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風と共に。  作者: フラップ
第一章 飛行隊構築
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第一実験整備飛行隊第一実験整備飛行班

 「……名づけるとしたら……八式試作軽量戦闘機、【菊染( キクゾメ)】だな」


 湊はミーナに紹介した【菊染】に近寄る。


 燃料以外は完璧だ。軽量戦闘機、と書いたが実際には重量は増加している。だがバランスタブで舵面を弄ったので操縦性はむしろ改善している。フラップを出せば対複数でも無双出来るだろう。


 ミーナの表情は大して変わってない。でも耳がピクピク動いてるので興味があるのはよく分かる。何故この少女が湊に感情を隠そうとしているのか(ばればれだが)良く分からない。


 湊は梯子で主翼の上に登った。そして主翼の逆側にうつり、ミーナに言った。


 「説明するから来てくれ」


 「分かったわ」


 湊より数割軽い足取りで梯子を上るミーナ。


 「……で、ミィ、今回操縦系統で弄ったのはフラップとタブと引き込み脚だ」


 ミィというのはミーナの愛称だ。湊もミなので普通に呼ばれている。


 「フラップ以外は聞いた事ないけど?」


 「そりゃそうだ。この世界では俺が始めて考えたんだから」


 「ふーん?それで?」


 気のせいかミーナの声が高くなった。尻尾はズボンの中だから分からないが耳がぴくっと動いた。何でこう分かりやすいんだろう。


 「まあ、要するに軽くなったのと抵抗が減った。フラップを出したらもう無茶をしない限り失速しない」


 「フラップ?変わってないように見えるけど」


 「まあ、下げてみりゃあわかる」


 ミーナはフラップ・レバーを下げた。すると、主翼からは見えないはずのフラップがせり出てきた。


 「ファウラー・フラップ。蝶型フラップとも言うな」


 ミーナが落ちそうになった。何とか踏みとどまる。ここでフラップを踏み抜きでもしたら大変だったろう。


 「……で、具体的には?」


 「揚力は増える。着陸時に地面に下ろすのに苦労するぞ?ポーポイズになったら目も当てられんからな」


 「じゃあこれは?」


 ミーナはしゃがんでフィレットをつついた。意外と軽い音。


 「それで付け根の抵抗が二分の一にはなった」


 「そんなに!?」


 翼の付け根の抵抗と言うのは意外と大きい。それが二分の一になったと言うことは、それだけ早くなったと言える。


 「……と、言うわけで。こいつに乗ってほしい」


 「……湊は飛べないの?」


 「飛べるっちゃあ飛べんだけどな。手続きが面倒くさい」


 「……ああ、そうね。そういうところだった。ここは」


 「ミーナだったらすぐに飛行許可は取れる。所属飛行隊は第一実験整備飛行班になるけどな」


 「へえ、良いんじゃないの?」


 「ただこれまた面倒くさいことにこの飛行班は何処の飛行隊にも所属していない。ぶっちゃけ【第一実験整備飛行隊第一実験整備飛行班】になるんだ」


 「うわあ」


 「まあ、あとは書類にサインして出すだけだからな。手続きなんてわりかし簡単だ」


 湊は主翼から飛び降りた。


 「今日の午後だ」


 「分かった」


 ミーナと湊はそこで別れた。




 * * * *



  書類を飛行隊長に提出する。


 これで湊は第一実験整備飛行隊第一実験整備飛行班長になる。


 「ミナト・トオイ飛行中尉」


 「はい」


 「これにより汝を第一実験整備飛行隊第一実験整備飛行班長に任命する。飛行隊長及び飛行班長」


 「はい」


 「これにより汝を第一実験整備飛行隊第一実験整備飛行班テストパイロットに任命する。テストパイロット、ミーヤ」


 「はい」


 ミーナが返事をする。文面を無視したら結婚式みたいだ。場所と言い人と言い格好と言い雰囲気と言いすべてが間違ってると思うが。


 「以上、実験整備飛行隊第一実験整備飛行班を今日付けで結成する。まあ、がんばってくれ。期待している」


 お決まりの定例文が終わる。そんなことよりも早く戻りたいな。


 「湊は残れ」


 ミーヤが退室する。ドアにオイルを挿したほうがいいだろう。誰もそれをしないのが不思議なぐらいだ。きっと皆がそれを当たり前と認識してこうなるのだろう。


 「湊、改めておめでとう。これからどうするんだ?」


 目の前の中年の小太りの男が笑う。パーソン・ネイチャー。苗字は昔転移者につけてもらったのを代々受け継いでるらしい。


 「午後からテスト飛行です」


 「それで話があるんだ」


 意地悪そうに笑う。なんていうか、笑顔のデフォがこうなのかわざとやってるのか。良く分からないがとりあえず不利益しかなさそうだ。


 「……なんですか?」


 「司令が見に来るそうだ」


 ……なんてこった、最悪だ。軍隊で出世する人格なんて大抵決まってる。つまり、そういう人間が来るということは。


 「まあ、目を付けられないようにがんばってくれ。笑顔を忘れんなよ」


 「……」


 息を吐くのをこらえるのが精一杯だ。


 笑ってられたらな、いい。そもそも前の文と後ろの文が矛盾している。司令の前でへらへら笑ってたら目を付けられるに決まってる。


 「…………失礼します」


 息を思い切り吐く。なんかどうでもいいことなはずなのに堪えてるとしなければいけない感じがするから不思議だ。


 「湊?」


 ミーヤがドアのヒンジの脇の壁に寄りかかっていた。


 「【飛べない豚】が見に来るらしい」


 ミーナが思いっきり顔をしかめる。不機嫌であることをこの上なく表現している最高の顔だ。最良の顔ではないが。むしろ逆。


 「最悪ね」


 「最悪だ」


 「……」


 意見が一致したところでマシな事が無い。碌な事も無い。


 【飛べない豚】。今年で四人目の妻を娶ったという中年の軍人。西部飛行団長、ガレス・ナヴィー。そんなのに目を付けられたら……目も当てられない。洒落ではない。ジョークだったらそれは最悪のジョークだろう。


 ミーヤも【そういうの】には近づきたくないだろう。男の湊が近づきたくないのだ。女のミーナからしたらそういうのがこの世に存在することさえ最悪な気分だろう。


 とりあえず、飛行内容は離陸、旋回、各機能確認、ローパス、着陸に変更して初飛行は実地されることとなった。

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