ミサイルとアストン
魔導弾。
言わずもがな魔術だ。ミスリルに限界まで魔力を注入した魔法陣を設置したもので、大体10000発~15000発あたりで交換する消耗品だ。前方四十五度円錐の中の最前物を狙う。……が、急旋回でかわせるレベルだ。更に、一番手前のものを狙う。このせいで二機で協力して戦う、と言うのができない。更に乱戦に入ったら味方に当たるだろう代物だ。大丈夫か?この世界。
こんなものでも正式採用になっているのは主な任務が牽制のしあいだからだ。相手が見えたところで発射、相手が離脱したら空域を占拠。と言うわけである。実際に格闘戦に投入された例は無い。
……と、言うわけで。ミサイルと機銃を作ろう。
……熱が下がったら作ろう。
ただいま絶賛寝込み中。流行り風邪を併発したようで熱が下がらない。ここでミーナが湯気の立ち昇るカップを持って来たらフラグだなぁなんて馬鹿を考えながら考えをめぐらせる。
勿論、そんな甘い頭はしていない。そういうことは創作物の中だけで、実際には無いだろう。少なくとも共有することができたコミュニティ内でそういった事例は確認できていない。今考えると僕が持っているコミュニティはいまだ大半が元の世界の物なのだと今さらながらに感じる。もう会えない。もう話せない。もう見れない。知人の顔も薄らとしか思い出せなくなっていた。
……だめだ。風邪をひくと気が滅入るから困る。もうこっちに着てから三年も経っているというのに。もう帰れないと言うのに。
目から涙がこぼれた。思い出せばなんとなくこの世界の人に罪悪感を抱いてしまう。なんていうか、この世界の人を信頼していない様な、馴染めていない様な気がするからだ。なんていうか、まだあっちの世界に未練を持っているのかとか、この世界はお前にとって不満かとか言われそうな気がするからだ。
こんな姿はミーナに見せられないなと思う。ミーナまで不安にさせてしまう。俺は彼女の機付き整備士で、彼女の隊長なのだ。弱音を吐くわけには行かない。
幸いミーナが来るなんてフラグが立つことなく熱は下がった。猫獣人は基本的にドライだ。犬獣人は人懐っこい……らしい。なんとくそんな感じ、ぐらいだ。血液型と変わらない議論だ。
人間族、獣人族、エルフ族、ダークエルフ族、魔人族、竜人族、翼人族(鳥獣人族ではない)ドワーフ族だ。
実は鳥人族と翼人族は当人達も見分けがつかないそうで、異世界人によって別種だと判明したとか。異世界人アストン・ジョンソン編纂の『ファンタジック・クロニクル』に載っているのではこれがすべてだ。
人間族には獣人族を見下す風潮があったがアストンの人権運動によってしこりは残ったものの解消したそうだ。アストンが元の世界で何をしていたか気になる。カリスマ性があったんだろうなぁ。何故奴隷解放運動をしなかったのか気になる。獣人にも奴隷所有者がいたからか?
今まで異世界人、と呼んでいたが。世界的な功績を残した異世界人は獣人から尊敬をこめて【アストン】と呼ばれる。ノーベル賞みたいなものか?ただ蒸気機関を広めた人とスイーツを広めた人が同列なのは如何かと思うぞ?なんとなく人間臭い賞だ。
……というわけで(どういうわけだか)ミサイルを作ろう。魔導弾は媒体が無いミスリルの特性で実用化に漕ぎつけた。ミスリルを通して作られた魔術は空気中に長く存在できるのだ。それによって高速・小型・追尾能力付きの魔導弾を敵機まで飛ばせるのだ。
ちなみに、これが一流魔術師に掛かると桁が変わってくる。一番有名なものはエルフの森の大結界だ。片手間で森ごと、しかも人間の魔術師が中型で一時間保てるかと言う固さのものを数週間に渡って一人で維持するのだ。子供の頃からこれをやっていることによって近衛魔術兵が届かないレベルの魔力を実現させている。
こんな化け物級を飛行機に乗せたら空中要塞ができる。幸い、エルフは閉鎖的だからいいが……。これが軍事活用されたらあるく核爆弾だ。人間が非力で良かったなぁ。
ミサイルの場合推進魔法陣、魔力暴発制御、進行方向制御の三つの他に、自爆制御も必須だ。相手の探知を逃したらワイヤーを撒き散らしながら爆発することで少しでも撃墜の可能性を増やすのだ。
ある程度の大きさが必要だ。魔導弾発射体も広げたら直系一メートルほどの円になる。この回路を何とか小さくしたのが通常搭載の魔導弾発射体だ。ただ、大きさを大きくしただけでは他の機能が狂うので戦闘機用と小銃用しか魔導弾発射体はない。
それを入れるためのミサイル弾体だ。自由カナード翼と尾翼の組み合わせで高い耐Gを狙う。チャフも作らなきゃな。