改良
完成したミサイルは、シルエットこそプロトタイプ一号に似ていたが、中身は別物だった。
弾頭のフィンは前後にずらされていた。後部にはロール軸を制御するための舵面が付け足された。前方が軽くなった分と安全用に火薬を減らしたことで大分重心が後ろにずれてしまった。今回はおもりを積むが量産でそうするわけにはいかない。
小型化するのが一番だが、ミサイルの直径はほぼそのまま推進魔法陣の直径だ。魔法陣の構築はフラクタル図形の制作に似ている。一見難しそうだが、設計は単純作業の繰り返しなのだ。電卓がないこの世界、計算尺の使い方を一から覚えた。工業学校では計算尺、商業学校では算盤が必修科目らしい。ゴーレムなんかの低知能生物が作れてコンピューターが作れないとはさすがファンタジィ。
実戦配備までまだ時間がある。それどころか予定さえ決まっていない。たぶん大丈夫だろう。
「湊!」
ミーナの鋭い声が聞こえた。
「どうした?」
返事はない。一瞬、不気味な沈黙がシェルターを包む。港はミサイルを残して階段を駆け上がる。
嫌な想像が頭を過った。軍基地とはいえ、警備が完璧なわけではない。
「どうした?!」
半ば叫ぶように問う。動いているせいであまり大きな声が出なかった。
「おいおい、その反応は傷つくぞ」
男の声。
……あれ?どこかで聞いた気が……。
少し、走る速度を落とす。ドアを開けて格納庫内に入る。
「こんにちは。今日配属のザイル・イーラ少尉だ」
「同じく、ネイア・レイズ少尉」
二人の男がこちらにあいさつした。ザイルの野太い声に比べ、ネイアの声はやや高めだ。
ミーナはその二人を睨みつけている。確実に敵認定だ。何があったんだ?
……あ、そうだ。
こいつ等、ミーナにセクハラした二人組だ。
「湊、これは……」
「明らかに、異動してきた奴ら、……だろうなぁ」
「いや、前、お前に叩き潰されただろう?」
「それで、左遷?されたっていうか……」
「よく、堂々と左遷と言えるわね」
ミーナが大分きつい口調で言い放った。ミーナは中尉だったな。飛行中尉だけど。
完全に敵認定されている。たぶん、5m以内に入ったら射殺されるな。最近は格納庫内で銃は持ち歩いていなかったんだが……また携行することになりそうだ。
「まあまあ、とりあえずよろしく」
何だか声の高い方に違和感を感じる。
「そうなるな。よろしく頼む」
向こうがファイルを渡してきた。個人のデータ・ファイルだ。
ざっとななめ読みする。
ザイル イーラ 中尉(飛) 19歳(男)
ネイア・ルイズ 中尉(飛) 18歳(女)
「……女だったんだ?」
「それはセクハラ?」
……男勝りというか、等号で結べそうだ。




