おまけ:【パイオニア】デイビット
15000pv記念です!
皆さんありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
では、お楽しみください。
口にくわえた煙草を放し、煙を吐く。
目の前には、今しがた飛行を終えた小型飛行機が佇んでいる。
目立ちやすいように、黄色い色を塗った。稲妻を模した黒いストライプ。
彼が好きだった飛行機がある。しかし、今彼の前にあるのはその飛行機ではない。
彼は飛ぶことが大好きだった。愛していた。それも戦闘機のように荒々しく飛ぶのではなく、優雅に。
Foxグライダーを徹底的に軽量化した愛機の姿を思い浮かべる。優雅に彼をそれに誘ってくれた、軽く、美しい機体。
思い出すのはすべて地上にたたずむ愛機だ。当たり前だろう。飛ぶときは自分はその中にいる。
目の前にあるのは、それとは比べられないくらいに重い。
J-3パイパーカブは彼の妻が愛した機体だ。彼女に牽引してもらって離陸していた『前の世界での出来事』を思い出す。
俺はもうそこにはいない。デイビッド・ターナーは、もう20年前に消えた。それを思い出し、今更ながらに悲しく感じる。
1年で、持ち前の行動力で生活基盤を整えた。
2年で、田舎に家を持った。
5年で、工作機械を買い漁った。
そのころには彼はもう我慢しきれなかった。ひとまずハンググライダーだけ作って飛んだ。ほんの少しだけだが、気が晴れた。
高台から滑空して、宙返りもした。それを見つけた軍事関係者から資金も出された。
彼は空に固執していた。
この物語のような世界の中で、彼は先進しすぎた技術を開発した。だが、彼はそんなことは気にしなかった。
純粋に、空が好きなのだ、彼は。
パイパー・カブを格納庫に入れる。その隣には、彼の愛した愛機が。
その主翼に埃がついているの発見し、清潔で滑らかな布でそっと拭う。
転移と言っていいのかわからないが、彼がその世界に着陸した後。必死になってその機体を隠した。
冒険者になって、一か月に一度はそのカモフラージュしたところに赴いた。
砂漠。その中に、簡易的な屋根と、シートだけで隠した機体が傷まないかが心配だったが……。飛行機を保管するには、乾燥した砂漠は最適だった。
その美しい主翼を撫でる。
ターナーは妻の性だ。今は名乗らなくても誰も咎めない。だが彼は今でも姓を名乗る。
後に〈飛行機の父〉と呼ばれるデイビット。蹂躙戦争になりかけた獣人族対人族の戦争を覆したのも、デイビッドだった。
飛行機の技術を持ち込んだデイビッドを、獣人族は迎え入れ、デイビッド設計の爆撃機によって戦況は逆転したという。
戦況逆転後、爆撃機の半数を爆破したデイビット。なぜそんなことをしたと問い詰める軍人に、彼はこう返したという。
『これで航空戦力は半々だな』
と。
およそ60年後の事だが、アストンは彼に賞賛を送った。獣人のみに味方したり、人族のみに味方したりする異世界人たちの中で、彼のみが平等だったと。
『私はこの愛すべき世界の天秤を乱してはいけない』と、アストンは溢したという。それは獣人たちに味方したアストンの、僅かばかりの、選択を誤ったかもしれないという不安から出た言葉だったのかもしれない。
デイビットは異世界の技術で、異世界版セスナとも言うべき軽飛行機を量産する。
これによって飛行機は民間にも普及した。
『パイオニア』。そう呼ばれた。だがこの機体には〈本当の名前〉があった。
それは、彼の妻の名前だった。しかし、それを知っている人間は誰一人としていない。
30年後、彼が暗殺されたからだ。
技術には影がある。
技術に罪はない。
この後、遠井湊がこの世界に現れる。彼はこの後、どんな人生を進むのか。
……………この下は読まなくていいです。
デイビットはデビット(カード)からきているのは秘密。




