転移者
ミーナは格納庫に近づいていた。そこの所有者は湊。転移者と言われる特別な技能や知識を持った人々。ミーナの愛機の整備士。
種族的には何も変わらないらしい。転移者の医者が昔解剖したらしい。
そんなことはどうでもいいけど、湊が今何をしているのか気になった。腕はいいのに、少しこういう意地悪なところがある。いつもは澄ました顔をしてるくせにこういう時は片方を吊り上げてガキみたいに笑う。
それと湊は猫獣人並に夜に強い。私は猫獣人。耳と尻尾がある。耳はよく聞こえる。身体能力も高い。でも今は殆ど関係ない。
飛行機に乗ってる。湊は航空祭の時に効率が悪いと基地司令の前で言っちゃって整備士になった人。難しい事は分からないけど今機体の調子はいい。
もうすぐ夜明け。
格納庫の前にたった時いきなりシャッタが開いた。
急いで建物の影に隠れる。湊が出てきた。あくびしている。徹夜して欠伸一つとは人間族としては凄い部類に入る。
格納庫の中を見たいけど湊に見つからないためにも我慢。好奇心と言うらしい。猫は好奇心が強いからなぁと湊が言っていた。よく分からない。
日がのぼってきた。ミーナはあくまで散歩中を装って格納庫の前に歩いていった。今すぐにでも見たいけど我慢。そうしたらばれちゃうかも。
湊がこちらに気付いた。
「ミーナか、今日は我慢強かったな。でも朝に弱いお前が散歩なんてするか?」
……ばれてた。悔しい。湊は例の顔をして笑った。悔しい。
「はぁ、敵わないわね。で、何作ってたの?」
こういうときは素直に認めてしまったほうがいい。素直に認めないとそこを湊がつつくのを知っている。完璧主義者なのかな?違うと思う。
「ああ、それで話があるんだ」
「何?」
なんだか何が多い気がする。私は湊について知らなすぎる。秘密主義者なのかな?違うと思う。
「これに乗って飛んでみてほしい」
会話で忘れていた湊が作っていたものに目を向ける。カウルが外されて魔導発動機がむき出しになったスクリプト。でもどこか違う。主脚カバーも外されてる。
「カウルは?主脚カバーも無いけど」
「カウルはブレークインのため、カバーは引き込み式だからだ。」
「引き込み?」
引き込む?主脚を?そんな強度が保てるのかな?
「ああ、フィレットのフレームでトラスになってるから強度は十分、フラップは後縁だから関係ない」
「フィレット?トラス?」
「……まあ、みりゃあわかる」
昨日も聞いた台詞。でも好奇心が勝って付いて行く。
そこには、付け足した部品で少しは大きくなってるはずだけど美しく引き締まったシルエットの機体があった。
「……名づけるとしたら……八式試作軽量戦闘機、【菊染】だな」