重鎮VS若造!激闘とトイレット・レポート
講堂の重いドアを開けるとそこは戦場だった。
怒鳴り合ってる……もとい、激しい、つまりはエキサイティングな議論をしているのは航空業界の重鎮と……大学生だろうか、見たことない男だった。
それを横目で見ながら俺……チャフ・カイリエフは席に着いた。時間まではまだあるにもかかわらず、もうすでに議論を始めているのだろうか。
「だからMAC(※空力中心。空力学的な重心)に重心が近い方がいいと言っているだろ!」
「はっ!機動性の高い機体でフラットスピンに入って墜ちるか!?」
「CCVを取り入ればいいだろっ」
「クレイジィなパイロットの事か?」
笑い声が漏れる。勿論俺からではなく、重鎮の中からだ。
「翼面荷重(※翼の大きさあたりの機体重量)を上げると……」
「速度が落ちる」
「抵抗を減らせば……」
「どうやってだ?9年前にデイビットが作ったグライダーよりも抵抗が低い物を作れるとでもいうのか?」
「作れるだろうがっ!重鎮が尻込んでどうする!」
重鎮の顔色が変わる。…………明らかに男より階級が上の士官が混じってないか?
閃光みたいに短い沈黙の後、バケツをひっくり返したように罵声が飛ぶ。
男がたじろいだ瞬間、馬鹿でかい音のチャイムが鳴る。部屋の端にいた教師が慌てて音響室に入ってく。
だがまあ、なんとか授業が始まりそうではある。
「あー、先に言っておく。授業に成ならないかもしれない。あとでレポートを出すこと。トイレットペーパーじゃなければ【可】だ」
なんだかよくわからないジョークで締めくくられる。トイレットペーパーにみっちりとレポートを書いて提出することに決めた。
直後、ダムが決壊した。空気振動がステージになだれ込む。半ば不快音のような叫びがスピーカーから飛び出てくる。
「右から言いやがれこの大馬鹿野郎どもが!」
「何だと?」
「自分に言ってるのか若造!」
確かに授業に成っていない。罵声を上げている中に自分の指導教官を見つけ、俺は肩を落とす。
むしろ、教育上宜しく無さそうだ。頭が悪くなりそう。
* * *
結局、授業に成らなかった。
俺はトイレットペーパーに、
「こうくうぎょうかいの じゅうちんは よそうがいに ばかだった」
と書いて提出した。帰ってきたレポートには秀の評価がついていた。




