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風と共に。  作者: フラップ
第四章 ドーナツのように
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出張いってきます

 「……という事で、ちょっと出張して来るので経費宜しく」


 ネイチャーは頭を抱えた。これだから転移者は……。


 「……要するに、暗殺警戒C+級の技術者が教え子で、そのツテで軍事機密の塊に突っ込んでくると」


 間違っても零細試験飛行隊の若造が入っていい場所ではない。平時の空軍総司令が暗殺警戒D級、戦争時の統合司令がA級である。装甲車のようなリムジンで対爆本社ビルの地下室に出勤するような身分の人間に、何時でも会いますと言われているのである。


 「………わかった。もういろいろと諦めたからな」ため息をついて、言う。「無駄使いしたら自腹だ」


 言ってはみたものの。何処か小物臭がある湊が横領などという大それたことを出来るわけがないという予測もある。


 根本的にヘタレなくせに、所々突き抜けて英断を下す目の前の男の性格を、ネイチャーはよく知っていた。


 例としては、味方方向にミサイルを撃ったり、旧式機を大改造したり、豚を押し付けたり、他にも…豚を押し付けたり……。


 「ネイチャー、変なオーラ出てる、変なオーラ出てる!」


 湊の元いた世界ならオーラどうこうで何か起こったりはしないが。人間がナニカになったりもするのである。


 「定期便があるサスラ市民飛行場までは自分でいけ」


 「サー、イエッ、サー」


 書類に落としていた視線を少し上げて睨むと、慌てて退出していった。巫山戯た奴である。


 ………あの飛行隊は様々な面で異色だ。


 まず、パイロットの絶対数が少ない割に、パイロットの割合は100%だ。これは異常という他ない。整備士は一人でパイロット三人。湊が休めば飛行隊は停止す……あ。


 湊の奴、仕事を押し付けやがった…。


 手が空いてそうな整備士をピックアップしながら、ふと考える。人員を増やすべきかもしれない。


 丁度いい。誰を異動にするか考える。


 それから、技術者を数人つけるべきかもしれない。しかし、それは彼の手の回る領分ではない。



 ミーナに(マザー)で送ってもらう。流石に(はは)は嫌だと言われたのだ。


 燃料は往復分摘んであるので少し重い。液化魔素は基本的に官製の方が安い。液化魔素は民生品だと精度にばらつきがある。レイオネード石油化学がレースチームに供給している【フューエル・ハイ4】が今のところ最高純度だろうか。


 前席のミーナはヘルメットをしていない。そこら辺の裁量は飛行隊帳に任されている。基本的に個性が強く出るという事だが、今のところ特に湊っぽい飛行隊にはなっていない。


 ヘルメットは獣人用の物がある。しかし、強く衝撃を受けた時に耳が千切れるという事故が起きて以来、ヘルメットを付けなかったり、耳のところに大きく穴をあけたヘルメットを使っていたりというパイロットが多い。


 もっと始末に困るのが座席だ。ズボンに隠している者もいるぐらいで、大丈夫そうな気もするが。背もたれの腰の部分に窪みを作っていることが多い。


 …………そういえばおっさんが機銃座が狭いって言ってたな……いや、あれはただ単に太いだけだろう。ダイエットしろ。


 …………そういえばあの爆撃機の乗員達って女性率が高いな……いや、あれは偶然そうなったんだろう。基本的に一人乗りの俺らには関係ないか。


 飛行場が近付いてくる。飛行場と言ってもただの草原である。一応、東西に滑走路が伸びていることになっている。恐らく、石とかを取り除いたのがそこなのだろう。


 失速ギリギリの旋回。ミーナの操縦する機体に乗ったのは初めてだが、こんな際どいことをしてるのか。


 着陸自体はスムーズ。左手に旅客機。やや懐かしさを感じる。秋の沖縄で見た双発のコミューター機に似ていたのだ。


 箱形の胴体。高翼、双発。


 耳に弟のはしゃぐ声が聞こえた気がした。俺は死んだことになってるだろうか……。


 スポットに入って、エンジンを止める。流石、航空団のネームバリューはあるようで、定期便の隣の、小型機用の中では一番建物に近いスポットだった。


 キャノピーを横に開ける。前席と一体のため、すごく重い。


 「ありがと、ミィ」


 「えぇ」


 久々に対応が柔らかいミーナを見た気がする。そういえば他の人がいつもいた。慣れた人だけとっていう状況はあまりなかったからな。


 そんな警戒していて疲れないのかとも思ったが。猫獣人に共通する現象らしい。


 ヘルメットを後席のシートベルトに繋いで主翼から飛び降りる。


 煙管を取り出しながら、ターミナルビルに向かう。ターミナルビルと言っても、矢倉(やぐら)や見張り台のような管制塔と山小屋のような待合室があるだけだ。双発旅客機の間を、ベルとメガフォン、旗をもった空港誘導員が走り回っている。


 地方空港と言えばそれまでだが、どこかほのぼのとしか雰囲気を感じさせる情景。セピア色のフィルムの中でしか見たことのなかった世界がそこにある。


 ……排気が紫がかっていたり、走り回っている誘導員が自転車に乗っていなかったら、だが。


 滑走路の端っこには、穴だらけになった双発機が放置されていた。どうも、台風か魔力風の被害にあったらしい。


 チケットを買って、ベンチに座る。あと3時間45分後に一機ある。


 さて、時間ができたな……。

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