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風と共に。  作者: フラップ
第四章 ドーナツのように
42/50

するべきことは

 白い。


 眩しい、と思った。


 白いのに、透き通っているような、


 拒絶の抜けた、白。


 瞬摘はどうなっただろうか。


 頭がガンガンと。


 響くように。


 ………………。


 そう、瞬摘。


 加速も、速度もすごかった。


 ピッチがややピーキーかな。


 後で言っておかなきゃ。


 ロールは合格点。


 あれ以上早いと寧ろ扱いずらいだろう。


 ヨーは…………。


 どう、だっただろうか。思い出せない。


 ラダーを試した瞬間、


 視界が黒く染まった。


 そのあとは、シートベルトを引っ張られたことだけ、記憶に残っている。


 何だったんだろうか……………。



 * * * *



 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 頭痛。


 手からも血が出ている。


 さっきペンを握りしめた時に切ってしまったらしい。


 視界も歪み、揺れている。


 でも、足を止めなかった。


 「はぁっ、はぁっ、……っはぁ、はぁ、はぁっ」


 遠隔操作で脱出できるようにしておけばよかったのにと、自分の一部が自嘲した。


 後ろで、遅れて何人かが走り出すのが見えた。


 煙は上がっていなかった。


 一直線にかけていたつもりだったが、やや右にずれていた。


 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」 


 走る。


 遅れて、尾翼が落ちた。


 湊は、その先。


 機体の墜落地点へ。


 左を向いて、落ちている。


 右翼が折れて、コックピットを隠していた。


 「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 見るのが怖くなった。


 幻聴。


 知り合いのパイロットの幻聴。


 『計器盤に頭ぶつけて、ほぼ丸々潰れていてなぁ。葬式もできへんかったって』


 恐怖を振り切って、ストレーキに飛びつく。


 ミーナは、計器盤にもたれ掛かるようにしてとまっていた。


 コックピットを、レバーを引いて吹き飛ばす。


 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、ミィ……」


 脈は、まだ残っていた。


 「治癒術師!」


 ただ、今は…………………。



 * * * *



 「ミナト……………」


 「ん?あぁ……、ザイルか」


 「隣、座るぞ」


 「あぁ」


 ベッドに横たえられた、飛行服のままのミーナを見る。


 あの時、咄嗟に編んだ魔法は身体強化だった。


 だからこそ、首も足ももげずに五体満足でミーナが生き残ったわけだが。


 包帯から血が滲んでいる。怪我は、深い。


 「どうだ?ミーナ中尉は」


 「見ての通りだ」


 「いや……」また、沈黙。「治癒術師はいたって聞いたが」


 「一命は………」後半になって、声が出なくなる。「目を覚ますのを待つと………」歯を食いしばる。わかってたはずだ。こうなるかもしれない事は。


 肺が小さくなったみたいだ。息が苦しい。


 「そうか」


 「もしかしたら………………」言葉が、継げなくなる。


 もしかしたら、


 もしかしたら、ミーナはもう、飛行機に乗れなくなるかもしれない。


 「なあ」


 「ん…なんだ?」突然の言葉に、少しどもる。


 「機体か?」


 唾を飲み込む。


 問われているのが、原因についてだということはすぐに察した。だが、


 何も言えない。わからない。


 「プロペラも水平尾翼も」


 「それは違う」被せるようにして言う。


 「問題が起きたのは、ヨーのテストの時だ。水平尾翼も、プロペラも関係ない」


 「まるで用意してたみたいに流暢だな」ザイルの、冷たい声。


 「ああ……………考えてたからな」


 「残骸も見ないでか?」


 「なんだ、やけに刺々しいな」少しおどけるふり。できていたかどうかは、わからない。


 「ああ」


 肯定するとは思わなかったので、少し驚く。


 「お前こそ、てっきり残骸に直行するもんだと思ってたけどな」ザイルは続ける。


 「同僚をほっとけるか」湊はそう言うが。


 ザイルはやや苛ついた様子で、湊を睨みつけた。


 「回りくどいのは面倒臭いから言うが、とっとと墜落現場に行って来い」


 「は?」


 「ミーナがどうか知らんが、俺が試験機で墜落したら俺より事故検証を優先しろ」


 絶句する。唐突で、消化できない。


 「だから、早く行って来い。お前の仕事はここにゃ無い」


 ため息をついて、考えた。考えてみれば、確かにそれが正しい。


 「ミィに拗ねられたらお前が機嫌取れよ」


 言われるがままはすこし気に食わなかったので、そんな憎まれ口を叩いて。


 湊は病室を飛び出た。

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