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風と共に。  作者: フラップ
第四章 ドーナツのように
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会議

 飛行機の範疇に入れてよいか迷うような飛翔体が、高度9000メートルを駆けていた。


 6発のエンジンが音を立てて回っている。


 護衛戦闘機は無い。


 試験飛行に必須の追跡機すらない。


 機内のクルーたちは喜び合って手を叩く。


 試験飛行は成功。彼らは高々度飛行テストをやっている最中だった。


 窓から見える景色は普段彼らが見ているものとは違う。この星が丸いという事を、より一層強く感じさせる。


 しかし、彼らの喜びは長くは続かなかった。


 ズンという衝撃。


 彼らの意識は闇に沈んだ。


 * * * *


 「う…………」


 心地よい。朝の布団の中は死ぬほど心地よい。


 あぁ、このまま寝て過ごしてぇと思う。


 だが、非情なことに、もうそろそろ起きなければ。


 だが、彼の睡眠を邪魔するものは今日の航空博物館の予定でもモーニングコールでもなく。


 「ミナト・トオイは此処か!」


 やけに声のでかい、姿勢のいい軍人だった。


 湊は起きてその軍人を見る。


 カーキ色の軍服に、青い紋章。


 西方軍の緑色の制服とはかなり違うそれは、どうやら防衛軍総司令部の制服らしい。


 「貴様がミナト・トオイか!」


 耳が痛くなって思わず目を閉じる。


 「はい……あの、何のご用でしょうか」


 「司令だ。早急に防衛軍総司令部の中央危機管理室に来い」


 えぇー、という声を抑えて頷き、敬礼。


 なんで、こういう時に急用が入るかなぁ。



 * * * *



 嫌な気分は危機管理室に入って消え失せた。


 面々は、メイ部長と……航空界の重鎮(笑)と、カーキ色の服の軍人たち。


 場が静まる。


 入っていいものかわからなかったが、中に入る。


 沈黙の中に、足音。勿論、湊のだ。


 モーゼのように人が割れる。


 はっきり言って、気持ちが悪い。


 中央のテーブルには、何やら灰色と黒の絵画。


 よく見ると、航空機の残骸であることがわかる。


 「今朝、高速飛龍隊で来た写真だ」


 目の前の禿を見る。机にどっぷりと座っている。


 「あ、どうも」


 生返事をして、もう一度恐る恐る見上げる。


 「今朝、高速飛龍隊で来た写真だ。トオイ・ミナト中尉?」


 「…………あのぉ、もしかしてあなたは……」


 その禿は少し笑って答えた。


 「ソトル・ウィチ・シーシャルだ。いや、すまないね。中尉様から比べるとお恥ずかしい限りだが、私のようなものは防衛軍統合総司令程度の位しか貰えないようでね」笑いをこらえた顔。


 「どうも、すいませんでしたぁ!」


 「まあ、いい。不問にする。今はそんなことはどうでもいい」一度行って、ソトルは真っ直ぐ湊の目を見た。「高度一万メートルまで、早急に飛べるようにしてほしい」


 「…………は?」


 一万メートル。現代の航空機では、とても登れない。


 「えーと、一万、とおっしゃいました?」


 「あぁ。一万メートルだ。高度一万メートル」


 菊染でも確か8000メートル。未だに小型機などは木製羽布張りのものもある。


 一万メートルを頭の中に書き出す。パラグライダーで到達した記録と、8000メートルを飛んだ鳥。ジェット旅客機も大体そこらへんだ。


 高度一万メートルに到達する“だけ”ならそんなに難しいことではない。しかし……


 「武装は?仮想敵は何です?」


 兵器を作る上で、仮想敵という存在は重要だ。『ぼくのかんがえたさいきょうのせんとうき』では意味がない。


 「それだよ、それ」禿……もとい、ソトルは机の上の写真を指す。「こちらでは、エンジン六発の爆撃機だと見ている」


 「大きさは?」


 「大体、60メートル」そう言ってから、ソトルは非常に困った顔をした。「胴体が無いんだ」


 「ええ。無いですね」湊は実にあっさりと答えた。


 「……話を聞いているか?あるはずの胴体が、無いんだ」


 「いや、胴体ならあるじゃないですか」湊は写真を指した。


 「……ないだろう」


 「胴体というか……中央構造体ですね。主翼の桁だけ中央部まで伸ばして、そこに胴体を作ってます」


 「……いや、やはり主翼だけに見えるが……」


 「この世界には無いですが、全翼機と言うやつです。英語だとフライング・ウィングですね」


 全翼機。尾翼や胴体が付いている飛行機を見て、翼だけだったらもっとよく飛べんじゃね?と思った変た………もとい、発想力豊かな方々が作った飛行機だ。


 文字通り、機体はでかい主翼一枚。主翼の後ろ縁にエンジンが六つ付いている。


 「…………で、どうして一万メートルなんですか?」


 「こいつは、どうも一万メートル上空を飛んでいたらしい」


 「なぜそう思うんですか?」


 「………緑の契からの通達だ。奴さんも、結界よりも上を飛ばれて焦ってる…………おい、あれをもってこい」ソトルは隣の、髪が生えている将校に指示を出す。


 将校が持ってきたそれは、非常に達筆な字で書かれていた。物凄く読み難い。


 「えーと、なんて書いてあるんですか?」読めない。


 「邀撃可能高度を超えられたから、力を貸してほしい、という事らしい」


 「エルフが人間に?」信じ難い。


 エルフは排他的な所がある。実際のところ、貿易はするし許可があれば里に入れるしでそこまで排他的な訳ではない。


 しかし、これが国防や政治の話になると話が変わってくる。長老会議は世襲制で、兵士の使う武器も全てエルフが生産している。


 唯一の例外が緑の契だ。準会員になら人間でもなれるし、武器もドワーフ製のものが多い。だがそれにしても『力を貸してほしい』というのは何か裏があるのではないかと疑ってしまう。


 「こちら側の駐在員の話だが、安全だと思っていた場所が安全ではないと知ってパニックを起こしているらしい」


 「ロンドン爆撃かよ……」


 「ロンドン?」


 「似たような事例が元いた世界でもあったんですよ」


 ロンドン爆撃。第一次世界大戦の、ドイツによるロンドン爆撃のことである。戦争は本国とは離れたところで行われていると思っていたロンドン市民を恐怖させたらしい。


 「空襲の心理的効果は馬鹿にできません。エルフが怯えているのも無理は無いでしょう」


 安全だと思っていた場所がある日突然危険になる。“日常”が一瞬で………場合によっては自分ごと地球上から消え去るのだ。


 馬鹿にならない魔力量を誇る。そのエルフでも即座に航空爆弾に耐えうる程の結界を構築するのは難しい。


 一時期、爆撃機に結界を張れば無敵だ、という意見があったらしい。超音速の魔導弾を弾ける程の結界を張るのは無理があったようだが。


 エルフの結界だって万全ではない。完璧に何も通さないならエルフの森に天気は存在しないはずだ。あれはむしろ、破れなくは無いが破ったら覚悟しろという通関のようなものだ。突如降ってくる爆弾を防ぐのは無理に近い。


 「………で、考え事を中断させるようで悪いが、早急に一万メートルでの迎撃が可能な戦闘機を作って欲しい」

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