた。
『何事も、核心に気付いてしまったらもうオシマイなんだよ』
うん、確かにそうだね。あの時は意味不明だったけど、その言葉今となってはよく分かる気がするよ。
僕は、依存してしまうくらいにちびちゃんが好きで。
僕は、殺したいくらいにタイチョー君が憎いってこと。
“核心に気付いてしまったらもうオシマイ。”
ネエ、そう言った馬鹿な神もこんな気持ちになったのかな?
もしかしたらちびちゃんは僕じゃない誰かの物になるかもしれないって今更ながらに気付いても。
ちびちゃんに気持ちを告げることなく過ごすのかと気付いても。
でもね、
「ちーびちゃん、まーた血を吐いちゃったの?」
それでも僕はちびちゃんの日常の片隅に、記憶の片隅に居られ続けるなら良いと思いながらも、その先を望む僕は諦め悪いただの馬鹿で。
「……主治医、」
「もー、まったく」
本人に直接「好きだよ」って伝えられないただの臆病者。
……嗚呼、ホント、タイチョー君を殺したい程に目障りで憎くて、羨ましい。