成功
『発射5秒前、5…4…3…2…1…発射!』
編隊を組んでいた左前方の『母』が揺れる。ミサイルが尾を引きながら伸びてゆく。
一秒後、誘導を開始する筈だ。
一秒が長い。空中できりきり舞いするのではないか、と疑う。
次の瞬間、ミサイルの軌跡はカクッとその向きを変えた。
白い筋が吸い込まれてゆく。
あっという間に見えなくなる。
空間を、不気味な沈黙が包み込む。
『き、来よった来よった来よった来よったぁ、わぁぁぁぁぁぁぁ!』
「おい!大丈夫か?」
嫌な想像が頭を擡げる。
スロットルレバーに手をかけた。
「ミィ、いく━━━━━」
『ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、だ、大丈夫や。死ぬかと思ったでぇ』
ミーナへの指示を遮り、やけに憔悴したおっさんの声が聞こえる。
一瞬、二つの可能性を思い浮かべる。
・おっさんが驚いてうっかり自爆ボタンを押してしまった
・命中した
命中が一番目であるのは言わずもがなである。あのおっさん、近頃の鈍感係主人公とは違った頼りなさがある。褒め言葉ではない。
『め、命中や!チャンと当たったで!』
もうこれはいやや、と繋げるおっさん。
「OK。帰投しよう」
三機で翼を連ねる。今回は結構基地に近いところでやった。空域の使用許可が出たのだ。
* * * *
「死ぬかと思ったで」
「何時ものことだし?」
おっさんをカイが宥める………と言うよりいなす。何時も死にそうになるらしい。
お留守番(という名の放置)だったネイアとザイルが寄ってくる。ミサイルが左主翼に突き刺さったグライダーを見て顔を引き攣らせていた。
問題はコストだ。いちいち湊が手作りしていたのでは金がかかりすぎる。いくら魔導弾の十倍の射程で、二倍の速度だとしてもこのままでは高すぎる。
ミサイルの弾頭やフィンはスライム樹脂だ。これは簡単に成形できるが、誘導装置、推進装置はそうはいかない。鋳型から抜き出さなければいけない。だがこれは三次元で入り組んでいて、今のところ鋳型では抜き出せそうではない。
「湊」
「ん?」
「この人数がいる。活用したら?」
要するに、手持無沙汰だから何か考えさせろ、というわけだ。
「コホン。えー、この装置……魔導回路の量産方法を考えている。素材は普通の魔力を通した金属なら大抵の物は大丈夫だ。魔導弾発射体並に複雑。うまい作り方を考えている」
あたりを沈黙がつつむ。まあ、エンジニアではない飛行兵たちだ。期待しない方がいいか……?
「あ~、いい?」
「ん、カイか」
チャらい感じであまり賢そうな感じはしない。
「魔導弾並に複雑なんだよな」
「ああ」
「その作り方真似りゃいんじゃね?」
「……あ……」
よくよく考えたら単純なことであった。
微妙な視線が湊に突き刺さった。
結構、きつい体験だった、とだけ言えよう。




